「これは……さすがにちょっとまずいかな……」 ハンドルを握って必死に前を見つめながら、私は舌打ちをした。 辺りは分厚く雪が積もっていて、一面真っ白な銀世界。 その中を、道路が細い線のように縫っている。 しかし、それも少し前からまた降り始めた雪のせいで徐々に白くなっていて、もの凄く頼りない。 タイヤチェーンはちゃんとしてあるから、スピードさえ出さなければ走るのは大丈夫だろうけど、肝心の道路が見えにくくなっている。 おまけに、日が暮れてきてますます視界が悪くなってきていた。 私、高村那キ希(たかむら なつき)は、大学を卒業してから、主に山岳レジャーや都会から離れた山里の魅力を紹介する雑誌を出している中堅出版社に勤めて3年目になる。 この数年の登山ブームや、はたまた、特にシニア層を中心にして高原の自然観察や秘湯巡りが流行っていることもあって、雑誌の売れ行きは好調だ。 今回私は、企画されている東北の秘湯特集のために、山形の温泉を取材した帰りだった。 私が取材して回ったのは、秘湯と呼ばれるだけあってどれも山奥にあった。 もちろん、対象としている読者層は、サバイバル系の人ではなくて、観光客の少ない静かな温泉でゆっくりしたいという一般の人なのでちゃんと温泉宿もあるし、その前までは車で行ける。 ただ、事前に調査していた道と実際の道が少し違っていたなんていうトラブルがあって、帰途に就くのがすっかり遅くなってしまった。 ここは……? 山形と宮城の県境近くのはず……。 たぶん、まだ宮城には入ってないと思うんだけど。 それとも、福島の方に近づいてるのかな? どっちにしても、早いとこ高速に乗らないと今日中に帰れなくなっちゃうよ。 ここがどの辺りなのかも、もうはっきりわからなくなっていた。 もちろん、携帯はとうの昔に圏外になっている。 「……やっぱり、リョーくんに来てもらえばよかったかな」 道行く人も対向車もない山道で、さすがに私も心細くなっていた。 リョーくん……小城遼太(おぎ りょうた)は、職場の同僚で、私の恋人だ。 取材をこなしている経験も豊富だし、アウトドアが趣味とあってこういう時には頼りになる。 そうでなくても、隣にリョーくんがいてくれたら、どんなに心強かったことか……。 実は、今回の取材もリョーくんが一緒に行こうかと言ってくれたんだけど、私が断っていた。 中堅出版社とはいっても、そんなに人数がいるわけでもないし、ほぼ全員が記者と編集者を兼ねてるような職場だ。 ひとつの取材にそんなに人手を割くわけにもいかないし、ましてや今回の取材は山岳系じゃなくて温泉地を車で回るだけだったから軽い気持ちで断ってしまった。 それに、この山道に入る前、まだ携帯の電波が届いているうちに電話したと時も、「この時期はすぐに暗くなるから、もうどこかに泊まって明日帰れ」って言ってくれたのに、こんなことになるなんて思わなかったから、「大丈夫大丈夫!これから宮城まで出て高速乗れば、日付が変わるくらいには戻れるから!」って言ったのも私だった。 ……でも、あんなこと言わなきゃよかった。 走っているうちに周囲はどんどん暗くなり、ライトで照らしても道路の境目がわからなくなっていた。 真っ暗になったら、さすがに走るのは無理かな? このまま、車の中で野宿するしかないの? でも、まだ雪は降ってるし、その間に車ごと埋もれちゃうんじゃ……。 考えていると、どんどん不安が頭をもたげてくる。 ハンドルを持つ手が、じっとりと湿っていた。 とにかく、行けるとこまで行こう……。 そう考えて、必死に前を見つめる。 ……あれっ? 今、なんか光るものがちらっと見えたよね? 用心しながら車を走らせていた私は、なにか光るものを見たような気がした。 いや、気のせいじゃない。 木立の隙間から、ちらちらと光が見える。 もしかして、対向車? 最初は、そう思った。 でも、よくよく見たら、道とは位置がずれているような気がする。 