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澤崎律華。 私立白鳳学園の二年生。 小さな会社だが、株式会社SAWAZAKIの代表取締役社長、澤崎建四郎の長女。 家族は他に母親と妹が一人。 厳しいしつけの下で育てられた律華は、いつでも凛とした姿勢を崩さないお嬢様だ。 そして・・・もう一つの顔を持っていて、日夜正義のために戦っている。 クリスタルの戦士、クリスタルプラムだ。 この娘を私は排除しなくてはならない。 地底帝国のために。 「ふう・・・さて、律華をどうやって排除するべきか・・・やはり核を植えつけて妖女虫とするべきでしょうね」 私は部屋のソファにもたれながら、宙を見つめる。 すでに姫菜、しのぶの二人がこちらに加わった以上、戦力的にはこちらが有利である。 魔獣より能力的には上の妖女虫が四体もいるのだ。そうそう負けることは無いはず。 だが・・・不気味な存在が私の脳裏をかすめる。 クリスタルレモン。 ゲドラー様より教えていただいた先代のクリスタルの戦士。 死んだと思われていたが、力を失っただけで力の回復のためにしばし戦士としての任務から外れていたのだろう。 キチク将軍の資料によれば、クリスタルポピーのことはわからなかったが、それ以外の三人、クリスタルレモン・アップル・ストロベリーのことは地上人としての名前ぐらいはわかっていたようだ。 もっとも、その後の存在があらわになっていなかった以上、ゲドラー様といえどもその資料に目は通していたものの、死んだものとして追跡調査などは行われなかったらしい。 「クリスタルレモン・・・三崎聖夜。クリスタルアップル・・・篠田沙耶香。クリスタルストロベリー・・・穂村玲子。名前だけじゃね・・・」 キチク将軍の調べでもそれ以上の詳しいことはわからなかったようだ。 「篠田沙耶香と穂村玲子がまだ生きているのかだけでも調べなくては」 その二人が生きているのならば、何らかの連絡をクリスタルレモンと取るに違いない。もしそいつらもクリスタルの戦士としての力を取り戻していたとしたら・・・ 「厄介なことになるわね」 私は思わずため息をついてしまっていた。 「いけない。こんなことではとても皇帝陛下に地上を献上するなんてできないわね。気を引き締めなきゃ」 私は気を取り直すと、奴隷人形を呼び寄せる。 奴隷人形聡美は今ではこのマンションに居住していた。 自分の両親を手にかけ、心の奥底まで闇に染まったことを彼女は喜んでいる。 夜が遅いにもかかわらず、聡美はいつものレオタード姿で現れた。 その表情には私に呼び出されることの喜びが浮かんでいるようだった。 「お呼びでございますか? ブラックローズ様」 私の前に跪き頭を下げる聡美。こげ茶色の髪の毛がふわりと舞う。少女の線の柔らかさが可愛い。 「調べ物をしなさい。篠田沙耶香と穂村玲子という女がまだこの倉口市にいるのかどうか」 私の言葉に驚愕の表情を浮かべる聡美。どうしたというのだろう。 「篠田沙耶香と穂村玲子・・・でございますか?」 「そうよ、かつてのクリスタルアップルとクリスタルストロベリー。彼女たちがどうなったかを調べなくてはならないわ」 「私の母、片場玲子は・・・旧姓を穂村といいます・・・」 まさか・・・この娘はクリスタルストロベリーの娘だというの? 私にもにわかには信じがたい状況。 だが、あっても不思議ではない。それに穂村玲子が一人とは限らない。 「そう・・・もしかしたらあなたはクリスタルストロベリーの娘かもしれないのね」 「あ・・・で、でも・・・でも今は私はブラックローズ様の忠実な奴隷人形です。ブラックローズ様にこの身も心も捧げております」 わなわなと震え、すがるように私を見上げる聡美。まるですぐに捨てられてしまうかのよう。 「母は・・・母だった女はもう死にました・・・私が・・・私が殺しました・・・だから・・・だからもう」 「落ち着きなさい聡美。あなたは私の奴隷。でも人形ではないようね。どうしてかはわからないけど」 「いいえ、私は奴隷人形です。ブラックローズ様にこの身を捧げる奴隷人形です」 フルフルと首を振る聡美。 