安保法案:理解得られず、任務果たせぬ 元イラク派遣隊員
毎日新聞 2015年07月15日 13時40分(最終更新 07月15日 14時17分)
政府が15日にも衆院特別委での採決に踏み切る安全保障関連法案。自衛隊の活動範囲は今まで以上に拡大され、武器使用など危険な場面も予想される。イラク派遣の経験を持つ50代の元陸上自衛官は「任務に向かう隊員の気持ちの支えは、国民の支持。国民の多くの理解が得られない中での採決は、新たな任務を課される隊員のことを思うと残念」と心境を話す。
中学卒業後、入隊し、近畿や北海道の駐屯地で約40年間勤務した。陸上自衛隊は2004〜06年、人道復興支援活動として、隊員をイラクに派遣。元自衛官もその一員に加わった。世論は賛否で二分され、日本を出発する空港に向かうバスの車窓から「派兵反対」のプラカードが見えた。当時階級は3佐で多くの部下がいた。「国民の大多数は自衛隊を応援している」と言って隊員を励ましたが、内心は複雑だった。
3カ月間、活動したイラク南部のサマワは「非戦闘地域」とされた。だが、元自衛官は「万が一、隊員が亡くなった場合にどう対処するか、部下と検討した」と明かす。「国際貢献をしているという充実感があった」。一方で、宿営地の近くに迫撃砲が撃ち込まれることもあった。帰国後に自殺した隊員もいた。元自衛官は「ストレスを感じていた隊員もいたかもしれない」と話す。
今回の安保法案が成立すれば、自衛隊の活動範囲は広がる。隊員のリスクは増えるが、元自衛官は「たとえ危険な任務でも、それが国益にかなうなら、命をかけるのが自衛官の仕事だ」と指摘する。
だが、そうした犠牲を払ってでも、新たな法整備が必要なのか。「政府の説明では、国民に理解は広がらないでしょう。政府の危機感が国民に伝わらない」
多くの憲法学者が今回の法案を「違憲」と指摘したことも気にかかる。「集団的自衛権を認めるなら、やっぱり憲法を変えるしかないんでしょう。そもそも今の憲法で自衛隊は合憲なのか。時間を区切って強引にやる話じゃない」【遠藤孝康】