いや、もうほとんど道路の先は見通せないんだけど、道の進む先とは角度がだいぶ違う。 でも、あれは、間違いなく灯りだよね。 もしかしたら、集落でもあるのかな? とにかく、近づくことにして慎重にハンドルを握り直す。 「これは、車じゃ無理だよね……」 なんとか道を進んでその灯りに向かっていた私は、そこで車を止めた。 残念ながら、その灯りのもとは、道路沿いにはなかった。 かなり近づいてはいたけれど、その灯りは車を止めた場所からはまだだいぶ離れたところにある。 でも、間違いない。 あの、オレンジ色の光は人家のある証拠だ。 「……しかたないわね。歩いて行くしかないか」 とにかく、そこまで行ってみようと心は決まっていた。 こんな山の中で、女ひとりで訪ねるのも……という不安はある。 でも、車の中とはいえ、こんなところで野宿するのも気が進まない。 それに、これまでの取材の中で、田舎の人の優しさに触れたことは何度もあった。 私は、それに賭けることにした。 幸い、防寒対策は万全にしてある。 あの灯りのところに行くくらいなら、きっと大丈夫。 私は、バッグと傘を手に外に出て、車にロックする。 そして、足を取られないようにしっかりと雪を踏み固めながら、私はその灯りに向かって歩きはじめた。 「ええっ?これが……?」 そして、私の目の前に現れたのは、一軒の洋館だった。 別荘地でもない、こんな田舎の山中には不似合いな佇まいの洋館に、私は少し戸惑っていた。 しかし、いくら躊躇しても、他に選択肢はない。 古びた木製の扉を、ドンドンと叩く。 中からは、なんの反応もない。 でも、灯りが漏れているんだから中にはきっと人がいるはずだ。 私は、諦めずに何度も何度も扉を叩く。 しばらくそうしていたら、ギギィッ、と軋んだ音を立てて扉が開いた。 「どなたですか?こんな時間に」 出てきたのは、40代半ばくらいの男性だった。 190cm近くはあるだろうか、かなり背が高くて、少し痩せている。 口髭を蓄えた顔に、驚いたような少し硬い表情を浮かべていた。 それに、ものすごく色が白い。 ……いや、白いというよりかは、血の気がないと言った正しいかもしれない。 生気の感じられない青白い肌に、唇も蒼ざめているように思える。 「あ、あのっ……」 その男性の漂わせている雰囲気もどこか不気味で、思わず言葉に詰まってしまった。 「わっ、私、今日中に東京まで戻ろうと思って山越えで東北道のインターに向かっていたんですけど、日が暮れてしまって、雪の中で道もわかりにくくて困っていたところに、こちらの灯りが見えたものですから……」 もともと、あわよくば相手の好意に甘えようと思ってここまで来たのは私の方なのに、話し始めて少し後悔していた。 血色の悪い顔を硬く強ばらせて見下ろしているその人を、怖いと感じている自分がいた。 どのみち、こんな感じだと断られるんじゃ……ううん、むしろ、断られた方がいいかも。 少し怯えながらそんなことを考えていると、不意にその人の表情が緩んだ。 「おやおや、それは大変でしたね。さぞお困りでしょう」 相変わらず顔色は青白いままだけど、予想外の柔らかい笑顔と優しい口調だった。 「この辺りは冬になると雪が深いですから、暗くなると大変ですよね。それに、この近くには他に民家もないですし、心細かったでしょう。さあ、どうぞ中に。外は寒かったでしょうから、暖まってください」 「は、はい……」 にこやかなその言葉に引き込まれて、私は招かれるままに中に入ってしまった。 後になって思えば、それが全ての間違いだったというのに……。 「なるほど、高村さんは雑誌の取材でこんな所まで来たんですね……」 結局、私はその洋館に住んでいる牧庸輔(まき ようすけ)さんに勧められるまま、夕ご飯をごちそうになっていた。 とは言っても、そんなに豪勢なものじゃなくて、主に缶詰やレトルトを温め直しただけのものなんだけど。 それも、あまり温かくない。 ……て、だめよね、そんなこと言っちゃ。 「すみません。