「責めているのではないわ。ただあなたは人形ではない。あなたは私が命じもしなかったのに両親を殺したでしょう?」 ビクッと肩を震わせる聡美。何かいたずらを見つかり咎められているみたいに。 「はい・・・両親は私がこの手で始末いたしました」 「どうして? 私が命令したわけではないわね?」 聡美はこくんとうなずく。 「でも・・・一人でも地上人が消え去るのは・・・帝国にとって良いことだと思いました。それに・・・あの女は・・・」 「あの女は?」 「死んで当然なんです。ブラックローズ様」 聡美の冷たい声が響く。うつむいたままだったが彼女の顔には間違いなく笑みが浮かんでいるのだろう。 「死んで当然なんです・・・ブラックローズ様。私はただ・・・消してしまったに過ぎません」 「聡美・・・」 「あの女も・・・あの男も・・・私のことは何にもわかってないんです。私は・・・私はいつも言う通りにしていたのに・・・私のことは何も・・・」 私は聡美の表情を見るために片膝をついた。 「だから消しちゃったんです。帝国にとって不要な地上人は消してしまっても構わないですよね? ブラックローズ様」 聡美がさらりと言うのを聞き、私は聡美の心の闇の深さを知った。 何てことだろう。これほど深い闇を持っていたとは。こんなに地底帝国にふさわしい女だったとは。 「聡美、顔を上げなさい」 私は聡美の顎を持ち上げて、顔を私に向けさせる。 「ブラックローズ様」 「ふふふ・・・なるほどね。私は嬉しいわ。こんなに可愛い闇のしもべが手元にいるなんてね」 私の顔を見つめる聡美。その表情にはまだ戸惑いが見られた。 おそらく彼女は自分でも気が付かなかっただろうが、闇に心を捕らえられていたのだ。 それが私の魔力によって目覚め、普通の人間ならば闇にのっとられるはずの自意識を保ったままその身を闇に染めてしまったのだろう。 「聡美、これからもあなたは私のそばで奴隷として仕えるのよ。いいわね」 「はい、ブラックローズ様。喜んでお仕えいたします」 聡美の顔に喜びが浮かぶ。 「明日、篠田沙耶香と穂村玲子のことを調べなさい。」 「かしこまりました。ブラックローズ様」 聡美は再び頭を下げた。 「片場聡美?」 私は地底帝国のアジトに再びやってきていた。そして今ゲドラー様が目の前にいらっしゃる。 「はい、以前連れてきたことのある奴隷人形ですわ」 私はいつものように跪いている。目の前のゲドラー様はいつにも増して素敵な感じ。 「ふん、そういえばそんなのもいたな。で、そいつの母親がクリスタルストロベリーだというのか?」 「はい、ちゃんとした確証があるわけではありませんが、結婚する前の旧姓が穂村玲子という名前ですので・・・」 「可能性は高いというわけか・・・」 ゲドラー様の視線が宙を向く。過去を思い出されているのだろう。 「力を失い、一主婦として暮らして子供を作っていたということか」 「おそらくはそうかと・・・」 キチク将軍との最後の戦いは激戦だったと聞く。その戦いの最後にクリスタルは全ての力で穂村玲子を護り、力を使い果たしたのだろう。 「ふん、最後はあっけなかったものだな。自分の娘に殺されるとは」 片場武雄と片場(穂村)玲子の二人は奴隷人形となった聡美によってあっけなく始末されていた。 そう・・・まるで地上人が害虫を退治するかのように・・・ 「それで? その片場聡美がどうしたと?」 「はい、あの娘はどうしたわけかその心に深い闇を抱えております。おそらくは幼少から両親に理解されずに育ったためと思われますが、その心の闇は我が地底帝国にふさわしいものと思われます」 「理解されずに?」 「はい・・・私の推測ですが」 片場(穂村)玲子はクリスタルの戦士であったために聡美もいい娘であることを押し付けた。 本人の意思に関わらずいい娘であることが望まれたのだ。 そのためいつしか聡美は仮面をかぶり、表面上は両親の望むような少女であり続けるようになったものの心の奥には満たされない闇が溜まっていったのだろう。 周りから見ていい娘でいなければならなかった聡美は周りに対して憎しみに近いものを持つようになったのだと思う。 「ふん、そんな娘ならば魔獣の核を植えてみてはどうか?」 