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第三話 父よどうした
「だめだ!」
一喝。父の声が部屋に響く。
父が大声をあげるほど反対することに驚いてしまう。
さすがにそういった話は今までなかったため、父がどういう反応をしめすかわからなかったが、ここまで怒るほど、私は両親にとって嫁にだすと恥ずかしい存在なのだろうか。
「ちょっとあなた、シルヴィの周りのお花がしぼんでるわよ。あなたのせいで。」
母が意味不明なことを父にいうが、父には通じたらしく、ぐっとだまりこんでしまった。
かわりに母が私の方をみて優しく問いかける。
「シルヴィは側室候補としていくことに納得しているの?」
優しげな瞳をみて、私はたどたどしくもいった。
「・・・はい。父と母が許されるのであれば。」
私はただひっそりと彼を見ることができれば、それでいい。
お嫁さんになりたいと考えたことはなかった。
自分が誰かの妻となる未来を想像したこともなかった。
いつかはするだろうと漠然と考えていたし、こんな面白みもない自分を娶ってくれる人がいるかもわからない。
ただ、この8年願ったのは彼に会いたいということだけだった。
「・・・いいだろう。しかし一つ条件がある。」
真剣な顔で父は私を見据えるので、私も自然と背筋を正す。
なにか、問題でもあるのだろうか。
「そいつが、身分にとらわれずにお前を愛するような、懐がでかいやつじゃないと私の娘はやらん!」
鼻息荒く宣言する父をおもわずぽかんと見つめる私。
あらあらと笑っている母。
そうきたか・・・とニヤニヤしている叔父。
「あ・・の、私はただ候補として参加するだけですし、ここの国からきたってことは隠すつもりなので、娶られる確率は低いかと・・・。」
私の国はちょっと特殊なので、この国の姫がだれかの側室候補になるなど知られたら、ちょっと騒がしいことになってしまう。
それだけはさけたい。彼に迷惑をかけるようなことはしたくない。
「いや、そのだな・・・つまり・・・。」
いやに歯切れが悪くなる父。その父の言葉にかぶさるように母が声をあげた。
「シルヴィ、わたし思いつきましたわ。」
母がキラキラと目を輝かせていってきたことに、少しだけ嫌な予感がする。
「身分が低い貴族になりすまして行ったらどうかしら。」
ああ、母の暴走が始まった。
母は小さい頃から、「みぶんさもえ」やら「すれちがいのちあまあま」などが好きらしい。
「身分が低いほど障害があるから、それを乗り越えるほどの人だったら、この人も結婚を許すでしょうし、シルヴィもだれかの貴族の名前を借りるつもりだったんでしょう。だったらいっそのこと身分が低い貴族としてのりこんでいきなさい。」
「まあ、義姉さんの少女思考はおいといて・・・・いい考えだと思うよ。シルヴィだったら多少のいざこざもまとめあげる技量をもってるし。」
多少のいざこざってなんですか叔父よ。
母も目をキラキラさせないでください。
父もうむ。とかいってないでなにか言ってください。
「ならシルヴィの髪は目立つから一般的な色に染めて、服も地味目なドレスをそろえて、身分が低い貴族の戸籍を新たにつくってあああ忙しくなるわ。」
いきいきしている母は可愛いのだが、私が口をはさむ隙もなく次々と決められていくため、どうしたものか・・・とため息をつく。
「行けることが決まってよかったね。これから楽しくなりそうだ。」
と叔父が私に話しかける。
妹がこの場にいたならば、もう少しましな話し合いができただろうに。
そう思ってもすでにあとの祭りである。
「シルヴィはさ、会うだけで満足できるの?」
叔父はふいに小声で話しかけてくる。
「?できる・・・と思うが。」
今まで思ってきたのは会いたいという気持ちだったのだから。
はてなマークを浮かべる私の頭をゆっくりなでながら
「・・・恋愛はそんな簡単に満足できるものじゃないんだよ。」
と叔父は意味深な言葉を残すと、ゆっくり部屋から出ていったのであった。
その言葉がわかるのは、彼と会ったのちのことである。
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