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ここから全てが始まり
小刻みに降り出した雨が頬を伝う。感触が不愉快だが、傘を忘れた僕にはどうすることも出来ない。
最初に断っておくと、決して僕が悪いわけじゃない。午後から雨が降るのに自信たっぷりに快晴だと言いきった天気予報が悪いんだ。
一人で毒づいていたら、ますます雨脚が強くなってくる。
このままではまずい。妹に頼まれていた大切(僕にとってはどうでもいいが)な食糧が全滅してしまう。
どこか雨宿りが出来る場所は無いかと辺りを見回すと丁度に近くにコンビニを見つけた。コンビニの軒下に滑りこんで一息つく。ここまではいいが、これからどうするか。急いで家に帰らないと僕が妹に罵倒されるが、雨を無視して帰るには少々距離が遠い。
さてと、どうしたものかな。
そんなことを考えていると、入口の傘立てに一本のビニール傘が置いてあるのに気付く。
このビニール傘を盗めば今すぐ家に帰れる。そんな考えが一瞬頭をよぎる。しかし、いくらビニール傘とはいえ人様の物を勝手に盗むのは良くないと僕の良心が強く訴える。
さて、どうしよう。
とりあえず三秒ほど考えた結果、背に腹は代えられないと有難く頂戴することにした。
素早く周りを確認してビニール傘を盗む。傘が手に入った以上、ここにはもう用は無い。
「ちょっと」
突然、後ろから声を掛けられる。僕の内心を凄まじい動揺が襲う。傘を盗んだことがばれたのだろうかと振り返ると、コンビニ袋を片手に少女が立っていた。
黒髪のツインテールが特徴の目鼻立ちの整った可愛い少女だ。可愛いと表現したのは背が低かったからで、背が高ければ綺麗なと表現しただろう。
ただ、ツインテールは良くない。これは決して僕の好みの問題ではない。僕の周りはなぜか異様にツインテール率が高いが、ツインテールにロクな人間がいないからだ。
「それ、私の傘なんだけど」
盗んだところを見られたどころか持ち主に遭遇してしまった。
どうするべきか考えるまでもない。謝ってすぐに返せばいい。
それに、僕の頭の中でも返すべきだと警鐘が鳴らされている。ツインテールだし。
だが、今すぐ家に帰りたいのも事実だ。これ以上、無闇に妹を怒らせたくない。
四秒ほど熟考した結果、このまま逃げることにした。
「すみません! ここは見逃してください!」
とりあえず謝ってから一目散に逃げる。とにかく遠くに逃げなければならない。僕は罪悪感や良心と戦いながら、一心不乱に駆け続けた。
そして、なぜか僕の体は雨によってずぶ濡れになっていた。無我夢中で逃げるあまり、どうやら盗んだ傘を使わなかったらしい。
あまりの馬鹿らしさに思わず笑いが込み上げてくる。僕はいったい何のために傘を盗み、あんなにも逃げつづけたのか。
傷心の僕の耳に携帯の着信音が入ってくる。僕の携帯だ。ポケットから携帯を取り出すと
着信画面には『性悪1』と示されていた。
……あいつからか。
「……もしも――』
「あんたさ、家を出てから何時間たったと思ってるの? 勉強・スポーツ・家事のどれも満足に出来ないくせにパシリすらも出来ないわけ?」
「……ごめん。でもどこにも見つからなくてさ。期間限定のいちごあんぱん」
傘を盗んで逃げてたのもあるけど。
「それで、見つかったの?」
「一応は」
「その含みを持たせるような言い方気に入らないんだけど。何かあるの」
「別になにも。それよりも何時間もあんぱん探して駆けずり回った兄に対する感謝の言葉は無いの?」
「満足にお使いすら出来ないのに何言ってんだか。あ、それと、後三十分以内に帰ってこなかったらあんたのゲーム機割るから」
ぶつりと何の慈悲も慈愛も感じさせない音で通話が切れる。
くそっ! さっさとくたばれ、性悪!
携帯を床に叩き付けたい衝動に駆られるが、ゲーム機割られた上に携帯まで割ったら明日からの生活が見えなくなる。
とりあえず帰るしかないが、何も考えずに走ったせいか自分がどこにいるのか分からない。辺りの景色を見回しても今一つ自分の場所を把握できない。
仕方なく携帯のGPSで場所を割り出す。さっき地面に叩き付けなくて本当に良かった。
どうやらさっきのコンビニを中心に自宅とは正反対の方向に逃げたらしい。どう考えても三十分で帰れる距離ではない。
さようなら、僕のゲーム機。願わくば、来世では幸せに。
意味の無い現実逃避で自分を慰めながら、とぼとぼと家路に着く。今度は忘れずに傘も差す。
「やっと見つけた」
初めまして、ジャイロと申します。小説を書くことに慣れていないため、文章や内容に稚拙なところが沢山あると思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
週に1~2回の頻度で更新していけたらと思います。
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