安保法案:自公地方議員も疑問
毎日新聞 2015年07月14日 23時27分(最終更新 07月15日 05時59分)
◇反対・慎重意見書 114議会で同調
安全保障関連法案や集団的自衛権の行使容認に反対する(廃案要求を含む)、もしくは慎重な審議を求める意見書が393の都道府県・市区町村議会で可決され、その少なくとも約4分の1の114議会で自民・公明両党系の議員が意見書に賛成していたことが分かった。成立を目指す政府・与党と、与党系地方議員の意識のずれが浮かんだ。
衆院事務局の資料と毎日新聞の調べによると2013年3月〜今年7月14日、安保法案や集団的自衛権行使容認を巡る意見書が405議会から衆院に提出された。内訳は「反対」「慎重審議」が393議会、「賛成」「不明」が12議会。
毎日新聞は、党派会派別の賛否を調べるためこれらの議会事務局を取材し、76%の309議会から回答を得た。意見書の内訳は「反対」169、「慎重審議」136、「賛成」4議会。
「反対」「慎重審議」のうち、114議会で与党系議員が賛成していた。自民党支持の無所属議員を自民に算入しない事務局もあり、実際にはもっと多いとみられる。「反対」169議会でも39議会で与党系議員が賛成した。
各地の意見書の内容を見ると、「反対」には「国民を外国の戦争に駆り立てる安全保障関連法の推進をただちに中止し、憲法に基づき武力によらない外交を推し進める」(岡山県和気町議会)から、「安全保障法制の見直しを今国会で成立させないよう求める」(三重県亀山市)まで厳しさに幅がある。
「慎重審議」にも、「専守防衛に徹する観点から集団的自衛権は容認できない」(北海道赤平市)など実質的に反対する内容もある。
一方、安保法制の早期成立を促す賛成の意見書は最近になって出始めた。
東京都多摩地域の日野、町田、八王子、調布、三鷹5市議会は6月、ほぼ同じ文面の賛成意見書をそろって可決。
長崎、秋田、山口県議会でも相次ぎ賛成意見書を可決した。全国の自治体議会数は現在1788。
◇「村でも犠牲者の遺族がいる」
「戦争につながる」「憲法違反だ」。自民・公明両党系の地方議員たちが、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案に対して「待った」の声を上げている。だが、安倍晋三首相は成立を目指して突き進み、地方の仲間の声に耳を傾ける姿勢はみられない。
長野県喬木(たかぎ)村議会は6月、護憲派市民団体「喬木村9条の会」の出した意見書を1票差で可決した。法案に反対するとともに、安倍首相の「夏までに成立させる」という4月の米議会での発言を撤回するよう求めている。「発言撤回」には一部議員が反発したが、法案自体には「違憲とする学者が多い」と全員が反対している。
自民系で、賛成した森谷博之議員は「法案が成立すると戦争につながる恐れがある」、反対に回った下岡幸文議員は「政府は違憲の声が多い法案を出すべきではない」と、ともに法案を批判する。
長野県では戦時中、国の「満蒙開拓団」の呼び掛けで全国最多の約3万3000人が中国東北部へ渡り、飢餓などで約1万5000人が亡くなった。森谷氏は「村にも犠牲者の遺族がいる。支持者に聞いても法案への反対が多い」と話す。
廃案を求める意見書を1票差で可決した高知県本山町は、米軍機の飛行訓練ルート直下にある。1994年には町内のダムで低空飛行訓練中の米軍機の墜落事故が発生した。岩本誠生(せいき)議長は「恐怖感が戦争と結び付いて可決につながった」と話す。町が属している衆院高知1区は中谷元・防衛相の地盤だ。
慎重な審議を求める意見書を可決した鳥取県議会。自民の内田隆嗣県議は提案理由の説明で、安保法制の必要性を認めつつ「政府の説明が不十分だとの世論調査の意見がある」と述べた。【湯浅聖一、真下信幸、上野宏人】
◇地方の意思表示に圧力「国会議員がいろいろ言ってきた」
政府による昨年7月の集団的自衛権行使容認には意思表示し、今回の安保法案では沈黙する議会もあり、自民党が批判的な意見書を可決させまいと圧力をかけたとみられるケースもある。
愛知県の武豊町議会は昨年6月、行使容認の前提となる憲法解釈変更に反対する意見書を可決した。ところが今年の安保法制を巡る意見書は提案されていない。昨年、意見書に賛成した自民党員の町議は「同じものを出す必要はない」と説明するが、事情を知る複数の関係者は「自民では国会議員や県議から強い締め付けがあった。昨年、意見書を可決した際にもいろいろ言ってきた」と明かす。
埼玉県議会では、法案の廃案や慎重な審議を国に求める意見書の請願が4件県民から出されたが不採択となった。その際、採決の前に請願の紹介議員らが意見を述べることに最大会派の自民などが反対。意見表明の機会が葬られた。理由は「国政に関する内容は討論すべきではない」。
民主や共産など4会派は13日、自民党の本木茂議長らに抗議声明を出した。4会派は自民の一部国会議員による報道機関への圧力発言に触れ、「言論を封殺し、議会の権能を失墜させるもので断じて看過できない」としている。【町田結子、和田浩幸】