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仕方ないので手綱を握る 作者:淡青色
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人生なんて所詮無情


 3歳の頃。
 所謂物心というものがついた頃だろう、鏡を見ると奇妙な違和感に襲われることがあった。
 その頃の私はその感覚が違和感という名前のものだということに気づけず、それを感じるたび何かこう、恐怖にも似たものを感じていて、母親に泣きついたりしていた。
 違和感は年を重ねる事に厚みと重みを増していき、8歳になる頃に原因に気づく。

 待って何この髪の毛の色。
 何色だよこれ。敢えて表現しようとするなら白と紫を混ぜた色、白成分多め。目の色も然り、よく分からない色だけど敢えて言い表すなら灰色。
 何事だ。
 何で今まで気にならなかったんだろうというくらいトチ狂った色彩である、しかも染めた覚えないからたぶん自前。父親母親が、私が気づかないうちに染めてたとかじゃなければ自前。どんな色素だ。

 何か、違うような気がしたのだ。
 私の知ってる人間はこんな色の髪や目を自前で持ってたりしない。しないはずだ。
 しないはずなのに、母は私と同じ髪の色をしているし目の色は父親譲りだし、4つ離れた兄も私と同じような色の髪と目を持っているし、周囲の人間もおよそ頭が正常とは思えない色を平然とした顔であたりまえのように髪や目に宿していたりする。

 何で違和感を感じているのかはわからなくて、相変わらず鏡を見るのが嫌いだった。
 それでも自分で自分の身仕度をするためには鏡を見ることが必要不可欠で。
 違和感はじわじわと自分の感覚を浸食していき、最終的には自分の顔とか名前とか家族構成にすら、何か違うんじゃないかという感覚を覚えるようになった。

 イルニアルカ・アイリア。愛称はイリア。何か違う気がする。
 アイリア子爵家の長女。母親の名前はセシリア、父親の名前はエドワード、兄の名前はミシェル。何か違う気がする。
 肌は色が白くてちょっと垂れ目、身長は高め。何か違う気がする。
 あれ?

 やがてその違和感は、既視感へと転じる。
 イルニアルカ・アイリア?どっかで聞いた名前だなぁ。どこだっけ。
 アイリア子爵家?どっかで聞いた名前だなぁ。どこだっけ。
 髪の色も目の色も、どっかで見たことある。除・鏡あんど父母兄。どこだっけ。


 そして。
 既視感を感じるようになってから程なくして産まれた弟を見て、ようやく全部の原因みたいなものに至ることになりました。


「見てイリア!シェリー!貴方たちの弟よ!」

 物凄く嬉しそうな顔でまだ目も開いていない弟を腕に抱く母様に上手いこと笑いかけることができたかは今でも謎。悪い娘ですごめんなさいてへ。
 名前は何にしようかしら、イリアもシェリーも一緒に考えてね?
 はい母様、とか深い青の瞳を少女めいた様子でキラキラさせる母親に返事をしたはいいが、私は両親が産まれた子供に何て名前をつけるか既に知っていた。



「にいさま!ねえさま!」

 予想通りに弟はローランと名付けられ、すくすくと順調に育っていった。
 幼い頃から人生イージーが確約されていることが分かる顔立ち。髪の色は父様似の灰色、目の色は母様似だから青。
 改めてそれを見ることになった私の感想:勘弁してくれブラザー。

 ピアノを弾く私の隣で第2質問期の弟がヴァイオリンに手を出したのを見た時、私は自分の人生の終わりを確信した。

 今の今まで確信が持てなかったのは私の上に兄がいたからだ。
 ゲームの本筋に関係ない所で展開されている血縁関係なんて誰も気にしない。
 まさかの乙女ゲーム転生。
 乙女ゲームの世界に転生するなら主人公か圧倒的モブがよかった。
 何でこんな微妙な位置に転生せねばならぬのか誰かの陰謀か!

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