社説:安保転換を問う きょう採決 歴史に責任負えるのか

毎日新聞 2015年07月15日 02時35分

 安全保障関連法案をめぐり国会が重大な局面を迎えている。衆院平和安全法制特別委員会の浜田靖一委員長は15日に採決に踏み切ることを職権で決めた。反発する野党側と与党の対立が強まっている。

 審議すればするほど法案への疑問が深まる中での採決方針だが、有力閣僚からさえ国民の理解を危ぶむ声がこの段階で出ている。安倍晋三首相はこの事態をどう受け止めるのか。とても採決の機が熟した状況とは言えまい。

 重い指摘である。石破茂地方創生担当相は14日の記者会見で各種世論調査を引き合いに「国民理解が進んできたと言い切れる自信がない」と語った。

 毎日新聞の世論調査では81%が法案の「説明が不十分」だと答えている。法案の採決が迫る中で、石破氏はあえて、そんな状況を率直に認めたといえる。

 自民党前幹事長で安保政策通で知られる石破氏から国民理解への懸念が示された。にもかかわらず、政府・与党からは採決の機は熟したとの発言が相次ぐ。首相は「私も丁寧に説明し、理解は進んできた」と語り、菅義偉官房長官は「いつまでもだらだらやるべきではない」と言う。

 谷垣禎一幹事長は「賛成と反対の視点が固まっていれば、(審議は)同じことの繰り返しになる」と語った。もはや説明は無意味だと言わんばかりである。だが、本当は石破氏の発言通り、政権全体が「自信がない」まま、成立ありきで進もうとしているのではないか。

 衆院での審議時間の目安を80時間とし、110時間を超えたことで採決を正当化するような与党内の理屈も根拠に乏しい。「80時間説」は国連平和維持活動(PKO)協力法の87時間を念頭に置いたものだが、今回は40年以上続いた憲法解釈を変更し、憲法学者の大半が違憲と指摘する法案だ。しかも2法案のうち一つは10法の改正案をたばねたものだ。他の法案と同列には論じられない。

 与党は野党で対案を提出した維新の党と2度目の修正協議を行ったが物別れに終わった。野党と一致点を真剣に探るのであれば、野党案も衆院で徹底審議すべきだった。

 与党が採決を急ぐ一方で、法案成立に反対する声も広がっている。14日夕に東京・日比谷で行われた反対集会は大勢の人たちで埋め尽くされた。地方議会も14日現在で405通の法案に関する意見書を採択したが、大半は法案に反対したり、慎重審議を求めたりする内容である。

 首相は歴史に責任を負えるのか。国会に汚点を残してはならない。

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