なにぶん、交通の悪い山中ですから、あり合わせのものしかなくて」 「あっ、いえっ!……私の方こそ、いきなりお邪魔してこんな、ご飯までごちそうになって……ありがとうございます」 ひょっとして、私、不満そうな顔でもしてた? やだ、はずかしい……。 でも、本当に牧さんには感謝しないと。 野宿まで覚悟していたのに、寝る場所と、ご飯まで提供してもらったんだから。 私を招き入れてくれてから、笑顔を絶やさないでいる牧さんを、最初は怖いとか思ったことを申し訳なく思ってしまう。 ……でも。 牧さんと話をしていて、少し不思議なことがあった。 私がご飯を食べている、このテーブル、20人くらいが食事をできるほどの大きさがある。 ここには、牧さんがひとりで住んでいるだけだって言ってたけど、それにしては大きすぎる気がする。 暖炉のすぐ前の席を私に勧めてくれたのは、牧さんの心遣いだろう。 でも、牧さんは暖炉の火から遠い場所の席に座っている。 こうやって暖炉のすぐ前に座っていると暖かいけど、建物が古いし、これだけの広間だと少し火から離れると寒いと思うんだけど。 それに、牧さんの格好……。 とても真冬の山中とは思えない、薄手のワイシャツにスラックスだけ。 寒くないのかしら? なまじ牧さんの肌が白いだけに、私の方が心配になってくる。 でも、北国の人ってそんなものかもしれないわね。 私はすごく寒いと思うけど、住んでいると慣れるものなのかな? それに、このテーブルだって、もとからここにあったものかもしれないし。 さっき聞いた話だと、この洋館はもともと牧さんのものではなくて、都会での生活に疲れた牧さんが田舎で暮らそうと考えた時に、たまたま安く売りに出ていたのを買ったって言ってたから。 よく考えたら、そんなに気にすることじゃないのかも。 「高村さん。あの、高村さん?」 「……え?あっ、はい!?」 牧さんの声に我に返る。 ……いけない、考え込んじゃってた。 「食事が終わったのでしたら、ベッドのある部屋に案内しましょうか?後でお風呂を用意しますが、なにぶん電気もガスも通ってないものですから、薪で沸かすので少し時間もかかりますし、それまで部屋の方でゆっくりと寛いでいてください」 「あっ、いえ、すみません、何から何まで……」 私は、すっかり恐縮してしまう。 こうやって泊めてもらえるだけでもありがたいのに、お風呂に入れるなんて思ってもいなかった。 「さ、それではご案内しましょう」 「はい」 促されて、私はバッグとコートを手にして立ち上がった。 「少し暗いので気をつけてくださいね、高村さん」 「は、はい……」 さっきご飯をいただいた広間を出て、廊下の突き当たりにある階段を牧さんが降りていく。 廊下には所々をランプが照らしているけど、全体的に薄暗い。 でも、階段の下って、地下に寝室があるの? そんな疑問が浮かぶけど、黙ってついて行くしかない。 「それでは、ここです」 階段を降りると、両側にひとつずつドアのある短い廊下の突き当たりにあるドアを牧さんが開けた。 「……えっ?」 牧さんの後から中に入ると、そこは寝室と言うには広すぎる部屋だった。 さっきご飯を食べた広間と同じくらいの広さがある。 地下室というよりも半地下なのか、天井近くにある窓から青白い光が漏れているのは雪明かりだろうか? それにしても、広いだけでなくて寒い部屋だった。 本当に、寝室にしては何もかもおかしかった。 「きゃっ!?」 目が慣れると、私は部屋の両側に人影が並んでいるのに気がついて小さく悲鳴をあげた。 ……これは、彫像?いや、人形かしら? まるで、本物みたい。 その、並んでいる人影はピクリとも動かない。 よく見ると、どれも私と同じくらいの若い女性ばかりだった。 石やブロンズの彫刻じゃない、蝋人形か何かだろうか? それにしてもすごくリアルで、まるで本物の人間みたいだった。 でも、なんでそんなものがここにあるのかわからない。 「あの、牧さん…………ひっ!?」 