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第5話 教育 オレは女にされていく
オレの中学も多分にもれず小子化の影響で教室がいくつか空いている。そのうち家庭科準備室の一室がオレのために用意された。オレはこの教室で女になるための教育を受けることになる。校長はお嬢様教育と言ったが、そんなのは女の子が受けるもので、男のオレにとってはお嬢様より前に、まず女の子にならなければならない。
受験も進んで、3年生はもうほとんど授業は行われていなかった。特に家庭科は他の学年もそんなに授業はなかったから、オレはほとんど毎日三吉先生に教育されることになった。
まずいことに三吉先生はオレが性同一性障害だと知らされていたから、オレは自ら進んで女になりたい少年ということになっている。おかげで三吉の女性化教育は容赦がない。
オレはただちょっとしたマナーを習うだけだと思っていたが、そんな生易しいものではなかった。まずこの教室に入ると女子の制服に着替えるように強制された。もっとも強制と感じているのはオレが本当はその気がないからで、三吉はオレがずっと女子の制服を着たくてたまらなかったと思っているのだ。だからオレは嫌がるそぶりも見せることもできない。
「これはあなたの為に用意したものよ。卒業生のお古だけど結構きれいでしょう?」
「ほんとに・・・着てもいいんですか?」
「ええ、もちろんよ。あなたずっと着たかったんでしょう。この制服はもうあなたの物だからいつでも着ていいのよ。」
「わあ、ありがとうございます!」
もちろん着たいハズはなかったが、喜んでいるように見せねばならない。
オレは高校のセーラー服を着ることにはすでに観念していたが、まさか中学のセーラー服まで着ることになるとは思ってもみなかった。これまでの中学生活の3年間ごく普通に、時にはドキドキしながら見ていたセーラー服に袖を通すのは変な感じだった。
中学の制服は、清楚な白鴻女学園のものよりずっと可愛らしいデザインをしている。衿と胸元には3本の白い線が縫い付けてあり、スカーフは赤い色でくくらずに胸元の筒状のものに通すだけだ。白い筒には中学のマークが入っている。
オレはこの部屋の鍵を渡されていつでも入ることが出来た。もうひとつの鍵は三吉先生だけが持っているから、鍵をかければ三吉先生以外誰も入ってくる心配はない。窓にもカーテンを閉めていたから、オレはここでは安心して女の子になることが出来る。
この部屋に入ると、まずオレは学生服を脱いで女性物の下着をつける。ブリーフを脱いでパンティーを穿く。さすがに小さいパンティーでは勃起した時にまずいので、学校ではお腹まであるものを穿いている。ブラジャーも母に買ってもらった中学生らしい白いブラジャーだ。ホックを前で嵌めて後ろに回せば簡単だが、練習なのだから出来るだけ後ろで留めるように言われている。
ブラジャーには金属のワイヤーが入っているが、オレの胸には引っかかるものがないから、腕を上げたりするとすぐにずり上がってしまうのが悩みの種だ。
ただ着けてみてもペタンコで何とも様にならない。仕方なくカップの中にストッキングを入れてみた。
その上に白いスリップかレースがついたタンクトップを着る。実際にはTシャツなど着ている女子も多いらしいが、オレの場合、女らしくなるためにやっているのだからと、女の子っぽい可愛らしい下着しか与えられていない。
中学の制服のスカートは、外見は白鴻女学園のと同じようなプリーツスカートだったが、ワンピースのようになったジャンパースカート形式だった。このスカートは丈が変えにくいから、スカートを短くしたい女子には不評だったが、女子とは腰の位置が違うオレにはスカートだけのものよりずっと着やすかった。
上着は衿が大きめで袖も少しふっくらと作られていて、高校の制服より少女っぽいため男のオレが着てもなんとなく可愛いく決めやすい。赤いスカーフはくくる必要がなく簡単だ。練習に着るにはちょうどいいかもしれない。この制服の前の持ち主は胸が大きめだったようで、オレのAカップにストッキングを突っ込んだ胸では少しだぶついてしまう。ブラジャーをBかCにして多めに詰め物をしたら丁度いいかも知れないが、母に大きいブラジャーを買ってくれなんて恥ずかしくて言えるハズもない。
オレはこの制服を着て、立つ姿勢や、座った時の足の形や、歩き方や、その他ちょっとしたこまかな事を、いちいち三吉に指摘されて直された。下にあるものを取る時もヒザを開いてはいけないとか、カップを持つ時に小指を立てるのはやりすぎだとか、椅子に座る時は背中をつけてはいけないとか、うるさいことこのうえない。
言葉も三吉の前では女言葉をしゃべらなければならなかった。しかも文法まで指摘される始末で、クラスの女子だってこれほど丁寧なしゃべり方をする者などいないだろう。
家庭科準備室には調理場もあるし、ミシンやアイロンも置いてある。三吉はオレに料理や裁縫や編み物まで教えるつもりらしい。料理は嫌いじゃないが、裁縫などはほとんどやった事がない。
三吉はお茶や華道や書道もたしなむらしい。そんな事までオレに教えるつもりなのだという。どうせ卒業までだと思っていたが、オレは甘かったようだ。卒業した後も、春休みになっても教えてくれるらしい。まったく有り難い話だ。
こんなに大変な思いをするのなら、ちゃんと受験勉強をして普通に男として高校に通えば良かったと思うが後の祭りだった。追加入試をやるところもあるらしいから、今からでも間に合うかもしれないとも思ったが、回りが全部オレのために動いているのに、今さらそんなことはとても言えなかった。