「そのことですが・・・おそらく拒絶反応が出るものと思われます。彼女自体に魔力に対する耐性がほとんど無いため、強すぎる魔力は彼女自体を滅ぼします」 「なるほど・・・別の手が必要か・・・考えてみよう」 ゲドラー様がうなずかれる。 「ありがとうございます。奴隷人形にしておくにはもったいないかと・・・」 「ふん、俺はどちらでも構わんがな。それよりもクリスタルプラムをどうするかだが、やはりできるなら彼女も捕らえて妖女虫化するのだ。そうすれば一チーム分のクリスタルが手に入る。クリスタルの相互作用も見極められるかもしれん」 「かしこまりました。お任せくださいませ」 私はゲドラー様に対し一礼をしてこの場を後にした。 再び君嶋麻里子の姿に変身した私はいつものように学園に向かう。 傍らには身も心も闇に染め、帝国の一員となった栗原姫菜と春川しのぶがいた。 「ずるいですよ〜、ブラ・・・っと麻里子先生。聡美は私に下さったんじゃないんですか?」 「ふふふ・・・仕方ないだろう、姫菜。どうやらあの娘は普通の奴隷人形じゃないみたいだからさ」 「ええ、そういうわけだからしばらく私の手元においてみるわ。何か違う利用法があるかもしれないし」 ふくれっつらになる姫菜をなだめながら、私たちははたから見れば中の良い女教師と女学生のように振舞う。道行く地上人どもは私たちの正体など知りもしない。 「それよりも澤崎律華を手に入れるわ」 「ハーイ・・・彼女も妖女虫にしちゃうんですよね?」 姫菜がまだむくれている。だが、もう機嫌を直しつつあるようだ。 「当然だろう? また三人で麻里子先生と一緒に戦うんだ。我ら地底帝国の邪魔をする奴らと」 しのぶは楽しそうに言う。見ていてほほえましい。 「それで、どうしますか? やっぱり直接襲って眠らしちゃう?」 「私の毒鱗粉はいろいろと使い道があります。眠らせることも簡単です」 律華はおそらく何の疑惑も抱いてはいないだろう。やはりそれが一番手っ取り早いかもしれない。 「そうね、それが一番かもね」 私はそううなずいて妖女虫たちと校門をくぐっていった。 「おはようございま〜す」 「おはようございます」 女学生たちの挨拶に正直うんざりしながらも、私は白鳳学園の女教師という振りを続けていくために返事をする。 地上はこんなに人間があふれていて、全てを食い尽くそうとしているのだ。 一刻も早く地上を占領し、皇帝陛下の御手にゆだねなければならない。 われらの邪魔をするものは排除する。そのために私は地上に居るのだから。 「おはようございます、君嶋先生」 聞きなれた声が目の前でする。 うんざりして思いをめぐらせていたので気が付かなかったが、目の前には澤崎律華が立っていた。 「どうかしたんですか? ぼうっとしていましたよ」 「あ、ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたのよ」 私は取り繕う。と言っても、実際ぼうっとしていたのは確かだ。 「どこかにぶつかったりしないで下さいね。先生のことだから心配です」 律華がくすくすと笑う。メガネの奥の目を細め、手を口元に当てる上品なしぐさだ。 「こら、先生をからかうんじゃありません」 「はい、ごめんなさい」 律華はぺこりと頭を下げると、すれ違って教室へ向かう。その後ろ姿はしなやかさを帯びていた。 「ふう、全く警戒をしていないわね、あの娘」 相手がああでは少し気の毒にもなる。 私は思わず苦笑した。 律華を捕らえるのは簡単だろう。 しつけの厳しい律華が処女ではないというのも考えづらいし、無理やり純潔を奪って魔獣の核を植え込むのも問題ない。 だが、それでは面白くないではないか。 私はそう考えている自分に驚いた。 かつての私ならそうは思わなかったかもしれない。 でも、正義などというものに心を売り渡している少女を見ると私の中にどす黒いものが浮かび上がってくるのはどうしようもない。 それは私もかつて正義に身をゆだねていたからかもしれない。 正義などという言葉で地上人を擁護する存在が赦せないのだ。 澤崎律華・・・どうしてやろうかしら・・・ 「つまり、この部分は作者の心情を登場人物に重ねて表現していると言えます。