不気味に思った私が話しかけようとしたら、牧さんがこっちに振り向いた。 その時の牧さんの顔……。 さっきまでの柔和な笑みは消えて、強ばった無表情のまま、黙ってこっちを見つめていた。 ただでさえ血の気のない顔が、天井から漏れる青白い光でますます蒼ざめて見える。 思わず、私が悲鳴をあげても、牧さんは黙ったまま何も言わない。 と、牧さんが私の方に一歩踏み出してきた。 に、逃げなきゃ……。 すごく嫌な予感がする。 何か、よくないことが起ころうとしている。 私の勘が、頭の片隅で、さっきからサイレンのように警告を鳴らしている。 それなのに、足が言うことを聞いてくれない。 蛇に睨まれた蛙みたいに、恐怖で体が竦んで思うように動いてくれない。 助けて、リョーくん……! 心の中で、声にならない悲鳴を上げる。 叫んでも、リョーくんが来るわけないのはわかってる。 でも、縋らずにいられない。 ああ……リョーくんがいてくれたら……。 私の脳裏を、リョーくんの顔がよぎる。 いつも見慣れた、頼もしくて、そして優しい笑顔が。 しかし、それも一瞬で掻き消される。 私の目の前に、牧さんの顔がゆっくりと近づいてきた。 まるで、スローモーションのように。 「ぐむっ!?んぐぐっ!」 牧さんの唇が、私の唇に触れた。 いきなりのキス。 だけど、驚いたのはそれじゃなかった。 冷たいっ! なんて冷たいの!? 私の唇に当たっている、牧さんの唇の感触。 それに、私の頬に添えられた牧さんの手。 体温が低いとか、体が冷えてるとか、そんなレベルの話じゃない。 氷の塊に触れているように冷たい。 確実に、人間の体温じゃない……。 「んぐぐっ、んんっ、ぐむっ……」 牧さんにキスされて、私は身動きすらできないでいた。 なんて、なんて冷たいキスなの……。 唇を吸われるのと同時に、私の体温まで吸われていくように思える。 さっきから、体がブルブルと小さく震えている。 それは、恐怖からなのか、寒さからなのか……。 「んっ!?んむうっ!?」 私の口の中に、舌が入ってきた。 その感触までもが冷たかった。 リョーくんとの体が熱くなるキスとは正反対の、身も凍るような口づけ。 全身が凍えて、頭の中がキーンとなる、痛みにも似た感覚が駆け巡る。 手足の先の感覚がなくなってきて、思わず、提げていたバッグとコートを取り落とす。 「んぐううっ!ぐむっ、ぐむううう!」 キスをしたまま抱き寄せられて、ブラウスのボタンを外されていく。 こうやって唇を吸われていると、まるで私の頭の中のものを吸われているみたいに意識がクラクラしてくる。 そのまま私は、抵抗もできずに牧さんの為すがままになっていた。 「んむうっ!んんんんっ!」 ブラウスの中に手が入ってきて、氷のような感触が直に肌に当たった。 凍えた私の体よりも、さらに冷たい感触が背中からお腹まで撫で回していく。 直接、私の体温を奪っていくようにゆっくりと。 正直、不快感よりも冷たさしか感じない。 もう、私の体は完全に冷え切っていた。 じんじんと、かじかんだ手足の痺れが全身に広がっていく。 「はうっ!ふあああああああっ!」 胸を掴まれて、私は思わず首を反らせて喘いでいた。 冷気に痺れた肌に、ビリビリと鋭い感覚が駆け抜けていく。 こんなに冷たいのに、肌を刺すような痛みを伴ったそれは、快感に似ているように思えた。 「はうっ、ああっ、冷たいっ、冷たいのっ!」 氷のように冷たい手に胸を揉まれて、私は体を悶えさせて喘ぐ。 思考まで凍らされていくようで、今の状況が判断できなくなっていた。 全身が痺れて感覚の鈍くなった体に、この冷たさと、ビリッと響く刺激が不思議と心地よかった。 こんなに冷たいのに、不思議ともう寒いとは感じない。 それに、恐怖とか怯えも消え去ってしまっていた。 さっきまでの体の震えが、いつの間にかすっかり治まっていた。 そして、私の体をまさぐる手が、ベルトを外してレギンスをずり降ろす。 「ふあああああっ!