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ツインテール
「あー、こちらの端末が故障したようでそちらの声が聞こえません。今まさに不審者と対峙していますので通信聞いていましたらご連絡ください」
由樹は意味はないとは思うが電源がつかないトランシーバーに語りかける。そもそも魔王の誰かに伝わればなにかしらで反応してくれるはずだ。
それこそいろんなことができるのだから。
「最悪狼煙とかでもいい」
ツインテールを無視して狼煙を必死で起こす自分を想像する由樹。
「不審者とはわかりやすい挑発だな」
ツインテールもツインテールで話を聞いておらず、笑う。家で立ち会ったときには見せなかった表情だ。
小悪魔的であり幼児的であり母性に目覚めそうな表情だった。
「どこに魔王を隠した」
「どこにだと、貴様ふざけているのか、誰が居場所を言うものか!」
「うん。ん? いや聞いたら答えてくれるかなって思って聞いてみた。そうだよな、それが普通だ」
前例もある。あいつは聞かずともペラペラと喋っていた。
それ以前に自分が誘拐犯だと由樹に申告することには警戒することはないのだろうか。
それこそ素知らぬふりを装ってこの場から去ればいいと思う。
褐色はその点では特殊だ。あれは、愉快犯とかの部類に入るのだろうか。
由樹は犯罪者の心理や行動原理を把握しているわけではないので改めて考えると不思議に感じる。
「まぁいい。教えてやろう」
「……ん?」
「実はな、私は単独犯ではない。仲間はすでに外へと連れ出している。それも車でだ! もはや貴様の手の届かないところにいるだろう」
べらべらと話すツインテール、由樹は困惑せざるをえなかった。
「お前はそこで恐怖し困惑しろ!!」
「うん。今現在、恐怖し困惑してるわ」
こいつは今まであってきた人間の中で一番怖い。
「お前は愉快犯とかなのか?」
問う由樹を鼻で笑うツインテール。
「馬鹿か貴様は。私は誘拐犯だ。言葉もろくに使えない日本人め」
「いやそうではなくて」
「ぬ、愉快といったのかそれにしても言葉が不得手だな。愉快な犯人がいるわけないだろう。私がピエロにでも見えたか、今すぐ眼科に行け!」
指を差すツインテール。指を払いのける由樹。
「俺に魔王を誘拐したと言ってお前にどんなメリットがある」
その言葉に自慢げにふんぞりかえるツインテール。
「私の考えがわからないのであれば教えてやる。つまりは詰みだ。お前は魔王なのだからここ高天原からは出ることは出来ない。調べはついているからな。わかったか、つまりお前はここから出ることも出来ずに仲間を奪われそのままここで呆然としているしかできないのだ!」
また風をきって指をさすツインテール。指を払いのける由樹。
魔王も外に出ることが出来るし、魔王本体を動かすというデメリットを除けば外にも出られる。
さきほど確認できた事実だ。
「いろいろ勘違いしているが俺は魔王じゃない」
「何を言っている、お前は魔王だろう。ここにいるのが証拠だ」
「お前こそ何を言っている、お前と俺とが出会ったのはここから出たアパートだろうが……。魔王なら外には出られないじゃないのか?」
「はっ、なぜ貴様外に住める……」
「いやだから魔王じゃないんだって」
「魔王じゃなかったらなぜここにいる。ここいることすなわち魔王ということだろうが、馬鹿が! 人の話を聞け!」
狂的過ぎる。果たしてかつてここまでの強敵がいただろうか。由樹は立っていることもつらくなりしゃがみこんでしまった。
しゃがんだらすこし落ち着いた。黙ってツインテールを見る由樹。
冷静に考えたら、こいつと言い争いする必要性はない。
誘拐されたという魔王の所在やら安否やらを確認する上でも、最善はぐっちゃんたちと合流することだ。
ここを離れよう。
無言で歩き出すと由樹の後ろをついてくるツインテール。
念のため、スーツケースから銃を取り出す。後方を向いてツインテールに向けながら極力早く転ばないように注意しながらはや歩きする。
ツインテールは由樹の行動に驚き、反射的に両手をあげていていたが臆することなく由樹と一定の距離を保ちながらついてくる。
不敵に笑うツインテール。無視をしつづける由樹。
「魔王がどこにいるか知りたいか、知りたいだろう。お前次第では教えてやってもいいぞー」
挑発的なツインテール。
特に返事をすることもない由樹。
「内心は知りたくてうずうずしているのだろう。教えてやってもいいのだぞー」
「じゃあ教えてくれよ」
「馬鹿め、教えるはずがないだろうが、馬鹿め! 馬鹿日本人め!」
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