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山崎豊子さん日記 「不毛地帯」「大地の子」「運命の人」… 戦争への怒り次々と作品に
「白煙のもうもうと立ち上る焼けただれたこの姿、私の胸から一生忘れられない焼印だ」
今回発見された山崎豊子さんの日記には、生々しく強烈な戦争体験や、戦争への怒りがつづられている。それは、その後に続く作家人生を貫く大きなテーマとなった。
山崎さんは、生まれ育った大阪の街が一夜にして焼け野原と化した無力感を、初期の作品の中で繰り返し、克明に書いている。「暖簾」「ぼんち」では実体験同様、主人公が焼け落ちる自分の店を見つめる描写が、直木賞受賞作「花のれん」でも、ヒロインが苦節の末に手に入れた寄席どころの焼け跡を呆(ぼう)然(ぜん)と見つめるシーンがある。
またその後の作品でも、「不毛地帯」の主人公はシベリア抑留を体験し、「大地の子」では中国残留日本人孤児の悲劇が描かれた。「運命の人」は、沖縄返還をめぐる日米の密約を告発する。未完となった遺作の「約束の海」は、先の大戦の際にハワイの真珠湾で捕虜になった旧海軍士官の父と海上自衛官の息子の人生を通じ、戦争と平和を問う物語だ。
山崎さんは戦争で生き残った者として、作品を通して、戦争の本質に迫ろうとしていた。「約束の海」は、病気と闘いながらの執筆となったが、「今の時代、戦争をテーマにした作品が書かれなくなってきている。生き残った者の使命として、戦争を書いて伝えていきたい」と、死の直前まで作品に取り組んでいた。