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オレは女子高生 作者:AT
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第4話 困惑 オレが病気?!

 次の日、朝からオレはドキドキしていた。今日は母と一緒に白鴻女学園に行くことになっている。昨日の事で少しは精神的に落ちついたとはいえ、まだまだ女になる自信はなかった。

 オレは学生服を着て、母が運転する車で白鴻女学園へ向かった。白鴻女学園に学生服を着て行くのはこれが最後かもしれない。

 白鴻についてはじめて今日も普通に授業がある日なのだと思い出した。校庭には白鴻女学園の女生徒たちが体育の授業をしていた。オレの中学では体育の授業の時、女子たちはモモまであるスパッツを穿いていたが、白鴻の女生徒たちは体操服に昔ながらのブルマーを穿いていた。その股の形はパンツと変わらず、年上の女子高生の艶かしい太モモが丸出しになっている。角度によっては力を入れた時に内股が凹んでブルマーとの間にすき間が出来、パンティーまで見えそうになる。
オレはこんな体操着を着なければならないのかと思うと、また心配になってきた。


 オレと母が正面の入口から入ると受け付けで用件を聞かれた。母はただ校長先生と会う約束になっている事を告げた。
しばらく待っていると、バーコードの教頭が現れた。教頭と母の挨拶が終ると、教頭はオレたちを校長室へ案内した。

 校長室に入るとそこには白髪の校長先生がいた。こっちは教頭とは違い白髪だがフサフサだ。それに痩せている教頭とは違い、かなり太っている。
「やあ、よくいらっしゃいました。戸田君でしたね。」
「はい。戸田有希です。」
オレは校長に挨拶した。

「さっそくですが、有希君の入学に関してお話します。ご存知のとおり我が校は女子校なので、有希君にも女子として入学していただくのはすでにお話したとおりです。」
「はい・・・」
母とオレは同時に返事をした。
「ただですね、有希君が男の子だとバレなければいいのですが、もしもバレた時の事も考えておかなければなりません。その件について教頭から説明いたします。」
校長にそう言われ、教頭は自分の横に置いて用意していた分厚い封筒の中身を出して、テーブルの上に置いた。

「えーそれでですねぇ、考えたのですが、有希君は性同一性障害ということにして頂きたいのです。」
「性同一性障害?」
「はい。性同一性障害とは、体は男の子なのに、心は女の子という病気です。」
「え?それってニューハーフとかですか?」
「まあ、そういう人もいますが、もう少し違う意味合いのものですかねぇ・・・ま、そこらへんはお互い、追々勉強するということで・・・」
どうも教頭も良くは解ってないようだ。

「有希君が当校を受験したのはこちらにも責任がありますので、こちらで出来るだけサポートさせて頂くつもりです。しかし、有希君が男とバレてしまい騒ぎにでもなれば、当方としても収拾出来なくなる可能性もあります。そうなった時には有希君は性同一性障害であるという設定で行かせて頂きたいのです。」
なんだかドラマの設定みたいだと思った・・・さしずめオレは役者ってことになるのだろうか・・・

「最初からそう設定しておけばイザという時に慌ててボロを出す心配も少なくなると思いますし、当校といたしましても人権に配慮する学校という良いイメージに持って行くことも出来ると思うのです。」
「なるほど、それはいい考えですね。それなら有希を安心してお任せできます。」
母はそう言ったが、演じるのはオレなのだ。オレとしてはとても安心という訳にはいかない。
「つきましては、これが性同一性障害に関する資料ですので、イザという時のために良く読んでおいて下さい。」

そう言って渡されたのは例の分厚い封筒の中身だった。一番上には『性同一性障害に関する資料』と書いてあった。
「ちなみに本当の事を知っているのは、校長と教頭の私だけです。他の先生方は有希君が女の子でないことは知っていますが、全員有希君のことを性同一性障害者だと思っています。」
これはやっかいな設定になってきた。生徒の間では本当の女を演じ、先生との間では性同一性障害の男の子が女を演じているということになるか?何がなんだか良くわからなくなってきた。

