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13 ツインテは幼女のたしなみ?
翌日、昨日の話もどこ吹く風でヘッドフォン付けずに学校に行こうとしたら……、絶対つけて学園に通えって両肩を押さえられながら言われた。つうか外に出るときは必ずつけろだって。
「嫌だ恥ずかしい」って言ったらぎゅっと抱き付かれて、泣きつかれた。
「どうして? なぜ? 私のこと嫌いになった?」
なんて訳の分からない三段突っ込みをされ、鬱陶しいったらなかった。
姉さん……、一体何があんたをそこまで?
ま、しゃーないか。
絶対いやっていうわけでもなかったから結局押し負け、つけて学園に通うことになってしまった。
目立つからまじ恥ずいんだが……。しかも教室でもつけたままで居ろっていわれて、「誰が授業中までつけるか」ってつい素で答えたら姉さんにまた抱き付かれ、ついでに言葉も注意された。ああ、やっぱ鬱陶しい。
でもさ、いくらヘッドフォンつけての通学とか普通だって言っても、さすがに授業中はないよな。
しかも、目が届かない所へ行ったら外そうなんて考えないようにって念を押された。外してもすぐわかるようになってる……だってさ。
なんだよそれ? そんなのヘッドフォンじゃねえだろっ! 防犯機能付きの携帯かよ。子供の誘拐防止かよ。やっぱろくなもんじゃなかった。
ったく、何をたくらんでるんだか? どうせ聞いても教えてくれないだろうし、俺に氷漬けにされてまでつけさせるんだ。マジで必要なことなんだろう。
ここは子供らしく、大人の言うことは素直に聞いておくさ。
*
学園では予想に違わず、周りからの好奇の目に晒された。
「神坂さん、なんだか素敵なヘッドフォンつけてきちゃって……、それどうしたんですか?」
「ワイヤレスですねー、音はどうなんですかー?」
「おー、かっけー! それカミー(神坂ブランドの電化製品)の新製品? 俺も欲しいー」
ほとんどがこんな感じで、興味本位でやたらと質問された。
後はこそばゆいばかりの褒め言葉とか……。
「似合ってますね、すっごくキュートです」
「銀髪と相まってすっごくおしゃれな感じがします。プレゼントした摩耶様はわかってますねー」
とかなんとか。
……何にせよ、女子はおしゃべり好きだ。こんな話を切っ掛けに話しが広がって中々終わりが見えなくなってしまう。
ああ、一人のときが懐かしく思えてくる。かと言ってそれはそれで寂しいんだが……。
まぁ確かに性能はよさそうだな。いい音鳴ってる。(聴いてるのは姉さんが適当に見繕ってくれたJ-POPとかアニソンだ。俺の趣味じゃないんだからそこんとこよろしく!)
聴覚の調整もなかなかいい感じだし、やたら軽いからずっとつけてても苦にならないし――。
で、やっぱ気になるヘッドフォンの中身だが、もちろんただのヘッドフォンじゃないってのは既定事項として……正味な話、発信器兼、俺のモニターや周囲の状況確認ってとこだろう。わけのわからんセンサー類が大量に内臓されてるようだし。
まぁ、発信器くらいのことならスマホみたいな携帯端末でも事足るだろうけど、それだけじゃ足りないって考えてるんだろう。俺の困ってることをフォローすることも兼ねてヘッドフォンにしたってとこかな。
行動をモニターされるとか……、あまりやられてうれしいものでもないが、別に探られて困ることをしてる訳でもなし……、色々世話にもなってるし。
ま、いいか。
俺はそれ以上の詮索をすることはやめにして、聞いてもなんの為にもならない授業に専念することにした。ちなみに俺の席は強制的に最前列ど真ん中にされてしまった。ま、チビだから仕方ないのかもしれないが……、これじゃヘタに居眠りすることもできやしない。まじ勘弁して欲しいわ!
