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ツインテール その4
「ほら、行くよ! 痛っ」
ツインテールはぐっちゃんの腕をつかもうとしたが途中で傷口が開いたのかやめてしまう。
「もうあんた何がしたいの? 早く見せて」
優しくツインテールの指をつかんでゆっくりとハンカチを外すぐっちゃん。血が少し固まっていてハンカチにはりついているようで痛々しい表情を浮かべるツインテール。
「あー。これは爪いってるわー」
「いたい……」
「治すよ。じっとしてて」
「ありがとう……い、痛くしないでね」
そんな二人というかツインテールを見て由樹は『なんだこいつ』とつぶやいた。
もはや馬鹿だのと罵倒していたことは過去のものとして記憶から消し去ろうとしていた自分は過去のものになった。
「魔王パワー」
嘘のような本当の話だがそういうぐっちゃんはツインテールの指に手をかざしている。
するとまばゆいばかりの光で指が包まれていく。光量だけではなく熱量もあるのかほのかにあたたかい。
「痛くない?」
「うん、大丈夫。暖かいね」
かわいい。
一人は血だらけで一人は内側も外側も愉快な頭をしているが、怪我を配慮している少女と怪我で弱弱しくなっている少女はかわいかった。
「お前らはこのままがいい。特にお前は石になれ」
由樹は小声で二人に聞こえないように冷めた瞳でツインテールを指差していた。
「ユキちゃん聞こえてるからね」
「ごめんなさい」
「さ、終わったよ。爪が割れててそこから血が出てたんで血を止めて傷口を塞いでおいた。爪を修復するところまではできないからそれは病院にでもいって気長に治療してもらって、魔王にも出来ないことはあるからさ」
光が消えて指にハンカチを巻くぐっちゃん。
ツインテールもほっとした表情をしている。
「礼は言うわ。ありがとう。よし、警察行くわよ!」
スイッチを切り替えたように元気になるツインテール。
ずかずかと楽しそうに前方を歩いていくツインテール。
「警察行くらしいけどユキちゃんも来るでしょ?」
「……なぜに俺が」
しぶしぶツインテールについていく由樹とぐっちゃん。
「いやさっき言ってたじゃん。自ら行くって」
「あ、行った気がする。……褐色をつれていかないと、ついでに前にいるこいつもだが」
ぐっちゃんはぱちんと指を鳴らす。
「これで呼べるけど呼ぶ?」
と、呼ぶフリをするぐっちゃん。
「あー、今どこにいるんだ、あいつ」
「上。正座したまま微動だにしてなかったからそのままにしてある」
空を指すぐっちゃん。律儀に空の上で正座して前方向だけ見ているイメージが頭に浮かぶ。
「なぁ」
「なに」
「もうこれ系のことでは何も驚かなくなってしまってそれにつっこむことはないんだが、別の疑問があるんだ」
「なにさ」
「警察とか官僚とかここに呼べないの? あと個人的にその返り血も気になるから消して欲しいんだが」
ぐっちゃんはいまだに浴びるような返り血まみれだ。
臭いとかはない。ないからと良いとかそういうことではないが単純に薄気味悪い。
しかし、ぐっちゃん本人はそれに気にした様子はない。
「……返り血に関しては個人的なもので拭ってないわけだけど、警察とか官僚とか呼ぶっていう発想の方に解説をいれるならその発想は間違いだよ。ユキちゃん」
「ん? 全く意味がわからない」
意味のわからない現在進行形で血だらけの少女。
「来たところで何もしてくれないよ。それこそ魔王の悪評が上がるだけだろうし」
「ああー。なるほど」
納得してしまう。
「納得してるなら警察にいく意味が私にはわからないのだけど」
「なんだとを!! 貴様、もしや魔王なのか!」
話の間に割って入ってくるツインテール。
振り返って本当に思い出したように声を張り上げる。
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