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 残忍な手口で同級生を殺害した少女(16)の心の闇の一端が司法によって明らかにされた。長崎県佐世保市の高1女子生徒殺害事件。少女は第3種(医療)少年院で更生を目指すが、教育現場や地域社会が突きつけられた課題も大きい。

 今回の家裁の決定は、少女の障害を認定したほか、更生については、少年院を出た後の関わりまで踏み込んで言及した。元家裁調査官の藤川洋子・京都ノートルダム女子大教授(臨床心理学)は「とても行き届いた決定だ」と評価する。

 決定によると、少女は意思疎通の問題を抱えていたが、知的能力が高く、表面的には適応していた。一方、小学5年の時に猫の死体を目撃したのをきっかけに殺人への欲求をふくらませ、「いまだに殺人欲求を抱き続けている」と指摘した。

 藤川教授によると、重度の共感性障害や素行障害がある人は「懲りる力」がなく、刑罰の効果を期待できないという。「決定は少女の特性を重視し、筋が通っている」

 決定はまた、刑務所は少女に合ったプログラムが十分ではなく、「かえって症状が悪化する可能性がある」と指摘した。龍谷大法科大学院の浜井浩一教授(犯罪学)は「少女に必要な治療と教育の両方を実施できるのは、現状では医療少年院しかない。家裁はその可能性にかけたということだろう」と話す。

 医療少年院の収容期間は最長でおおむね26歳未満まで。生活指導や贖罪(しょくざい)指導などの教育と並行して、精神療法やカウンセリングといった治療を受ける。

 元医療少年院院長で精神科医の杉本研士さんは「家庭環境も行動の因子になったことが推察できる。この部分に、治療教育が介入する余地がある」とみる。専門の教官らが両親の役などを務める「模擬家族」を作り、生活を共にして育て直す特別なプログラムが組まれる可能性があるという。

 決定はまた、少女が少年院を出た後も「生涯にわたって十分な対応を継続していく必要がある」とも述べた。杉本さんは「一人の人間を一生見守ることは容易ではない。重い課題であり、社会全体で考えるべきことだ」と言う。

 一方、刑事裁判が開かれないことで、事件の詳細や少女に関する情報はこれ以上、公にされなくなる。

 「少年犯罪被害当事者の会」の武るり子代表は「非常に残念」と話した。法廷の場で事実が明らかになり、相応の罰が科されることで、本人の反省が始まると考える。遺族にとっても、事実を知ることが、事件と向き合う一歩になるという。

 「たとえ未成年であっても、人の命を奪ったら、それに見合った刑罰が科されるべきだ。治療と刑罰が同時にできるようなシステムを構築してほしい」