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【社説】

「違憲」安保法制 「理解せよ」と迫る傲慢

 憲法違反と指摘される安全保障法制関連法案を理解しろと言われても、そもそも無理な話だ。安倍政権は、国民の理解が深まったとして採決を強行しようとするが、あまりにも傲慢(ごうまん)ではないのか。

 審議時間は百時間を超え、中央公聴会で与野党がそれぞれ推薦した有識者から意見も聞いた。安倍内閣が提出した安全保障法制関連法案の今国会成立を目指す与党としては、委員会採決の環境が整ったということなのだろう。

 衆院特別委員会は理事会で、安保法案の締めくくり総括質疑と採決をきょう行うことを、委員長職権で決めた。与党側は、早ければ十六日の衆院本会議で法案を可決し、参院に送付したい考えのようだ。

 安倍晋三首相(自民党総裁)は十三日の党役員会で「私も丁寧に説明してきて理解が進んできたと思う」、菅義偉官房長官もきのう「いつまでもダラダラとやるべきでない。決めるときには決めることが必要だ」と述べた。

 しかし、報道各社の世論調査を見ると、首相が述べたように「理解が進んできた」とは言い難い。

 共同通信社が六月下旬に行った全国電話世論調査によると、安保法案が「憲法に違反していると思う」との答えは56・7%に上る。法案に「反対」は五月の前回調査から11・1ポイント上昇して58・7%、今国会成立に「反対」も8ポイント増の63・1%に達する。

 今月に入って報道各社が相次いで行った世論調査でも、同じ傾向の調査結果が出ている。

 歴代内閣が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使に一転、道を開き、海外で戦闘に巻き込まれる危険性を高めるなど、戦後日本の専守防衛政策を根本から変質させる安保法案である。

 憲法学者の多くが違憲と断じたにもかかわらず、法案を合憲だとして押し切ろうとする政府・与党と、「違憲」立法を認めない国民との乖離(かいり)は広がるばかりだ。

 閣内からはようやく「国民の理解は世論調査の通り、まだ進んでいるとは言えない」(石破茂地方創生担当相)「世論調査などを見ると、説明が十分だという理解は進んでいない」(塩崎恭久厚生労働相)との意見が出始めた。

 遅きに失した感はあるが、閣内から採決強行への慎重論が出た今こそ、法案撤回・廃案の潮時ではないか。法案への国民の理解が進まないのは、説明が足りないからではない。理解しがたい内容だからだと警鐘を鳴らしておきたい。

 

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