かつてカプコンで数々の人気シリーズを送り出した稲船敬二氏 率いるゲーム開発スタジオ comceptと、アニメ制作スタジオ STUDIO4℃のコラボ企画『RED ASH』が始動しました。ゲーム・アニメの連動プロジェクトとして、kickstarterでクラウドファンディングの出資を募集しています。
今年7月2日〜5日に米国・ロサンジェルスで開催されたアニメエクスポ2015にて、稲船氏と studio4℃代表の田中栄子さんが共同で『RED ASH』の詳細を発表しました。コンセプトを共有しつつパラレルワールドを舞台としたゲームとアニメを、それぞれの解釈で作り上げていくプロジェクトです。comceptはPC用ゲーム『RED ASH: The Indelible Legend(RED ASH 機鎧城カルカノンの魔女)』を、STUDIO4℃はアニメ『Red Ash -Magicicada-』をそれぞれ kicstarterで展開しています。
ゲームとアニメが同時展開するメディアミックスは珍しくないものの、クラウドファンディング前提での企画は新鮮です。ゲーム版の目標金額は80万ドルと少し強気の設定ですが、残り約3週間の7月13日現在で約37万ドルとまずまずの集まりです。
先日は『シェンムー3』のKickstarterプロジェクトがわずか一夜で目標の200万ドルを達成、3週間後に5億円を突破して驚かれましたが、そちらはカリスマ性あるシリーズが墓穴から復活という話題性もあります。完全に新規タイトルの本作は好スタートと言っていいでしょう。
今回のゲーム『RED ASH』は、comceptのKickstarterプロジェクト第二弾にあたります。第一弾である『Mighty No.9』は「伝統的アクションゲームを現代のエンジンで復活させることを目標にした完全新作タイトル」(リリースより)。描画こそ3DCGになったとはいえ、基本は古き良き死んで覚えろの横スクロールアクションでした。主人公ロボット"ベック"が飛んだり跳ねたりしてマッドサイエンティストの操るロボット軍団と戦います。
『MightyNo.9』のKicstarterプロジェクトは2013年9月にスタートし、1か月でPayPalのサポートと合わせて4,046,579ドル(4億円以上)を集めてキャンペーンを終了しました。北米では2015年9月15日、全世界で9月18日に発売されることが決定しています。
さて、ちょっと気の利いた便利グッズから懐かし漫画の続編まで網羅しているクラウドファンディングですが、中でも強い関心を集めているのがゲーム開発のジャンル。国内の家庭用ゲーム市場が年を追うごとに縮小している中で、大作ゲーム開発を取り巻く環境も厳しさを増しています。
新規オリジナルどころか人気シリーズでさえスマホゲームより収益が悪いと打ち切りが相次ぐ現在、クラウドファンディングは希望の拠り所の一つ。ゲームを買うのではなく投資する感覚は一般に馴染みがあるとはいえず、わが国も稲舟氏によれば「個人投資家もベンチャーキャピタルも,クリエイターに対する投資って,日本の場合は北米やヨーロッパと比べると,平均額が1/10ぐらいなんですよ」と嘆く体たらく。その点でクラウドファンディングは、ネットを経由した小額決済の気安さもあり、応援したいユーザーとクリエイターを直接つなぐ導線を引き、クリエイティブ経済を変革する新風として見守っていきたいところです。
ゆくゆくは有名シリーズとの繋がりがない完全に新規のIP、若手クリエイターへの支援にも......と多少の留保がつくのは、comceptの両タイトルは新規作品とはいえ、過去の有名シリーズと深い縁が伺えるため。『Mighty No.9』の主人公ベックは、公開されたトレーラーを見るかぎり、初期状態は腕のカノン砲でエネルギー弾を撃ち、対するボスキャラクター達は「火・爆発」や「水・氷」といった属性を持っています。ベックの能力は「変形」と公称されていますが、武器を切り替えるメニューにはボスの属性に対応してると思しきアイコンもあり、稲船氏が育ててきたカプコンの『ロックマン』シリーズを彷彿とさせます。
そして今回の『RED ASH』も、タイトルの空白の位置を変えれば『Re DASH』、つまり"Re"make(リメイク)×『ロックマンDASH』ではないかとの推測もあります。『ロックマンDASH』もカプコンの3Dアクションゲームで、稲船氏が開発に深く関わってきたものの、3DS向けに発表された『ロックマンDASH3』が開発中止となって頓挫したままの悲運のシリーズ。『Red Ash』と同じく3D世界での冒険劇、両作とも主人公は過去の遺跡を掘る職業("ディグ屋"と"ディグアウター")という設定で、とても他人とは思えない空似です。
『Mighty No.9』は、さる7月7日にLegendary Digital MediaとContradiction Filmsによる実写映像作品の制作も発表されました。2010年にテレビ東京の『カンブリア宮殿』で放送された、カプコン時代の稲船氏が開発者に放った名言「どんな判断や!」が脳裏をよぎりますが、実績ある有名クリエイターがゲーム開発 とクラウドファンディングへの世間の関心を高めるのは、これから世に出ようというオリジナル新作やインディーズタイトルにとってもありがたいはずです。
「どん判」とセットの名言として知られる「金をドブに捨てる気か」は、せっかく何千万もかけたプリプロ(ソフトの原型)を予算会議で投入しないとは〜という文脈であり、ゲーム企画を実現するための執念の大切さを伝えるエピソードでした。稲船氏が「ドン判金ドブ」魂を賭けてキャズムを超えてくれると信じて、『RED ASH』の続報を粛々と待ちましょう。