「ところでお母様、有希君の名前はどうされますか?学校の中では女の子の名前に変えることも出来ますけど。」
「そうですねぇ・・・有希はどうしたい?変えた方がいい?」
「う〜ん・・・そのままじゃダメかなぁ?女の名前でもおかしくない気がするけど・・・」
「そうねぇ、時々間違ってユキって呼ばれることもあったわね。」
そういえばそんなこともあった・・・
「僕このままでいいです。」
なんだか面倒なことになってきたのに、名前まで間違わないように注意するのは大変だ。
「解りました。それではそのまま有希さんということで行きましょう。」
教頭はいとも簡単にそう言った。


 「それではこれから家庭科室の方に行きましょう。家庭科の先生が採寸を行って下さることになっていますので。」
「採寸?」
オレは思わず聞き返した。
「あ、そうだ。言い忘れていましたが、ご迷惑をおかけしていますので、有希君の制服等は当方で用意させて頂きます。制服を作るための採寸です。」

 校長室を出るとちょうど休み時間になっていた。その結果、家庭科室に行く途中で多くの生徒たちとすれ違うことになってしまった。女生徒たちがオレたちをジロジロ見ている。それはそうだ、学生服の男の子と母親が教頭先生と一緒に女子校の中を歩いているのだから、何事かと思われても仕方がない。オレは律儀に学生服を着てきたことを後悔していた。もっとも彼女たちがいくら興味を持ったとしても、まさかオレが女として入学してくるなんて突飛な想像をした人は一人もいないだろう。

 家庭科室に入ると一人の女の人がいた。その人が家庭科の松本たか子先生だった。
「こんにちは戸田さん、今まで男の子として生きてきて辛かったでしょうね。」
オレはそう言われてドキッとした。何の心の準備も無いまま、いきなり性同一性障害の設定に突入していたのだ!
「は、はい・・・」
オレは何とか気持ちを落ちつかせようとした。

 「私はちょっと用がありますのでこのへんで・・・松本くん、終ったらお二人を駐車場まで案内してあげて下さい。それじゃ有希君、お母様、私はこれで、また何かご不明の点がありましたら電話ください。」
そう言って教頭は帰っていった。
「戸田さんは名前はそのままにしたの?」
「はい。愛着もあるので。」
「そうよね、それに有希って女の子の名前でもカッコイイものね。」
オレは何とか笑顔でごまかすしかなかった。まだ性同一性障害がどういうものかも良くわかっていないのだ。
「それじゃ上着を脱いでみて」
オレは言われるままに学生服の上着を脱いでカッターシャツになった。

 すると松本先生がいきなりオレの脇に両手を入れてバストを計りだした。オレの体に頬が触れ、オレの心臓は一気に速さを増した。メジャーを前で合わせた先生が
「そんなにドキドキしないで、目盛りが合わないわ。」
と冗談っぽく言うと、オレの股間が充血し硬くなっていく。

や、やばい・・・心が女なのに女に興奮してたらおかしいじゃないか!
オレは必死に萎えそうな事を頭の中で考えた。

 松本先生は性同一性障害に興味があるのか採寸しながら色々聞いてくるので、オレは気がきじゃなかった。
「戸田さんは家では女の子の服を着てるのかしら?」
「は、はい・・・」
いきなり聞かれ口から出任せで答えてしまった。その時、前に立っている母と目が合い急に恥ずかしくなって顔が赤くなった。しかし採寸中の先生はそのことに気付かなかったので助かった。
「下着はどうしてるの?女ものなの?」
「い、今はブリーフです・・・」
これではいつもは女ものを穿いていると言ってるようなものだろうか?
「ブラジャーもする?」
ほら、やっぱりパンツは女ものだと思われてしまった!
「まだ、したことないです・・・」
これは本当のことだ。
「あら、そうなの。それじゃサイズを教えておいてあげなきゃね。」
先生はメモ帳にサイズを書きながら
「あなたのサイズは70のAね。70っていうのはアンダーバスト、あなた場合胸の下の部分ね。Aはカップの大きさ。もっともAでも余っちゃうでしょうけど・・・」
そこまで言って急に先生の顔色が変わった。
「あ、ご、ごめんなさい!気にしてるわよね。」
そして後ろを振り返り
「お母様、申し訳ありませんでした。有希さんを傷つけるつもりはなかったんです!」
必死に謝る先生を母がなだめている。
オレはいったい何が起こったのか判らなかった。オレはぜんぜん傷つけられたような気はしなかったが・・・

