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【安保法制公聴会】
木村草太・首都大学東京准教授「憲法無視の政策論は国民無視の政策論」
つまり、わが国の存立が脅かされる事態だと認定できるのは、武力攻撃事態に限られると述べているのです。そもそも近代国家は主権国家ですから、法学的にはわが国の存立が維持されているかどうかは、日本の主権が維持できているかどうかを基準に判断されるはずです。国家間の関係のうち外交は相互の危険を尊重する作用、軍事は相手国の主権を制圧する活動ですから、国家の存立が脅かされる事態とは軍事権が行使された状態、武力攻撃を受ける事態と定義せざるを得ないのです。
そうすると、昭和47年見解と矛盾しない形で存立危機事態を認定できるのは、日本自身も武力攻撃を受けている場合に限られるでしょう。しかし、現在の政府答弁はわが国の存立という概念について、ほとんど明確な定義を与えていません。また、存立危機事態は日本への武力攻撃がない事態では認定ができないという従来の説明を避け、石油の値段が上がったり、日米同盟が揺らいだりする場合には、日本が武力攻撃を受けていなくても存立危機事態を認定できるかのように答弁することもあります。
わが国の存立という言葉を従来の政府見解から離れて解釈するのであれば、存立危機事態条項は日本への武力攻撃への着手のない段階での武力行使を根拠付けるもので、明確に憲法違反です。
以上の見解は著名な憲法学者はもちろん、歴代内閣法制局長官ら憲法解釈の専門的知識を持った法律家の大半が一致する見解であり、裁判所が同様の見解を取る可能性も高いといえます。
従って、これまでの議論を前提にすると、存立危機事態条項の選定は、看過しがたい訴訟リスクを発生させます。この条項が日本の安全保障に必要不可欠であるのであれば、そのような法的安定性が著しく欠ける形で制定すべきではなく、憲法改正の手続きは必須と思われます。