この舞方雅人という作者は・・・」 国語の授業を行いながら、私は律華の様子を窺う。 律華は熱心に私の授業を聴き、ノートを取っていた。 もちろん他の生徒も皆同様なのだが、律華は人一倍まじめなのだ。もちろん成績もいい。 そのまじめな彼女が闇に染まるのは楽しみだ。 私は一人笑みを浮かべた。 私は西宮恵理と栗原姫菜、春川しのぶを国語科準備室に呼び出した。 これから澤崎律華を落とすための下準備である。 私は彼女たち妖女虫に指示を与え、それぞれに徹底させたあと、律華の監視のために虫を放つ。 これで律華がどこにいても、私は彼女の行動を見張ることができるのだ。 放課後。私は国語科準備室にいた。 仕掛けた罠が作動するかどうかを見極めて、必要なら追加の罠をこしらえなくてはならない。 手元の水晶球に監視虫からの映像と音声が送られてくる。 どうやら順調のようだ。廊下を歩いていく律華の後ろ姿が映し出される。 長めの黒髪が舞い、背筋を伸ばして歩いていく姿は、彼女がしつけの厳しいお嬢様であることを無言のうちに示している。 どうやらいつものように図書室へ行くのだろう。なんと言っても彼女は図書委員なのだから。 三階にある図書室の扉を開ける。 いつもなら先に来ている図書委員が何名かいて律華に挨拶をするはずだが、今日は姿を見せていない。 「あれ? 誰もいないの?」 律華が不思議そうに口にする言葉が水晶球から聞こえてくる。 「もう、鍵を開けっ放しで誰もいなくなっちゃだめじゃない」 そう言いながら律華は図書室のカウンターの奥に回り、返却された本や新しく届いた本の整理を始める。 「くすくす・・・」 「えっ?」 どこかから聞こえた忍び笑いに律華は驚く。 「誰? 誰かいるの?」 座っていた椅子から腰を上げ、辺りを見回す律華。 「くすくす・・・すごい・・・」 「素敵・・・大きい・・・」 「ちょっと! 誰なの!」 声のする方に見当を付けたのだろう。律華は立ち上がり書棚の奥へ向かう。 「ちょっと。返事をしてよ」 律華が書棚の陰に回るとそこには二人の図書委員がしゃがみこんでいた。 「ふふっ・・・始まったわ」 私はクモーナが指示通りに行ったことを理解する。 「あ、もしかして新倉さんと石原さん? そんなところで何をしているの?」 しゃがみこんでいる二人がいぶかしいのだろう。何となく恐る恐るといった感じだ。 「あ、澤崎先輩だぁ・・・先輩も見ますぅ?」 振り返った少女はうつろな笑いを浮かべている。 「何を見ているの? いったい」 律華は不思議そうに覗き込む。 そこには裸の女性が男とセックスしているところが大写しになったポルノ雑誌が広げられていた。 「えっ? これって?」 「ふふふ・・・澤崎先輩も好きでしょ? セックスゥ」 「な、何言って・・・新倉さん、石原さん、そんなもの持って来ちゃだめじゃない。没収されるわよ」 驚きのあまりか、思わずあとずさる律華。 やはり彼女はこういったものに免疫がないようだ。 「されませんよぉ・・・先輩が言わなければいいんです。言わないでいてくれたらもっといい物持って来ますよ、先輩」 「先輩も一緒に楽しみましょうよぉ・・・どうせ誰も来ませんよ」 二人の少女は立ち上がり女性のヌードグラビアを見せ付ける。 「くすっ・・・先輩だって興味あるでしょう?」 「もっとHな物だってあるんですよぉ」 「い、いい加減にして。興味なんか無いから。あっちへ行って」 律華は顔をそむけるようにして、カウンターへ戻っていく。 だが、その顔は真っ赤だった。 「あん、待ってくださいよぉ先輩」 「一緒に見ましょうよぉ」 二人の女子学生はポルノ雑誌を持ったままカウンターに近付いていく。 「いらない! そんなものいらないわ」 「くすくす・・・無理することないですよぉ」 「女なら誰でもセックスが好きなんですからぁ」 「えっ?」 律華が伏せていた顔を上げる。 「女はみぃんなセックスが好きなんですよぉ」 「もちろん先輩もですわぁ」 二人の少女がゆっくりと近付いてくることに何か恐怖を覚えたのか、律華はカウンターを飛び出した。 「来ないで! 来なくていいから!」 