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ぬきあし、さしあし、しのびあし
「あの、先生が来る前に決めておきたいことがあるんですけど、聞いてくれますか?」
ハル、皆木くん、私の三人で仲良く登校すると、ショートカットの女の子が何かを話していた。
確か夏花さん、だったかな。
うん、そうだ。夏花さんだ。委員長タイプのあの子だ。
何か話してるけど普通に教室に入っても良いのかな。
現在私達は廊下にいる。もっと詳しく言うならば、教室のドアに張り付いている。
傍からみれば不審者だが、誰もこの廊下を通っていないのでセーフということにしておきたい。
「どうする? 入る?」
「話の邪魔になるよね」
「あ、じゃあこっそり入ろう」
と目で会話し私達は、ぬきあし、さしあし、しのびあしで教室に入っていった。
どうか気づかれませんように!
そして私達はなんとか見つかることなく自分の席へつくことが出来……なかった。
まあ、そりゃそうだよね。ドア開ける時点でガラガラなるよね。うん。
いくら足音を立てなくてもガラガラって音がしたら誰か入ってきたことぐらいわかるよね。
夏花さんは私達を一瞥し「話があるので席について下さい」と言った。
……手に何か持っている。なんだろう。鉄の棒? いや、でも何で……。
とりあえず「すみません」と席に着くと隣の子がクスリと笑いながらドンマイ、と言ってくれた。
彼は、校則で禁止されているにもかかわらず、髪を染めジャラジャラとアクセサリーをし、制服を着崩している。
見た目が不良っぽいけど、この学園に入れたって事は頭良いはずだよね。
う~ん、でも昨日こんな子いたかな?
あ、耳にピアスもつけてる!
つい不躾に見てしまった。変に思われたかな?失敗失敗。
でも、悪い人ではなさそうだよね。聞いてみようかな、夏花さんの事。
「ねえ、夏花さんが持ってるのもしかして、鉄パイプ?」
「うん。良くわかったね。材質にもこだわってるらしいよ」
「へ、へー」
彼が言うには、あれは正確には鉄パイプではないらしい。
ウルツァイト窒化ホウ素でできているのとカルビンでできているのを二つ持っているそうだ。
……何のことだか全くわからなかった。
そして彼女、夏花さんは鉄パイプに並々ならぬ愛着があるようだ。
一つ一つの鉄パイプに名前をつけているとか。
「どうして、そんなに鉄パイプが好きなのかな?」
「ああ、それは『どこでもん』のせいだよ」
「うそっ……」
つい、私は大きな声を上げてしまった。
しかし、それくらい信じられない事だったのだ。
どこでもん、それは昔から続いているアニメだ。しかし、そのアニメは今も昔も問題作と言われている。
原因は、全てだ。まず、ストーリーが酷い。
主人公は冴えない女の子、のり子。
ある日のり子は学校の帰り道ある狸を拾う。家に帰り、ミルクをあげてみると青く変色した。青く変色した狸は鉄パイプを取り出し、のり子に鉄パイプの加護を与えた。そしてのり子は鉄パイプで悪を倒していく。どこでもんはその名の通り、どこにいてもどこからでも鉄パイプを取り出すことができる。ちなみにのり子も特訓の末どこでも鉄パイプを取り出すことができるようになった。宇宙に行ったり、過去に行ったり、未来に行ったり、などスケールも大きい。だが、武器は全て鉄パイプだ。殴るシーンなどがリアルに描かれており、見てしまったがためにトラウマになった、そんな子供も少なくは無い。ずいぶんと昔から放送を止めるべきだと言われているが、放送され続けている。
夏花さんは、主人公のり子に憧れを懐いているらしい。
だから鉄パイプなんだ……。
そういえばのり子もショートカットだったような気がする。
なんだか個性的な人が多いな。
笑顔が引きつっていたらしく彼は苦笑いをしていた。
うん、教えてくれてありがとう。
心の中で深くお辞儀をして、私は夏花さんの話に耳をかたむけた。
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