【ウィーン=原克彦、久門武史】イラン核問題を協議していた同国と欧米など6カ国は14日、包括的解決に向け最終合意した。イランの核開発を長期間にわたり制限する代わりに、国連安全保障理事会や米国、欧州などが科している経済制裁は段階的に解除される。核の拡散を防ぐ外交上の大きな成果であり、中東の安定につながる期待もある。制裁の解除はイラン産原油の輸出増や企業のイラン再進出につながる可能性があり、影響は大きい。
イランが核兵器を秘密に開発しているとの疑惑は2002年に発覚した。イランは「発電など平和利用が目的」と主張したが、米国などは軍事利用の意図を疑ってきた。今回の合意で、1979年のイスラム革命以来、激しく対立してきたイランと米国の関係が改善する気配も漂う。
安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランの協議は4月に「枠組み」で合意。その後はイランが求める制裁解除のタイミングや、同国軍事施設も査察対象に加えるか否かといった細部を詰める協議を続けた。
合意した「包括的共同行動計画」では、イランの核開発を大幅に抑制することで核兵器に必要なウランなどの蓄積に1年以上を要するようにする。さらに国際原子力機関(IAEA)が核関連施設を厳しく査察することで核兵器の保有を封じ込める。見返りに国連と米欧はイランに科してきた制裁を解除する。
イランによる核兵器保有の可能性が大きく後退すれば、近隣で対立するサウジアラビアなど湾岸産油国にとっては緊張緩和となる。中東で唯一の核兵器保有国とみなされるイスラエルが受け止める安全保障上の脅威も大幅に低下する。混迷する中東で核開発ドミノが発生するような事態を避けることの意味は大きい。
米欧は制裁の一環としてイラン産原油の輸出を制限している。解除すれば日本の消費量の5分の1以上にあたる日量100万バレルの原油がいずれ国際市場に供給される見込みだ。原油市場では核協議の進展を織り込んで7月初旬から相場が急速に下がった。東京電力・福島第1原子力発電所の事故を機に火力発電への依存度が上がった日本の経済にとっては、追い風になる。
合意内容は米国とイランでそれぞれ議会の承認を得る必要がある。オバマ米大統領は核不拡散などの成果を訴え、議会に承認を求める意向だ。一方、イランは最高指導者のハメネイ師が合意への支持を表明すれば、議会でも承認されるとみられている。
岸田文雄外相は14日、今回の合意について「不拡散体制の強化や中東の安定につながる」と歓迎した。
〈最終合意のポイント〉
○イランは保有する遠心分離機の数を現在の3分の1に減らす
○イランは核兵器の開発や取得をすべて放棄
○イランは核関連施設への査察を受け入れる
○国連や米欧による制裁は解除する
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