どんな専制政治でも世論の支えなしには立ちゆかない――。以前にも引用した18世紀英国の哲学者ヒュームの洞察である。独裁が長く続くとしても永遠ではない。人心が本当に離れれば権勢は失墜する▼確かに世論の力は恐ろしい。一時期、日本の首相がほぼ1年ごとに交代したのも結局は有権者の離反によってだった。内閣支持率の数字に一喜一憂し、翻弄(ほんろう)される。「世論調査政治」という、ありがたくない命名もなされたほどだ▼「国民と呼吸しながらやっていく」。安倍「1強」政権を支える菅官房長官の持論である。世論に細かく気を配るという意味だろう。昨年10月の本紙別刷りグローブのインタビューでも、「国民の感触を確かめながら進めるべきだ」と話していた▼教育基本法の改正など、「安倍カラー」の打ち出しに性急だった第1次政権の反省があった。再登板後、しばらくは経済優先の安全運転を試みたことは間違いない。民意も好意的に推移した。しかし今や、その抑制は見る影もない▼本紙の最新の世論調査では、安倍内閣の不支持率が支持率を上回った。安保関連法案には過半数が反対し、新国立競技場の計画通りの建設には7割がノーだ。他メディアの調査にも似た傾向が見える。菅氏の言う国民との呼吸が失調をきたし始めている▼安倍首相以下、安保も競技場もここまで来たら「千万人といえどもわれゆかん」の心境なのだろうか。信念があれば多くの批判は覚悟の上、と。政権は分かれ道の前にいる。
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