そのまま扉を開け放つと図書室から飛び出していく。 セックスに拒否反応を起こすなんてどうやら丸っきりのネンネみたいだわ。 廊下の途中で律華は立ち止まり、壁にもたれて呼吸を整えている。 さすがにクリスタルプラムとして鍛えているだけあって、わずかの間に息が整っていくようだ。 「ふうふう・・・いったい何なのよあの娘たち。あんな本を学校に持ってくるなんて」 律華は図書室の方を見るが、再び戻るには抵抗があるようだった。 「どうしよう・・・鞄置いてきちゃったし・・・戻るのも・・・」 「律華〜」 自分を呼ぶ声に振り向く律華。そこには鞄を持って帰り支度をした姫菜がいた。 「ああ、姫菜ちゃん」 何かほっとしたように胸をなでおろす律華。 「何? いつもなら呼び捨てなのにどうしたの」 笑みを浮かべながら近付く姫菜。彼女がムカデナであることなど思いもよらないことだろう。 「ううん、ちょっとお願いがあって」 「何、どしたの?」 「うん、実は図書室に鞄を忘れて・・・ちょっと、取りに行きづらくて」 困っている律華。 「いいよ。取りに行くの付き合ったげるよ」 「ホント? ありがとう姫菜」 律華は頭を下げる。本当に礼儀正しい娘だ。 「いいっていいって、さ、行こ」 姫菜は律華を誘って先に立って廊下を歩いていく。律華もにこやかにそのあとを追った。 「で? なんかあったの?」 「えっ?」 姫菜の質問に一瞬驚く律華。 「だってさ、図書室は律華のお城みたいなものじゃん。そこに行きづらいって、何かあったのかなって・・・」 先に立って歩いている姫菜の表情は律華には見えない。そして、その表情が笑みを浮かべていることも。 「え、えーと・・・その・・・」 律華にとっては口にするのもはばかられるのかもしれない。後輩たちが図書室でポルノ雑誌を広げていたなどとは。 「書棚の影でオナニーしてたの見つかったの?」 「ひえっ?」 律華はびっくりして顔を上げた。 「何、なんか変なこと言った? 私?」 姫菜は立ち止まって振り向いた。 「う、う、うう、うん」 こくこくとうなずく律華。 「なな、なんてこと、オ、オナ、オナ・・・」 真っ赤になって言葉に詰まってしまう。 「オナニー? しないの? 律華は?」 姫菜があまりにもあっけらかんと答えるのに律華は驚いているようだ。 「し、し、しない・・・って言うか・・・す、する・・・って言うか・・・」 「するでしょ? 律華だって女の子なんだから。」 「そ、それは・・・で、でも・・・」 「するよねぇ。普通の女の子なら当たり前だよね」 姫菜はあくまでもにこやかだ。 「で、で、でも・・・が、学校では・・・」 「あれぇ。律華はしないんだ。隠れてやるオナニー」 「ひえっ?」 飛び上がらんばかりに驚く律華。 それはそうだろう。学校で隠れてオナニーなど考えたことも無いに違いない。 「ひ、姫菜は・・・す、するの?」 「あったり前じゃん。学校でオナニーしないで、どこでするってのよ」 「そ、それは・・・自分の部屋とか・・・」 消え入りそうな声の律華。おそらく彼女は自室で時々オナニーしているのだろう。 「そんなの詰まんないじゃん。誰かに見られるかもしれないってのがいいんじゃない」 「ええっ? う、嘘?」 「そんなこと言って、ホントは見られたいんじゃないの? オナニーするとこ」 姫菜はニヤニヤ笑みを浮かべながら律華に近付いていく。 「そんなこと・・・無い・・・変よ・・・今日の姫菜は変よ」 じりじりとあとずさる律華。 「ふふふ・・・律華は見られたいんだよね」 「そんなこと・・・無い」 「そんなこと言ってるけど、あそこはじっとりとしてきてるんじゃないの?」 「違う! そんなこと無いよ!」 姫菜に迫られた律華は踵を返して廊下を走り出す。 これでいいわ。 じわじわと彼女を淫らなことが好きな少女にしてやるのよ。 私は監視虫に廊下を走る律華のあとを追わせた。 廊下を走っていく律華。 いまどきの女の子にしては珍しい純粋培養だわ。 わかってはいたけれども驚きね。 私はそう思いながらも次に起こることを思い笑みを浮かべた。 「おっと!」 「きゃあ!」 二つの声が交錯する。 廊下の角でお約束のように律華は人にぶつかったのだ。 