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王立クロムウェル魔術学園 作者:春瀬

魔術学園編

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ツインテール

学園編はじめました。ようやくここからが本編です。
閉じた瞼の内側にまで差し込む光で目が覚めた。
なんだか久々に懐かしい夢を見ていたような気がする。


「ふぁ...入学試験かぁ、懐かしい。もう6年以上も前の話になるのか」


あくびを一つこぼして、まだ眠い目をこすりながら思わずそうポツリとつぶやいた。
この学園に入学してきたのは6年前のことで、僕は今年で16歳になった。


あの頃のアルはまだ可愛げがあったなぁ。
テオは相変わらずにこにこしてて可愛いけど。


ぐーっと伸びをして、ふかふかのベッドから起き上がった。
腰の辺りで切りそろえられた無駄に長い髪が、一拍遅れてついてくる。


そろそろ切ろうかなぁ。邪魔になってきたし。


そのまますたすたと歩き出し、部屋に備え付けの洗面台で顔を洗う。
洗面台といっても現代にあったような蛇口を捻るようなタイプではない。
つるりとした白い石で出来た風呂桶のようなものと、その側面にビー玉ほどの魔石が2つ嵌められており自分の魔力を注ぐと盆の中に水を現れるだけの簡単な魔道具の一種だ。
庶民の間でも最近普及しはじめた魔道具であり、使う魔力は微々たる物だ。


「んあっ、つめたっ?!これ水じゃんっ」


お湯お湯、あー、スイッチどこじゃスイッチ。

手探りで側面の魔石を探す。つるりとした石の表面を滑らせるように撫でていると、指先がようやくスイッチとなる魔石に触れた。
二つあるうち、右の魔石に魔力をこめなおす。
すると盆の中の水が消え去り、かわりにぬるま湯で満たされた。
二つ嵌められた魔石のうち、ひとつが水、もうひとつがお湯、という風に振り分けられているのだ。こめた魔力の量によってそれぞれ温度が微調整される。


こういった魔道具からもわかるように、この世界の文化レベルは決して低くない。が、科学技術に限って言えば、現代とは比べ物にならないほど遅れている。
まぁ魔術という規格外の力が存在するせいだろう。
この世界に車や飛行機はないものの、生身一つで空を飛んだり、馬よりも早く走ったりすることができるのだ。
魔術があるせいで、科学技術は相当遅れているのだろう。


だって考えてみて、ちょっとマナの力を借りるだけで火をおこせるのにガスコンロは必要か?


基本的に生活に使うような魔術はあまり大きな魔力を必要としないものばかりだ。その上この世界に生まれた人間は、みんな多少なりとも魔力を持っている。


そりゃ、科学技術なんかお呼びでないよね。よほどの物好きでもない限り、どうしたら火がつくのか!とか、魔力以外の動力を!なんてそんな研究してみようなんて思わない。
まぁそんな物好きがうちの学園には何人もいるんだけど。


ぬるくなったお湯で顔を洗い、すぐ脇に詰まれたタオルを一枚手にとって顔を拭いた。
柔らかいタオルのおかげで顔がひりひりすることもない。

水差しから冷たい水をコップに注ぎ、一息に飲み干す。


「ふぅ、ちょっとは目覚めたかなぁ」


学園の規則として使用人を連れてくることができない、というものがある。
洗濯や食事の用意は、学園側で雇っている使用人たちがすべてこなしてくれるのだが、自室の掃除や着替え、物の管理などは全部自分ですることになっているのだ。

当然僕もアリスを連れてくることはできず、すべての支度を自分で整えることになるが、春樹として生活していた頃はそれが当たり前だったので、そう不自由は感じない。

この学園には貴族が多い。
使用人たちが身の回りのすべてをこなしてくれていたような子供多く入学してくるのだが、ルールに例外はなく、彼らも自力で生活して行くことになる。
とはいっても、どこの家も入学前に一通り自分でできるようそれぞれの家で子に学ばせるようだ。
貴族といえども自分で何も出来ないのは恥、という考えがこの国には根付いており、入学してからは同じ寮に住む先輩たちが手を貸してくれるのでまったく無いとは言えないものの、そうそう問題が起こることはないようだ。



現在僕は学園寮の一人部屋に住んでいる。一人は楽だ、同室の人にいちいち気を使わなくて済むし。

学園の生徒は全員強制的に寮に住むことになっているが、全員が全員一人部屋にしてもらえるわけじゃない。完全能力主義のこの学園では、待遇のすべてが成績や在学中に残した実績できまるのだ。
大体学園に何人生徒がいると思ってるんだ。全員一人部屋だったらとんでもない部屋数になる。
1人部屋、3人部屋、6人部屋があり、それぞれ新学年にあがるごとに前学年内での成績や実績を元に振り分けられているのだ。
僕はありがたいことに、ここまで6年間ずっと一人部屋を使わせていただいている。

8畳ほどのワンルームに、簡単なシャワー室とトイレ、キッチンがついただけの部屋だが、充分だ。
一応トイレとシャワー室は別に分けられているし、足を伸ばしてゆっくりお風呂に入りたいときには大浴場がある。
転生する前に一人で暮らしていた部屋もそんなようなものだったしね。


「さてと、そろそろ準備しようかなぁ」


ずいぶんとゆっくりしているが、今日は普通に授業のある日だ。が、僕の出席率はかなり悪い。僕だけじゃない、アルとテオもあわせて相当悪い。
ここで先ほどの待遇の話が出てくるが、試験の成績優秀者は自分の好きな生徒を集めて研究室を持つことが出来るのだ。簡単に言えば、部活みたいなものだろうか。