三吉は本気で入学までに男のオレをお嬢様に仕立て上げるつもりらしい。
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家では家で、母が用意した女の子の服を着なければならなかった。女の子の服といっても、Tシャツにパンツのように男のものと大差ない形のものもあったが、そういうのは少ないうえ、ご丁寧にデザインや色が可愛いものを用意してくれていた。
毎日着るものが用意されていたから、自分の好みで選ぶことも出来なかった。しかしこれもオレが女の子の服に慣れるために、やってくれているのだから文句をいうことも出来ない。
オレはその日置いてあった服がどんなに着たくなくても着るしかないのだ。
ワンピースなどは比較的着やすかった。しかしブラウスにスカートとなるとやはりスカートの位置がどうしても下になり、ともするとブラウスの裾がはみ出してしまう。また、着やすいかと思っていたパンツスタイルも案外むずかしかった。女の子と比べたらお尻が小さいからか、どうしても上手く着こなせず男っぽさが出てしまう。
家ではどうしてもくつろいでしまうが、そんな時に指摘するのは妹だった。
「お兄ちゃん、またヒザが開いてる!女の子なのにみっともないよ!」
さすがに妹にまで言われるとオレもつい文句も言ってしまう。
「麻衣だって足開いてるじゃないか。」
「だってあたし子供だも〜ん!」
まったく子供のくせに口だけは達者だ。
「麻衣ももうすぐ中学生なんだから、女らしくした方がいいんじゃないのか?」
オレがそう言うと
「う〜ん・・・じゃあ、あたしも女らしくするから、お兄ちゃんもその男ことばをやめなさいよ!」
とめざとく指摘してきた。
たしかに三吉には家でもちゃんとした言葉でしゃべるようにと言われているのだが、こればかりは守れずにいた。良い機会かもしれない。
「わかったわよ。わたしもちゃんと女言葉で話すから、麻衣も女らしくしなさいよ。」
「あはは・・・お兄ちゃんもやれば出来るじゃない!」
そう言うと急いで自分の部屋へ走って行った。
「まったく・・・なんて妹なのかしら・・・」
オレが女子校に行くのが決まってからというもの、妹にはおちょくられっぱなしだ。
「有希、麻衣も本当は心配してるのよ。あれでもあなたが女らしくなれるように協力してくれてるんだから。」
「ほんとに?・・・そんなふうには見えないけど・・・」
「本当よ、あなたの服、麻衣も選んでくれてるんだから。優しくしてあげて。」
なるほどそういう事だったのか、かあさんが買ったにしては、どうりで子供っぽい服が混じってると思った。おおかた自分が着たい服を選んだのだろう。今日のこのブラウスとスカートとカーディガンも・・・
「わかった・・・わたし謝ってくる・・・」
オレは階段を上がって奥の麻衣の部屋のドアをノックした。
「麻衣、開けてもいい?」
「・・・うん・・・」
返事を聞いてからオレはドアを開けた、麻衣はベッドに腰掛けていた。
「なに?お兄ちゃん・・・」
「麻衣、さっきはごめん・・・オレ・・いやわたし麻衣も協力してくれてるなんて・・・知らなかったから・・・」
オレは今着ている少女マンガの主人公が着るような胸元にヒラヒラがついたブラウスと、ピンクで白いレ−ス飾りがあるスカートと、レモン色のカーディガンを指して言った。
「これも麻衣が選んでくれたんでしょう?」
麻衣はコクリとうなずいた。
「・・・おかあさんに聞いたの?」
「うん・・・でもこれが麻衣が選んだものだとは聞いてないよ。ただ・・・可愛いデザインだから麻衣が選んんだんじゃないかって思ったの。」
「気に入った?」
「・・・うん・・・」
「うそ!」
「うそじゃないわ・・・まあ、本当はもう少し大人っぽい方がいいけど・・・」
「・・・お兄ちゃん!」
急に麻衣はオレに抱きついてきた。
「どうしたの?麻衣・・・」
「お兄ちゃんって、女ことば上手なんだね。」
「ふふっ・・・学校で習ってるからね。すっごく厳しい先生なのよ。」
麻衣はスカートに顔をうずめたまましばらく経ってから言った。
「じゃぁ・・うちでは男ことばのままでいいよ。あたしもうあんなこと言わないから。」
妹の気遣いが嬉しかった。しかし・・・
「ううん・・・いいの・・本当は先生にも、家でも女ことばでしゃべりなさいって言われてたのよ。でもなんだか恥ずかしくて・・・だから麻衣が言ってくれて嬉しかったの。」
オレは思わず微笑むと、麻衣にも笑顔が戻った。
「お兄ちゃんってすごいね。」
「どうして?」
「だってお兄ちゃんどんどん女らしくなっていくんだもん・・・麻衣、お兄ちゃんのこと・・・お姉ちゃんって呼ぼうかな?」
オレはいきなりそんなことを言われドキッとした。オレはそんなに女らしくなっているのだろうか?自分ではよく判らなかったのだが。
「どっちでも、麻衣が好きな方でいいわよ。」
「う〜ん・・・じゃぁ・・・お姉ちゃんって・・呼んでいい?」
麻衣は少し照れたように頬を赤くして言った。
「いいわよ、麻衣。」
オレたちはいつのまにか姉妹になってしまったようだ。まあ、姉妹になってもきょうだいであることには変わりはない。
「わたしも麻衣の良いお姉ちゃんになれるように努力するわね。」
「あたしも・・・お姉ちゃんがもっともっと綺麗になれるように協力する!」
オレは自分でも自覚のないまま、どんどん女にされていく・・・
オレにはもはやこの潮流を止める術は無かったし、止めたいのかどうかさえ解らなくなっていた。
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