安倍政権はきょう、衆院の特別委員会で安全保障関連法案の採決に踏み切る。

 法案に対する国民の目は厳しく、理解は広がっていない。

 法案は憲法違反であり、反対だ。安倍首相の国民への説明は丁寧ではなく、今の国会で成立させる必要はない――。

 朝日新聞社の最新の世論調査に表れた、幅広い国民の意見である。

 審議時間が100時間を超えたというのに、閣僚からさえ、「国民の理解が進んできたと言い切る自信がない」(石破地方創生相)という声がきのうも公然とあがる始末だ。

 先月の衆院憲法審査会で憲法学者3人が「違憲」と指摘して以来、多数の憲法学者や広範な分野の有識者らを含め、集団的自衛権の行使を認めた関連法案は「違憲だ」との批判は広がり続けている。

 審議時間を費やしても費やしても理解は広がらない。逆に審議を重ねれば重ねるほど疑問が膨らんでいく。なぜなのか。

 最大の理由は、法案に根本的な欠陥があるからだ。

 1972年の政府見解をもとに、これまでの歴代内閣は「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」、つまり違憲であるとの立場をとってきた。

 安倍政権はそれを昨年の憲法解釈の変更で「許容される」へと百八十度ひっくり返した。

 論理的な整合性を欠くだけではない。憲法が権力を縛るという立憲主義に反し、憲法をはじめとする法体系の安定性を失わせる暴挙と言わざるを得ない。

 首相がいくら「憲法学者の責任と私たちの責任は違う」と言い募っても、多数の専門家や国民の理解を得ずに法案を押し通すことが、立憲主義の観点からも許されるはずがない。

 法案審議の過程では、集団的自衛権がどんな場合に行使できるのか、極めてあいまいなことも明らかになった。

 首相は具体的な事例について「総合的に判断する」「例示がすべてではない」などと繰り返し、詳細に語ることは「敵国に手の内をさらすことになる」などと拒み続けている。

 これでは憲法で厳しく制限されてきた武力行使に絡む政府の裁量の余地、拡大解釈の余地が広がるばかりである。

 日本周辺の領域警備に関する民主党と維新の党の対案の審議も、まったく不十分だ。

 異論に耳を傾けようとせず、疑問に答えようとしないまま、審議時間が積み上がったからと採決に突き進む。

 そんな採決に反対する。