「ねぇねぇカナンちゃん、ツインテールとかしてみたらどうかな? 幼女にツインテ、最強だよね」
俺にもそれなりに話しをする友だちみたいなものが出来た。つうか向こうから無理矢理ってのが正確なところだが。(俺は席でじっとしてるだけなんだぞ、ほんとだぞ)
休み時間の今、そんな変な提案をしてきたのはその内の一人、三島翔子だ。バカなことを言ってるがこれでも三島コンツェルン総帥がかわいがってる孫ってことで、自身も茶髪に染めた髪をツインテールにした少し垂れ目のかわいい顔をした女の子だ。それはもう一人の友人、夏目亜須美から聞いた話だ。夏目は綺麗に切り揃えた黒髪を俺同様腰まで伸ばした和風美少女で背は三人の中じゃ一番高い。つかダントツに俺が低い、低すぎる。で、こいつはこいつで旧華族の出だそうで、元一般市民の俺にはもう……お腹いっぱいですと、声を大にして言いたい。いやマジで。
「誰が幼女ですか? 私はこれでも13歳。あなたと同い年です。私が幼女ならあなたも幼女なんですけど?」
話しかけて来たかと思うと、当然のように俺の腰まで届くくらいには伸びた髪をいじくり倒してる三島に、無駄とは思うものの一応突っ込みを入れる。
「んー、そんな細かいことはいいじゃないですか。カナンちゃんは、見た目はプリティな幼女そのもの。だったらこう、ツインテールにしなきゃ神が許しても私が許せませんものー、はい」
三島のその声に合わせるかのように、夏目さんが手鏡を俺の前に差し出す。(呼吸バッチリだな、おい)
つられて鏡を覗きこめばそこに映ってるのは、銀髪ツインテの美少女。いや俺なんだけど……、幼女じゃないんだからな?
左右高めにまとめられた俺の白に近い艶やかな銀髪。露わになったうなじ。垂れた後れ毛が妙に色っぽく感じる。
むぅ、悔しいけど似合ってる……。
かわいいな、俺。
「「「おおー!」」」
「かわえー!」
「翔子ちゃん、ナイスですー!」
いつの間にやらギャラリー集まってるし!
しかも受けてるし!
って、違う~!
「もう、何勝手に人の髪いじってるんですか? 私の髪で遊ばないでください」
「ふふぅ、いいでしょ? もうカナンちゃんったら、萌えるよ、萌えちゃうよー」
まじ油断も隙もねぇ。
つか三島……、あぶねーやつ。
ところでヘッドフォンのおかげか、遠くから色々聞こえてた雑音は耳に入らなくなって精神衛生上は非常によろしくなった。ま、ヘンタイたちが居なくなったって訳じゃないんだけどな。学校や先生たちはやっぱ文句ひとつ言ってこないし。まぁ西園寺は最初何か言いに来たけど、俺を見るや……頬を染め、結局何も言わずに戻って行った。さ、西園寺……お前もか。
そんな感じで俺の一日は過ぎていった。
髪はツインテのままだ。ほどこうとすると三島が泣くんだから仕方ない。べ、別に気に入ったってわけじゃないんだからな? ほんとだぞ。
*
「お嬢様、お疲れさまです」
三島と夏目、他数名と昇降口で分かれた俺(三島は俺とずっと手を繋いで歩くという羞恥プレイをしてくれた。当然その際の俺の意思は考慮されていない)は、車寄せにリムジンを止めて待っていた山崎の元へ、とてとて走り寄った。(周りの小さい子を見守るような視線から早く逃れたいためだ、もうやだ)
そんな俺を優雅に一礼して迎えてくれた山崎。朝と違う髪型にも眉一つ動かさずいつも通りの対応だった。うーん、かっこいい。漢だぜ、山崎!
「いつもありがと。じゃよろしくね」
「はい、お嬢様」
俺はさりげなく用意されている踏み台を踏みしめリムジンに乗り込み、シートにポスンと座ったところでホッと一息つく。さすがに摩耶姉さんはもう乗り込んではいない。ま、そう毎日毎日俺の相手も出来ないよな。
おかげでリムジンの中は数少ない俺が一人で落ち着けるスペースである。山崎がいるけど、彼は俺のパーソナルスペースを侵害してきたりはしない出来た男だ。
俺がとりとめのないことを考えてるうちにいつの間にかリムジンは走り出していた。俺の感覚すら凌駕する山崎の運転スキル。さすがだぜ山崎。
俺の感覚――。
俺はくつろぎながらもふと考える。俺の体に備わっていた人とは違う……、少しばかり変わった感覚。そして能力のことを。
俺は俺っていう風変わりな生き物に自分自身興味津々だった。
初めて姉さんにそれを聞いた時は驚いたがな。
ここ最近の姉さんの不審な様子。きっとそれには俺のことが関わっているに違いない。
だからなんだろう……、その時のことを何とはなしに思い返していた――。
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