 松本先生は結局それ以降あまりしゃべらなかった。
オレたちは採寸が終ると先生に駐車場まで送ってもらった。先生は最後まで恐縮し、何度も謝っていた。
車が動き出すとオレは母に聞いた。
「あの先生何を謝ってたのかな?」
「ふふっ、有希は男の子だから解らなかったのね。ブラジャーのAって一番小さいサイズなの。有希には当然胸は無いから先生はAでもぶかぶかだって言ったんだけど、それは女の子にとってはすごい侮辱なのよ。」
「へ〜・・・」
オレは返事をしてはみたもののそれでも良く解らなかった。
「男の子はよく胸が小さい女の子にペチャパイって言うでしょう?」
「うん・・・」それはオレも一回や二回・・・いやもっと言ったことがある。
「先生は悪気はなかったんだけど、思わずあなたがペチャパイだって言ってしまったようなものなの。心が女の子だと思ってるから傷つけたと思ったのね。」
オレはその説明でやっと先生が謝っていた意味がわかった。しかし、オレは胸が無くても当たり前だと思っていたが、性同一性障害の人は男でも胸が無いのがショックなのだろうか?
「有希もブラジャー買わなきゃね。Aの70。」
胸も無いのにブラジャーをするのかと思うと、なんだかオレは複雑な気持ちになった。


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 オレと母は、そのまま車で中学へ行った。白鴻での話をうちの中学にも伝えなければいけなかったからだ。
オレと母は校長室で校長と担任に、さっき白鴻で話してきたことをそのまま伝えた。すると校長が
「いや私も、もしバレた時のことが心配だったのですが、性同一性障害とはうまいことを考えたものですなあ。」とやけに感心していた。
「あー今後は、当校でも卒業まで有希君が白鴻女学園に行っても困らないようにサポートするつもりなのですが、うちもその性同一性障害という設定に乗せてもらいましょう。」
オレと母は意味がわからず顔を見合わせた。

「あー実は、白鴻女学園といえばお嬢様学校ですから、有希君がその中に入っても困らないように、当校のマナーに詳しい三吉先生にお嬢様教育をしてもらおうと思っていたところなんです。」
「あら、それは有り難いですわ。」
母はそう言ったが、オレはまったく有り難くないと思った。なにしろ三吉といえば口うるさくて有名な家庭科の教師だ。男のオレはほんの少ししか習ったことはなかったが、女子たちは三吉のことを影でクソババアと呼んでいたくらいだ。

 「あーただ三吉先生に頼むとしても、なぜ男子の有希君を女として教育するのか理由に困っていたんです。しかし、有希君が実は性同一性障害だったということにすれば、高校からは女として生きていくのだからという十分納得できる理由になります。」
なんだかどんどん面倒な方向に行ってる気がしてきた。オレは逆らうことが出来ない大きな潮流に呑み込まれてしまったみたいだ。

 だが回りはもう勝手に動き始めている。オレは情けないことに、舞台の上でストーリーも判らないままおろおろしている役者だった。オレに出来ることといえば何とか早くストーリーを知ることくらいしかなかった。
とはいえ、この舞台に本当にストーリーがあるのかどうかもオレには想像すら出来なかった。




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