「おいおい大丈夫かって? 律華か?」 「痛た・・・あ、しのぶちゃん」 ぶつかったのは春川しのぶ、ううん、違うわね、妖女虫ドクガナだわ。 「どうしたんだ、そんなに急いで?」 「ご、ごめんなさい。ちょっと・・・ね」 ぶつかったところを押さえながら律華が謝る。 「ふふん、大方トイレにでも駆け込んで、オナニーするつもりだったんだろ?」 「ふえっ?」 目を丸くする律華。それほど今の言葉は衝撃的だったのだろう。 「し、しのぶちゃん?」 「何を戸惑っているんだ律華? 女が快楽を求めるのは当たり前のことじゃないか」 「あ、当たり前?」 律華の表情に困惑が浮かぶ。自分の世界が揺らぎかけているのかもしれない。 「そうだよ。当たり前さ。女はみんな快楽を求める生き物なんだ」 「女は・・・みんな・・・」 「そうだよ。私だってそうだし、律華だってそうなんだよ」 しのぶはポケットの手を入れて何かを取り出す。だが、律華は気が付いていない。 「私も?・・・そうなの?」 「ああ、そうさ。律華はとびきりのHが大好きな娘なのさ」 しのぶはゆっくりと律華に近付いていく。 「私もHが好き?・・・」 律華の目が宙を泳ぐ。 「そうかも・・・私・・・H・・・好きかも・・・」 「そうだよ、律華はHが好きなんだ」 しのぶはそう言って手のひらに載せた鱗粉を吹きかける。 「あふぁ、何っ? けふっ・・・」 ドクガナの鱗粉にむせる律華。 「ふふっ・・・律華が素直になれるおまじないだよ」 「し、しのぶちゃん・・・変よ・・・今日はみんな変・・・どうして?」 「変じゃないさ。律華こそ快楽に心を開かなきゃね」 しのぶはそう言って律華を壁際に押しやり、スカートの中に手を差し入れる。 「ふふっ・・・気持ちよくしてあげるよ。律華」 「ふあっ・・・ちょ・・・ちょっと・・・止めて・・・」 壁に押し付けられた律華は身動きが取れないようだ。ドクガナの鱗粉が効いてきているのだろう。 「ふふっ・・・思ったとおりだ・・・しっとりとしてるよ」 「いやあ・・・止めて・・・言わないで・・・」 「可愛いよ、律華」 しのぶは手の動きを早め、首筋にキスをする。 「ひああ・・・」 律華の声が上がる。 「ふふふ・・・ぬるぬるだよ、律華。でもここまで。ここから先はしてあげない」 「えっ?」 しのぶはすっと離れると律華の愛液に濡れている指先をぺろりと舐めた。 「ここから先はあなたがするの。もうこの時間ならこの校舎は人が少ないから。どこででもオナニーできる」 「そ、そんな・・・そんなこと・・・」 律華は頬を上気させ、潤んだ瞳でしのぶを見ている。 「ふふっ・・・言ったでしょ。女がオナニーするのは当たり前。学校でするのは当たり前だって」 「お・・・女が・・・オナニーするのは・・・あ・・・当たり前・・・」 律華の口からつぶやくように漏れ聞こえてくる。 「学校で・・・するのは・・・当たり前・・・」 「そうだよ。女は快楽を求めるんだ。オナニーやセックスは当たり前なのさ」 妖艶な笑みを浮かべながら律華の耳元でささやくしのぶ。 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」 「オナニー、したいだろ?」 「はあ・・・したい・・・したいわ・・・オナニー好き・・・好きなの・・・」 律華の右手がスカートの中に滑り込む。それと同時に左手は制服の上から胸をもみ始めた。 「ふふふ・・・律華ったら。ここは廊下だよ」 「はあん・・・そうだわ・・・ここは廊下・・・でも・・・でも・・・」 「ふふふ・・・大丈夫。ここには誰も来ない。私が誰も来させないよ」 にやりと笑みを浮かべるしのぶ。その笑みは悪魔の笑みか。 「はあん・・・ありがとう・・・しのぶちゃん」 ぺたんと床に腰を落とし、律華はオナニーを始めてしまう。 「あはあ・・・はあん・・・はあ・・・」 右手が彼女の敏感なところを探り当て、くにくにともてあそび、左手は柔らかな胸をもみしだく。 誰もいない廊下にやがて律華の歓喜の声が響いていった。
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