猛暑のなか熱中症で命を落とす下流老人ーエアコン普及率と高齢者の貧困ー

藤田孝典 | NPOほっとプラス代表理事 聖学院大学客員准教授

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日本の一般世帯のエアコン普及率は91.2%

全国各地で猛暑が続いている。

普段のわたしはエアコンを使用しないが、さすがに昨晩はエアコンを使用しなければ寝つきが悪かった。

そして、猛暑に合わせて体調を崩し、熱中症による死傷者の報道が毎日続いている。

猛暑に耐えるためには、適切なエアコンの活用も必要である。

まず内閣府の「消費動向調査」(2015)では、一般世帯のエアコン普及率は91,2%である。

ほとんどすべての家庭にはエアコンがあり、一般家庭のエアコン保有台数は約3台であることも報告されている。

一家に3台はエアコンがある時代だ。

エアコンは家電量販店の活躍もあり、一時期よりも安くなっており、設置費用込みで数万円で購入することも可能だ。

物質的に豊かな日本社会でエアコンはほとんどの家庭にいきわたっている。

忘れてはいけないエアコンがない世帯の存在

しかし、このエアコン、一般的にどの家庭にも普及していると思いきや、ある層の人々の住宅には設置されていない割合が高い。

Yahoo!個人ニュースのオーサーである不破雷蔵さんは、前述の内閣府の調査を分析し、「夏に向けてエアコンの普及率を再確認」という記事をグラフも作成しながら配信している。

その記事は実に興味深いので引用して紹介したい。

一般世帯よりも単身世帯の方が普及率が低く、中でも男性高齢者の単身世帯(つまり男性のお年寄り一人身世帯)では、2割近くはエアコン無しと回答しているのが気になる。さらに中堅世帯は76.6%と1/4近くがエアコンなしと回答しており、高齢層よりは体力リスクは低いものの、健康状態が不安視される。

住宅種類別では賃貸住宅、中でも単身世帯での低さが目立つ。賃貸住宅における普及率の低さは、上にある「年収と普及率の正比例関係」と浅からぬ関係があり、「単身世帯」まで合わせて考えると、「賃貸住宅住まい」「一人身の高齢者(特に男性)」といった組み合わせにおける、エアコンなし世帯の比率の高さがイメージされる。

体力の衰えや地域社会との接触の難しさから、特に定年退職後に生活環境が一変する男性高齢者は、室内に閉じこもることが多くなる。そのような環境下でエアコンが無いとなれば、室内での熱中症のリスクが懸念される。さらに万一そのような病症に陥っても、誰にも気が付かれないまま病状が悪化する可能性が高い。

出典:不破雷蔵「夏に向けてエアコンの普及率を再確認」

要するに、民間賃貸住宅に住む男性高齢者の単身世帯では、エアコンの普及率が低いのである。

一人暮らし高齢者はエアコンを持っていない割合が高い。

わたしは過去のYahoo!個人ニュースの記事【増え続ける「下流老人」とは!?ー年収400万円サラリーマンも老後は下流化する!?ー】で、高齢者世帯の貧困率の高さを指摘した。

単身高齢男性のみの世帯では38,3%、単身高齢女性のみの世帯では、52,3%が貧困率にあたる収入しかない。

その世帯においてはエアコンを設置することが、そもそも困難な実態がある。

このようなエアコンの普及率の低さは、生活保護受給者も同様である。

わたしが家庭訪問をする低年金や生活保護受給高齢者の自宅には、エアコンが設置されていない場合が多い。

あるいは設置されていても光熱費の負担が重いため、コンセントが抜かれていることもある。

室内で利用されているのは、専ら年季の入った扇風機である場合も多く、風通しの悪い環境であれば、熱中症になってもおかしくない。

エアコンを買えない、あるいは買っても光熱費を気にして利用できない、壊れていて使用できない環境にあるのではないかと懸念する。

熱中症で命を落とす高齢者の存在

このような低年金であったり、低所得の高齢者は、若者などと比較して、体調管理が難しい。

健康状態が悪い人も若者と比べても多い。

そのため、暑さや寒さなどの環境変化に極めて脆弱な側面を持っている。

熱中症の報道をみてお気づきだろうか。

高齢者の死傷者が多いことを。

マスコミ報道もこの高齢者の熱中症被害の裏側に焦点をあてて、死傷者の声を聴いてほしいと思う。

何が熱中症関連死に追いやっているのかということを。

こまめな水分補給を、公共施設へ避難を、と熱中症対策を呼び掛けることも大事であるが、移動に困難がある高齢者もいる。

自身ではこまめに水分補給できない高齢者もいる。一人暮らしの高齢者も増えているため、周囲に体調を気遣う人も少ない。

エアコン助成、中古エアコンの配布の必要性

そのため、過去には生活保護受給世帯に対するエアコン設置費用への助成が行われた自治体もある。

4年前の2011年7月には、あまりの暑さから、東京都が「生活保護世帯に対する冷房機器設置の緊急支援策を実施」し、生活保護受給世帯の高齢者に対して、1回限りのエアコン購入費用の助成が行われた。この助成で救われた高齢者は多いことだろう。

大変画期的な政策だったと思っている。

生活保護受給者に限らず、低年金で暮らすいわゆる「下流老人」の存在も指摘してきたところだ。

日本は物質的に豊かな社会である。一般世帯ではエアコンは3台も保有している。

その社会において、エアコンを買うこともできずに命を落とす高齢者がいていいものだろうか。

低所得高齢者に対するエアコンの助成や民間レベルでの中古エアコン再利用や再配分の必要性を感じている。

わたしのNPOでも昨年、NHKわかば基金などを活用し、生活保護受給世帯に対して、中古エアコンを配布する事業を行った。

このような文字通り、命を救う活動など、官民連携をしながら考えていく必要がある。

そして、高齢者に対する地域や福祉関係者による見守り体制の強化も必要だろう。

藤田孝典

NPOほっとプラス代表理事 聖学院大学客員准教授

1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。社会福祉士。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論・相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。著書に『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版 2015)『ひとりも殺させない』(堀之内出版 2013)共著に『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。

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