そこっ、ああっ、冷たいいいいいっ!」 ショーツの中に入ってきた手が、アソコをなぞる。 背筋を走るゾクゾクした寒気すらも気持ちよく感じる。 自分でも、わけがわからないくらいに感じてしまっていた。 「あああっ!イイッ、そこっ、イイのっ!ふあああああっ、今度はっ、そんなっ!あうっ、あふううううっ!」 冷たい感触が、引っかけるようにしながらアソコの浅いところを出たり入ったりする。 かと思うと、奥の方まで入ってきて、中の壁をぐっと押される。 そのたびに、私は体を仰け反らせて大きく喘いでいた。 こんなの、初めての感覚だった。 本当なら、これだけ感じていると燃えるように体が熱くなるのに、今は全く熱くない。 それどころか、どんどん体が冷えていっているようにすら思える。 ただ、このジンジンと痺れるような感覚は同じような気がする。 それに、この、全身を貫く快感。 いつもリョーくんとする時の、ほわんと蕩けるような快感とは違うけど、これはこれで気持ちいい。 ずっとシャープで、頭の奥に突き刺さるようで、剥き出しの快感を純粋に味わえるみたい。 こんなの、もうダメ。 私、イッちゃう……。 「ふあああああああっ!ダメぇっ、イクッ、私っ、もうイッちゃうううううううう!」 アソコの中を冷たい指で掻き回されて、私はあっという間に絶頂に達してしまっていた。 全身の筋肉が硬直し、そして、すぐに力が抜けてその場にへたり込む。 そのまま、私の意識は今まで感じたことのない、氷のように冷たいエクスタシーの余韻の中に漂っていた。 「んんっ……あ?ふぁあああ?」 すぐに、ぐったりとしていた私の足に手がかかって、レギンスを脱がされていく。 まだ、朦朧としている私は、されるがままに任せていた。 そのまま、ショーツも脱がされて、足を広げさせられる。 そして、アソコに冷たくて堅いものが当たったかと思うと、肉を掻き分けて私の中に入ってきた。 「ふぐっ!?はううううううううううっ!」 自分の中に入ってきた、その、あまりに冷たい感触に全身の骨までが震えた。 でも、この冷たいものがアソコの中を擦って、痛いほどに鋭い快感が突き抜ける。 もう、冷たさを通り越して熱くすら感じるその感覚は、どこかで覚えがあった。 ああ、そうか……。 子供の頃、間違えてドライアイスを触って火傷をしたことがあった。 あの感覚に似てるんだ……。 「あんっ、んぐっ、あっ、はんっ、はうんっ、ああんっ!」 アソコの中を貫く、灼けるほどの冷気に身を任せて体をよじる。 感覚が麻痺してきて、もうあまり冷たさも感じない。 だから、純粋に快感だけを感じることができる。 いや、そうじゃないんだ。 この、冷気そのものが気持ちいいんだ。 冷たくて堅いそれで、アソコの中を思いきり掻き回されて、今、私に与えられている何もかもが快感に思えてくる。 「あんっ、ああっ、はうっ、んっ…………はんっ!」 牧さんの腕が伸びて、私を抱え起こす。 ああ……。 牧さんの体、こんなに冷たくて、気持ちいい……。 私は、自分から牧さんにしがみついて腰を動かしはじめていた。 抱きついた牧さんの体は、やっぱり氷のように冷たくて、それがとても心地いい。 中と外からその冷たさに包み込まれて、全身が凍りついていくみたい。 この、じんわりと痺れていく快感をもっと味わいたくて、夢中になって腰を動かす。 「あ゛っ、あ゛あ゛っ、う゛っ、う゛あ゛っ、あ゛あ゛っ、う゛あ゛あ゛っ!」 もう、舌の付け根の辺りまで痺れてきて、鈍い喘ぎ声をあげながらひたすら腰をくねらせていた。 全身は完全に冷え切り、意識すらも半ば凍ってしまったような中で、突き入れられる堅いものだけが確かなものに感じられる。 この快感だけが、私の全て。 「あ゛う゛っ、あ゛あ゛あ゛っ!う゛あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛っ、う゛う゛っ!」 牧さんにしがみついて腰を振り続ける私の頭の中で、カンッ、キンッ、と乾いた音が響く。 