任天堂は13日、岩田聡社長が11日に胆管腫瘍で死去したと発表した。6月26日の株主総会で再任されてわずか2週間後の急逝だ。岩田氏は「ニンテンドーDS」などのゲーム機をヒットさせ一時は株式時価総額を10兆円まで伸ばした。スマートフォン(スマホ)ゲームに押されるなか業績回復を目指す矢先の死。「カリスマ」亡き後の任天堂はどこに向かうのか。
岩田氏の死去は英国放送協会(BBC)など欧米メディアも速報した。2014年6月に胆管腫瘍であると明かしていた。今年の株主総会では約1時間に及んだ株主の質問にほぼ1人で応じるなど病を感じさせない采配ぶりを見せ社内も安堵していた。それだけに司令塔を失った任天堂の衝撃は大きく先行きを不安視する見方が浮上する。
1つがゲーム機事業の展望だ。同社は09年3月期に5552億円の営業利益を稼いだ後、スマホゲームの普及や円高で業績が悪化する。11年以降発売した携帯型「ニンテンドー3DS」や据え置き型「Wii U」も大ヒットに至らなかった。
来年発表する期待の新型ゲーム機「NX」は「全く新しいコンセプトのゲーム機」(岩田氏)だ。その商品化作業がこれからという時にけん引役が亡くなった。
スマホゲーム対策も中途半端なままだ。スマホゲームはアプリさえダウンロードすればゲームが楽しめる気軽さで女性などを取り込んだ。それはかつて「Wii Fit」などで任天堂が獲得した客層であり同社の業績悪化の一因となった。
岩田氏は巻き返しのため3月、ディー・エヌ・エー(DeNA)と資本提携しスマホゲーム参入を決めた。年内にも第1弾のゲームを発売する。そのプロジェクトもリード役の岩田氏の急逝で「宙に浮くのでは」との声が業界内に出ている。
同社が後継者を決めていればこうした不透明感を払拭できたかもしれない。任天堂は13日、今後の経営体制について「社長職は竹田玄洋専務と宮本茂専務の2人の代表取締役が代行しその後は未定」とするにとどめた。岩田氏が患った胆管腫瘍は軽い病気ではない。後継を指名しておくこともできたはずだ。
同社はこれまで岩田氏が経営方針を示しハードは竹田専務、ソフトは「マリオ」の生みの親の宮本専務、経営統括は旧三和銀行出身の君島達己常務に任せてきた。今後は3氏が中心のトロイカ体制に移るとの見方もある。ただ3氏とも60歳を超え、斬新な発想力が求められるゲーム業界においては年齢層が高い。
13日の任天堂株はトップの死去が伝わると一時、10日終値比1%安となった。「改革が加速し始めたところだったので一部の投資家は悪材料と判断した」(SMBC日興証券の前田栄二シニアアナリスト)。岩田氏は「17年3月期に任天堂らしい利益水準に戻す」とし「営業利益1千億円」を目安にしていた。その遺志を継ぎ世界のゲームファンを魅了する商品で業績回復できるか。次期経営陣の手腕が問われる。
岩田聡、ニンテンドーDS、Wii U、任天堂、スマホ、ディー・エヌ・エー、ゲーム、竹田玄洋、カリスマ後、宮本茂、君島達己、三和銀行