今回の中国本土株の急落に、P2P(ピア・ツー・ピア)レンディングの仕組みが一枚噛んでいたのではないかという見方が広がっています。

P2Pレンディングとは、ネットを通じて、お金を借りたい個人と、お金を貸したい個人とを結びつけるサービスを指します。アメリカではクレジットカードの債務を借り換えしたい個人が好んでこのサービスを利用します。

中国では比較的最近になって株の信用取引が活発化しました。信用取引とは、自分の資力以上に大きく相場を張ることが出来る取引仕法です。信用取引をする場合、証券会社は顧客の買い付けた株の市場価値に、ある一定の掛け目を用いてお金を貸すわけです。

このように証券を担保として信用を与えることは中国だけでなく、日本やアメリカなどの国々でも許可されています。一般論として国債のように値動きがマイルドな投資対象の場合、担保価値は高いです。それは逆の見方をすれば個人投資家が積まなければいけないキャッシュの額は、少額で良いことになります。

これとは対照的にペニー・ストックのような値動きの荒い株の場合、担保としての値打は低いので、大幅にサバを読んだ比率でしか証券会社は信用を提供しません。それは個人投資家がそのようなペニー・ストックを買いたい場合、要求されるキャッシュの額が、多くなることを意味します。

このように持ち込まれた証券に対して、どれだけの掛け目でお金を貸すか? という判断は、その投資対象のボラティリティー(値動きの荒さ)で決まってくる側面があることを理解してください。

さて、中国証券監督管理委員会が認めている信用取引では、証拠金率は保守的に設定されています。しかしそれでは大きな相場が張れないので、(物足りない)と感じる個人投資家も多かったです。

彼らは、証券会社の供与する信用取引ではなく、もっと大きな相場を張らせてくれる、第三者の信用の出し手をネットのP2Pサイトを経由して、探してきたわけです。これだと10倍くらいのレバレッジをかけることが出来ます。

いま10倍のレバレッジをかけた株式投資で、その株が3%上昇すれば、自分が供出したキャッシュ、つまり元手に対するリターンはその10倍の30%になります。このようなすごいリターンは、麻薬のような魅力をもっているわけです。

ところがその株が仮に10%下落すれば、投資家が供出したキャッシュの全てが失われます。さらにそれ以上、その株が下落すれば、一瞬にして借金だけが残るわけです。こうして多くの投資家が債務者に転落するわけです。

新聞報道などによると中国本土市場では正規の信用取引と同じくらいの金額で、P2Pによる信用取引が横行していたらしいです。

このことは「上海総合指数が、どの水準まで下がれば追証が発生するか?」という計算を大幅に狂わせることを意味します。もし正規の信用取引だけしか行われていないのなら、追証の発生は少ないと思います。でも実際にはP2Pによる信用取引では、すでに投資家は血みどろになっているのです。

今回、中国本土株が急落した際、中国証券監督管理委員会は「悪い業者を取り締まる」と発表しました。これを見て「中国政府は、すぐ悪者さがしをする」と冷笑する海外投資家が多いですが、僕に言わせればP2Pレンディングを利用した信用取引は、明らかにレバレッジ規制の効果を尻抜けにしてしまう脱法行為であり、社会全体にとって危険です。その意味で、僕は今回の証監会の措置に同情的です。

ところでこのP2Pのプラットフォームを提供している企業は恒生電子という会社で、これはアリババが金融子会社を通じて21%保有しています。

このP2Pプラットフォームは、ウーバーやエアB&Bと同じで、サービスを受けたい人と、サービスを提供したい人を結びつけるだけの、マーケットプレースに過ぎません。このインフラストラクチャはHOMSというニックネームで呼ばれています。

このプラットフォームを利用して、独自のネット・ベンチャーが、P2Pレンディングのサービスを構築しているわけです。そのようなネット企業が3社あるそうです。

だから恒生電子は、単にそのようなマッチング・エンジンを提供しただけで、実際にそれを利用し、むこうみずなレバレッジの提供を促したのは、それら3社のネット企業の方だったという事なのかもしれません。

いずれにせよそれら3社のネット企業はレバレッジが富を破壊する威力に関し無知で、この大失敗に懲りてP2Pによる信用取引サービスのビジネスから撤退すると発表しています。

このことは中国の個人投資家のレバレッジを利用した「買いパワー」は、もう二度と昔の「10X」とかには戻らないことを意味します。