まるで、水が凍りついていく時のような音が。 目の前がダイヤモンドダストみたいにチカチカして、何も考えられなくなっていく。 身を切るような、鋭い快感のうねりが大きくなって、私はまた絶頂が近いことを悟る。 そして、その瞬間がやってきた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!う゛あ゛っ、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」 私の中に、冷たいものがぶちまけられて、目の前がホワイトアウトする。 アソコの奥、体の中心から、全身を凍らせていくような冷気が広がっていく。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」 無我夢中で牧さんにしがみつくと、やっぱり身も凍るほどの冷気を感じる。 体の中と外から、私の体がゆっくりと凍っていく。 「ん゛ん゛っ!ん゛ん゛ん゛ん゛っ!」 不意に、牧さんの唇が私の口を塞いだ。 でも、さっきほど驚きはしない。 「ん゛……ん゛ん゛ん゛……」 私は、自分から舌を絡ませ、この冷気に、この快感に全てを委ねる。 「ん゛ん゛……」 アソコの中も、口も、抱きついた肌も冷たいのでいっぱいで、気が遠くなるほどに気持ちいい。 いや、本当に気が遠くなりそう。 重ねた唇から、私の全てが吸い出されていくように思える。 私……なにか大切なことを忘れてしまってる気がする……。 でも、いいや。 こんなに気持ちがいいんだもの。 牧さんに抱きついてその唇を貪りながら、意識がぼんやりとしていく。 周囲がどんどん暗くなっていって、私は氷結点に堕ちていく。 そして、そのまま身も心も、私の全てが凍りついた。 「ん、んん、ん、ん……」 青白い雪明かりが射すだけの、薄暗い広間の中で蠢くふたりの人影。 ポニーテールの、ほっそりした女が男に跨がってゆっくりと腰をくねらせていた。 「うん、いいよ、ナツキ。もっと激しくしてごらん」 「……はい。んっ、んんっ、ん、んん、ん……」 仰向けに寝ている男、牧に抑揚のない返事を返して、前後にくねらせる腰の動きを大きくしていく女。 ……高村那キ希だった。 だが、その表情は虚ろで、その目にはなんの感情も映しているようには見えない。 「んっ、んんんっ、ん、んんっ、んん、んっ……」 心もち顎を反らせ、くぐもった声を上げながら、ひたすらに腰を動かして牧のモノを貪っている。 「ああ、いいよ、すごくいい。さあ、もっと大きく動かして」 「……はい。ん……」 牧の言葉に、那キ希は腰を軽く浮かせた。 「……んんんんんっ!」 そして、反動をつけるようにして腰を沈めると、その背筋がキュッと反り返る。 その瞬間、抑揚のない、くぐもった喘ぎ声がわずかにうわずった。 そして、那キ希はその動作を何度も何度も繰り返す。 「んっ……んんんんっ!んっ……はんっ、んんんっ!」 腰を上下させる那キ希の動きが、次第に大きくなっていく。 男のモノを貪る、淫らな踊りを踊るように。 それに合わせて、その喘ぎ声も少しずつ高ぶっていくように感じられる。 だが、こんなに激しくセックスをしているというのに、ふたりの肌には汗の一滴も滲んでいなかった。 ふたりとも、肌は青いまでに白く、まるでモノクロの映像のような光景だった。 薄明かりの中で繰り広げられる、体温の感じられない淫靡な交わり。 「さあ、もっと、もっとだよ、ナツキ」 「……はい。んっ……はんんんんっ!んっ、んんんっ……はんっ……ふんっ、んっ、んんんっ……」 虚ろな目のまま返事をすると、那キ希は牧の腹に手を突いて跳ねるように腰の動きを大きくしていく。 那キ希のその、激しくも冷ややかな踊りは、夜が明けるまで続いたのだった。
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