ユーリカ先生の鬼のしごきになれてしまった僕は、学園の授業ではすぐに物足りないと感じるようになった。
中等部にあがると同時に、僕らは一つの研究室の設立を申請した。
学力試験優秀者のアルと、武術試験優秀者のテオと、魔術試験優秀者の僕。
3人で作り上げた研究室に僕らは篭り気味だ。
おかげで授業に顔を出すのは一週間に一回もないかもしれない。

幸い、この学園はそれぞれの学期末に行われる試験の結果さえよければなにも言われない。
普段授業に参加せずに研究室で好き勝手に好きなものだけ研究していようが、学食でおやつを食べていようが、図書館で本を読んでいようが、試験で高得点さえ叩き出せば最終的な評定はすごくいい物をもらえるのだ。


以上が、もうすでに窓の外で日が高く上っているのに僕がのんびりとしている理由だ。
正直焦る必要がないからなぁ。
研究室に行くのに時間とか決められてないし。



鏡台の前に置いた椅子に腰掛け、鏡を覗き込んだ。
少し眠たげな顔の、色の白い少女がこちらを見返してくる。
はじめて鏡を見たときに衝撃を受けた顔立ちは、順調に順当に育ち立派な美少女のそれだ。



眉上で切りそろえられた銀の前髪はさらさらと揺れていて、卵形の小さな顔に、パッチリとした大きな瞳。ふさふさと瞳を囲むまつげに、つんととがった鼻。引きこもりのせいで病的に白い肌を引き立てる桜色の唇。
とろんとした、綺麗というよりは可愛いと評される顔立ち。


文句なしの美少女でしょう。
正直自分の顔じゃなければドストライク。


平凡な前世の顔からは想像もつかないほどの可憐さだが、さすがに16年間も付き合い続ければ慣れる。
最初の頃はひどく戸惑った排泄行為や入浴も、今ではなんのためらいもなく行うことが出来るようになった。


「今日は赤かなぁ」


長いストレートの髪を、手に取った赤いリボンを使って二つに括る。
俗に言う、ツインテールというやつだ。


なんというか、僕はツインテールが好きだ。いや、すきなんてものじゃない、愛してるんだ。
女の子の髪型はロングのツインテールが最強!それ以外は認めない!
耳下で二つに括ったのがツインテール?お前は僕を馬鹿にしてるのか!?
高い位置で二つに括るのがツインテだ!お前のそれはおさげだ!!!
僕はツインテールが大好きなんだ!愛してるんだ!
正直次に生まれ変わるなら美少女のツインテをまとめるための紐になってもいい!
オプションで貧乳もつけてくれるともっとうれしい!ツインテ貧乳!ああ、なんとすばらしい響きなんだろう。
言葉の響きだけで10回はネタに出来る!なんのネタかは言わないけど!


誰に向かって言うでもなくそう力説する。ビバ!ツインテ!
ツインテは神がこの世に生み出した奇跡だと思うよ。

余談だが僕の体は全体的に起伏に乏しい。尻も薄いし胸もない。
全体的にすべてが小さいのだ。背も小さいし、顔立ちも同じ世代の子らと比べると幼く見える。


そんな僕がツインテ!小柄ツインテ貧乳!さらには色白美少女!
神スペックじゃないですか!!やだ~~~!!!!
なんでこれ自分の体なの!!!!!!!ひどい!!!!


といったような理由で僕は髪型は絶対にツインテールと定めているわけなんだけど...。

そろそろ考えるのをやめよう、このままだと自分の身体に自分で興奮してる変態の烙印を押されそうだ。
そんなことになったら僕は世間的に死ぬ。ついでに家名にも傷がつく。


最後に一度、前髪にだけ櫛を通してイスから立ち上がる。
もっと言うのなら前髪にもこだわりがあって、姫カットぱっつんが至高、という持論があるのだけど...。
やめておこう。僕にはまだ変態の謗りを受ける覚悟はないんだ。



そのまま壁にかけられた制服に腕を通す。
僕はこの制服のデザインを、結構気に入っている。

一般的なブレザーのような形で、Yシャツにネクタイにカーディガン、その上から上着をはおり、女子は赤チェックのスカート、男子は深い青のズボンになっている。
そのデザインが結構可愛いんだ。
女子制服はお嬢様校の制服みたいで、上品さの感じられるデザインになっている。


ネクタイの色は、初等部生は一律緑。中等部からは学科ごとに色分けされており、魔術科が赤、戦術科は青、武術科は黄色で、魔工科は紫である。
ネクタイをみれば相手の学科が分かるので、便利といえば便利だ。


そして僕は首にネクタイを巻く。その色は、赤だ。
王立クロムウェル魔術学園中等部魔術科1年。
それが今の僕がもつ肩書きだ。


まぁ選んだ学科については少し迷いや後悔もあるんだけど、まぁそれは置いといて。
最後に靴下をひざの下まで伸ばしきって、準備を終えた僕は出入り口のすぐ脇に備え付けられた鏡で全身を簡単にチェックする。



うん、完璧、いつもどおり。
僕可愛い。ごめん調子乗った。



すこしだけ立て付けの悪い部屋の扉をぎぃ、と開いて、そのまま学園に登校するべく歩を進めた。





ツインテール大好きです 
書き溜めない、つらい

幼少期編の最終話、改稿しようと思っています。
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