「デジタル×ファッション展」が教える両者の緊密な関係とは?

ソマルタの展示会場

 日本で唯一のファッション美術館 神戸ファッション美術館(神戸市六甲アイランド)で、デジタルとファッションの関係を探る展覧会「デジタル×ファッション:二進法からアンリアレイジ、ソマルタまで」展が始まった。会場では「アンリアレイジ(ANREALAGE)」がパリコレに出品した「SHADOW(邦題:光)」や「LIGHT」、ソマルタが本展のために3Dプリンタでつくった等身大の「Asura」像も展示されている。首席学芸員の浜田久仁雄氏は「18年前の美術館開館以来、もっともやりたかった展覧会」と熱い思いを語った。「アンリアレイジのデザイナー森永邦彦さんは言葉を大切に扱うデザイナー。通常、言葉は文字として記号化されるが、彼はそれをファッションとして記号化する。廣川玉枝さんは徹底して美しさを意識するデザイナー」と今回の主役である2人のデザイナーを紹介した。(写真・文:ジャーナリスト 林 信行)

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「アンリアレイジ」デザイナー森永邦彦氏

 森永氏は、アンリアレイジは特にデジタルを意識してやってきたブランドではないが、本展のためにそこに当てはまる作品を選んできたという。例えば「○△□は記号をファッションに変換した作品」で、これまであまり使われてこなかった道具を使って新しい表現に挑んだ。例えば光によって色が変わる素材は、目に見えるものと見えないものの共存を表現した。パリコレに初挑戦した紫外線によって刺繍が浮かび上がる「SHADOW」では、本来、柄が印刷済みなのが当たり前の服の柄を何度も描きなおせるようにする挑戦があった。

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 浜田氏は、デジタルの本質はサンプリング(データ化)にあると語る。物事はサンプリングすることで複製(量産)したり、他のものに変換したり、何度も加工しては元に戻したりできる。展覧会では、森永の転換点となった幾何学的な形のために(人間も着ることができる)衣服をつくった「○△□」に始まり、低解像度をスタイルに変えた「LOW」、シルエットを構成するカタチの骨格をテーマにした「BONE」、極端な体の大きさのために衣服を使った「SIZE」、熱で色が変わる「COLOR」、紫外線で刺繍を描きなおす「SHADOW」、ブラックライトを当てると隠れていた色が姿を表す「LIGHT」など、アンリアレイジを代表する話題のコレクションが一堂に集められている。耐久性などを考慮して本展のためにつくりなおした作品も多いようだ。

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「ソマルタ」デザイナー廣川玉枝氏

 一方、ソマルタを手がけるユニット「ソマデザイン」のビジュアルクリエイター福井武氏は、「ソマルタ」ではこれまでもデジタルとアナログの境なくものづくりをしてきたと言う。実際、今回の展覧会ではソマルタのデザイナー廣川玉枝氏の「つくる工程を見てほしい」という言葉に象徴されるように同ブランドで人気の無縫製加工でつくられた「skin」シリーズや、そこに手仕事で加飾を加えた「artisan」の原画が公開されている。実はこれがパソコンで描かれたビットマップデータ(点の集合体)で、そういう意味では、「ソマルタ」の極めて有機的かつ優美で身体と一体化する衣服が、実はデジタルでつくられていたことがよくわかる。

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 「ソマルタ」のコーナーは、同ブランドの進化の系譜を追うように大きく4つのコーナーで構成されている。皮膚の延長として、最初から身体を包むように一切縫うことなく形づくられている無縫製技法の「skin」シリーズを展示したゾーン。それを前身頃(前半身)と後身頃(後半身)に分割し手仕事で加飾を加えた「artisan」シリーズを展示したゾーン。時間のかかる手仕事の代わりに機械刺繍を導入し、その代わりに型紙のデザインと刺繍のデザインを同時に行うことにチャレンジした「embroidery」シリーズを展示したゾーン。そして、衣服以外の分野への取り組みや3Dプリンタの最新テクノロジーにチャレンジした「evolution」と呼ばれるゾーンで、これまで「ソマルタ」で行ってきた服飾デザインの考えを応用してつくった椅子や車椅子、皮膚に続いてヒトの骨格の延長を形にした作品、最新の3Dプリンタやそれをつくる過程で利用したデジタル彫刻の技法(Geomagic Freeform)などが制作過程のビデオや展示に使われた映像などとともに展示されている。

 廣川玉枝といえば昨秋、渋谷の西武で単独店「廣川玉枝展 身体の系譜◯Creation of SOMARTA◯」で自らの系譜を披露したが、今回は展示面積だけでもその2倍の規模があり、「廣川玉枝展」のアップデート版としての側面がある。