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ヒロイン=平凡の法則は破綻している
ようこそお嬢さん。貴女は○○人目のお姫様。
そんな表記が今は必要なくらいに混乱している。
とりあえず早く帰りたい。
そんなとき、帰りのホームルームでの出来事だ。
「お前らに転校生を紹介する」
転校生?あぁ、そうだ…この乙女ゲームのヒロインは交通事故で遅れて学校に来るんだった。
「こんにちは!!私は有栖愛!!今日からよろしくお願いします!!」
うふふ。きらきらっ。なんてオノマトペがつきそうな美少女が教室に降臨する。
茶色のふわふわした髪の毛にくりっとした大きなお目目、そして抱き締めれば折れてしまいそうな細く華奢な体つきに守りたくなるような幼い顔立ちと鼻にかけたような甘ったるい声。
乙女ゲームのヒロインは恵まれてるなぁと肘をつきじろじろと無遠慮に見る。
と言ってもクラス中が彼女を見ているから気づかれることはないけど。
栗色で色素の薄い髪はヒロインの特権だ。
それでいて私髪なんて染めてないよほえぇなんてまじで天然になんの悪意もなく言うのだから罪深い。
乙女ゲームのヒロインや夢小説のヒロインは皆、私は普通だ…なんていいつつ案外かわいいとか最終的にはかわいい設定になっている。世の中ほんと無情だ。
このヒロインの名前もありすとかあいとかいかにもと言った感じ。
デフォルト名は無かったはずだが今はそんなことどうでもいい。
私の心臓はドッドッドッと早鐘のようになっている。
いきなりフラグがたったからだ。
私の席のとなりが空いてる。
ラノベ主人公が座るような窓際の一番後ろの席…!!
ここが、あいているのだ…。
必然的にここに来るフラグ…そして……
「丁度いい。零児の隣があいてるな…そこに行ってくれるか?あと、面倒を見てもらえ」
でたよ。先生…いやあの憎きバーコードは数学の時の無視を根に持っているらしく、にやりと意地の悪い笑みを浮かべている。
教育委員会に訴えるぞと凄みたい気分だが、私はチキン。
気づかないふりをして
「はい。わかりました…」
と一言。
「私、引っ越してきたばかりでよくわからないことばかりなの…よろしくね!!佐藤さん!!」
はぁ?貴女とお近づきにはなりたくないです。正直言って私はヒロイン系の天然が嫌いだ。仲良くなれる気がしない。
誰がお前と仲良くなんて…
「う、うん…よろしくね?」
にこりとひきつった作り笑顔を浮かべて返事をする。
ここはゲームの中だっていうのに夢小説のヒロインのように強気になることは私にはできない。
ここで『よろしく。でも、必要以上にアタシに話しかけないで!!』なんて空気の読めないDQN紛いのことなんて私にはできないし。
「うんっ!!零児さんが優しそうな人でよかった~」
ふわっと微笑む有栖愛。
この女の声は可愛らしいが普通ならこんな声出ない。
さすがヒロインと言ったところか…早速差を見せつけられた。
「そ、そうかな?ありがと…」
もごもごと言葉を返すと有栖愛は無邪気に微笑む。
あがり症でコミュ症のレベルがMAXな自信がある私は思ったことを素直に口にできない。
ネットなら言えるのにね?
しかしこうなったらヒロインの金魚の糞になり…誰か攻略キャラ1人落としてみたい。
高望みはしない。落とすのが無理なら接点だけでも…。
どうやらこの女と私は絶対に関わらなければいけない運命にあるらしいから。
だって、席だけじゃなく…私の寮部屋も…一人空いているからだ。
用語解説
①ようこそお嬢さん。貴女は〇〇人目のお姫様
夢小説サイトにいくとよくありがちな歓迎の文。
森に多く見られる。
数多のサイトを渡り歩いた猛者はサイトのレイアウトだけで小説が面白いかそうでないかを見分けることができるようになるらしい。
②オノマトペ
漫画によく使用される『ドドドドド』『メメタァ』『バァーン』など背景に書かれる擬音のことである。
③乙女ゲームのヒロイン
何処が普通なのか。普通に並み以上にかわいい…控えめに言って美少女。大袈裟に言ってペロンチョしたい超絶可愛いお持ち帰りしたい寧ろお前を攻略したいよとなることが多い美人。乙女ゲームにおいての主人公。プレイヤーの分身である。
④夢小説
二次創作の小説。
主に素敵な妄想が原動力。どこかのアニメや漫画に主人公を付け加え行動させ恋に落させる系小説を指す。
⑤夢小説のヒロイン
夢小説のはずで、名前変換は自分の名前にしたりするのにヒロインの設定が細かいことが多い。
服装髪色ブーツアクセサリーまで書き込まれていることも…ファンタジーな夢小説ではよく中二な二つ名がついていることが多く、大概が壮絶な過去を抱えている。
⑥コミュ症
人見知り。どもる。相手の顔を見て喋れない。滑舌が悪い。
必要以上に空気を読み空間を察する能力を持つ。
しかしその代償はあまりにも高く…その能力を持つが故に自分が空気を悪くしてしまうのではないかと気が気ではなく、結果何もしゃべることができない哀れな人が抱える深刻な病気。
本作ヒロイン佐藤零児の抱える問題でもある。
ちなみに近しい人間には普通にしゃべることができるようだ。最もヒロインに近しい人間はいない。
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