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総長代理 作者:牧村りよう
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友愛


「なに鏡見て、ため息ついてんだよ」

「だってさ、髪切っちゃったから色んな髪型に出来ないんだもん。ウィッグはストレートだし」

「病室でやってんじゃねぇよ」

 病室にて鏡を見ながら髪をクシでといていたが、手をゴム代わりに結ったようにしたが、顔に合わない。ツインテール、ポニーテールなどとやってみたが、何故か顔と合わず微妙となっていた。

「だって、やっぱ色んな髪型をやってみたいじゃん」

「知るか」

「お兄ちゃんの好きな髪型って?」

「似合えば何だって良いだろ」

「うわぁ」

 それは明日奈に対する当て付けだった。どんな恰好でどんな髪型をしようと似合わなすぎてどんどんと乱暴になっていく。

「もう出掛けたくない」

「全然出てないだろうが」

「ちゃんとお兄ちゃんの見舞いには来てるもん」

 明日奈の言葉はとてつもなく明日也にとって嬉しかったため、言葉を失い俯く。にやけそうな顔を必死に抑えて意地でもバラさない。
何だかんだでシスコンである明日也は、その言葉はキャラを崩壊させるに十分だったが、敢えて調子に乗ると思い口にはしない。

「おまえは短い方が合うだろ。男顔だからな」

「どうせ男っぽいよぉだ!」

「ほら、髪やってやる」

「……えへへ、小さい頃やってくれた以来だね」

 明日奈はベッドの端に座り、クシを手渡して、明日也に背を向けた。ウィッグを外して膝の上に乗せると、髪を引っ張られた。

「うげっ」

「髪、絡まってる」

「ちゃんと、とかすたのに」

「噛むな。ってか、髪染めないのか?」

「染めたら違いが出るし。それに、前に染めたことがあるじゃん? 不自然なくらい合わなくてさ。黒髪の方が合う」

「……単に見慣れてないだけじゃねぇか」

「そうかも。そうだ、みんなに髪のこと聞こ」

「止めろ」

 キャラに似合わないことだと即座に否定をした。調子に乗ろうとした明日奈の髪を容赦なく引っ張る。

「ふぎゃっ」

「やるなよ?」

「や、やりませんっ!」

 あまりに酷いやり方にポロリと涙を流していた。きちんと言うことを聞くと明日也は髪を掴んでいた手を離してきちんと髪をとかす。小さい頃に、クシを使うたびに綺麗な艶が出てくるのを見てハマってしまい毎日のように髪を整えてあげたことを思い出した。



「明日也」

「あ?」

「明日也は何で暴力的になったの」

「また直球な。それは言うことはない」

(ってか、本人の前で言えないだろ)
 明日也が暴力的な態度になった理由として明日奈が関わっていた。明日奈が引きこもりになった原因をぶっ飛ばすために、暴力的になっていた。当の本人はそれを知らない。

「おまえは、引きこもりになった理由は話せるのか?」

「ふへぇ、無理に決まってんじゃん」

「とにかく、黙っとけ」

「……ぶぅ」

 これ以上は話すなと言うため、その話は途切れた。けれど小さなヒントだということに彼女は気付いていない。その原因と彼が乱暴になった原因がイコールなんだと言うことを。

「あ、この後、会計の女の子と遊ぶんだった」

「……へぇ、俺が動けないことを良いことに、デートか」

「や、い、違っ、違います」

 どもり振り返った彼女は知らない。毛布に隠れた携帯電話でこっそりとメールを打ってることに。

「デート、じゃない」

「残念だったな。ほら、中止だと」

「え? あれっ? 明日也、メールして……あれっ?」

 色んな疑問が生まれた。何で唯のメルアドを知っているのか、なんで親しげにメールしてるのか、そして何よりメールの内容に違和感を覚えた。

「アス、やっぱり出掛けるの無しでって伝えて? ん? どういう」

「考えるな、これが答えだ」

「カッコ良く言ったっておかしいでしょ!」

「……文句あるのか? 何なら転校させるぞ、明星に。で、女子の恰好で行くか?」

「……遠慮します」

「ってかさ、通信制じゃなく普通に通えよ。もう怖くないだろ」

「でも」

「それに、女だと分かれば生徒会だって真面目に守るだろうし。俺も通えば問題ないだろ」

「それじゃ、代理じゃないじゃん」

「なに言ってるんだよ。代理は辞めさせねぇよ? おまえは総長だかんな」

「えええええ!?」

 結局、明日奈は総長代理という総長のまま選ばれたのだった。嫌がっても拒否権というのは存在しないようだ。

「それに、もう少しで通えるみたいだしな」

「……へ?」

 明日奈としては明日也が復活するならば、家で大人しく出来ると思っていた。けれど、そんなことは無理で、明日也は間違いなく転校させる気満々だということ。

「……パシりにするつもりだ」

「あ?」

「何でもないです」

 自分を小間使いのようにコキを使うんだと分かると心が重たくなってくる。少し治るのが遅くなれば、と酷いことを考えるくらい嫌なことだった。



「はぁ、もう明日也が何を考えてるのか」

 病院から帰りながら、明日也の酷さと向き合いながら悶々としながら不安に襲われていた。

「アス?」

「……どうした。今日はないんだろ」

「うーん、それは、そうなんだけど」

 駅前に向かって横断歩道で信号を待っていた明日奈に声をかけたのは唯だった。
メールで拒否をされたけれど、明日奈と明日也の違いを知ってる唯は曖昧に答えた。

「買い物したいから、一緒に来てくれる?」

「ああ」

 元から一緒に出掛けるつもりだし、拒否することもないため、そのまま駅前に向かうことにした。

「……あー、メールのことなんだけどな」

「気にしなくて良いよ。分かってるし」

「?」

 明日也からのメールを知っている上、明日奈が携帯電話を持っていないことを前に聞いていた。そのせいか、どういう状況だったのか理解していた。

 お喋りをしながら歩いていると、すぐに駅に着いた。ビルが多くて、唯は決めてる場所があるのか真っ直ぐと最近出来たショッピングセンターに入っていった。

「アスは来たことある?」

「ある」

「どういうとこ寄るの?」

 たくさんの店を詰め込んだビルのため、人それぞれにより行く場所が決まっている。唯は洋服屋だったり雑貨屋が主だ。

「雑貨屋。外国の雑貨置いてるとこ」

「良いよね、あそこ。見ていてワクワクするよ」

 輸入雑貨がある場所で人気のある店だった。本も売っているため、絵本とかマニアックなものがあったりする。そして、そこの雑貨屋で買った小物を使ってオシャレに着飾ったりするのが流行りらしい。

 流行している洋服がたくさん並んでいると服屋に来てみた。店先に並んでいる洋服を見て興奮している明日奈。
一応は女の子で服が好きなため、見ていても退屈ではない。

「こういうの、どう?」

「良いんじゃないか」

(わあ、可愛いー)
 白いフリルのついたチュニックを手にして見せてくれたが、明日奈は声にならず心の中で大興奮だった。けれど言葉に出さなかったのは凄いとしか言いようがない。

「あ、安い。ちょっと買ってくるね」

「ああ」

 カウンターの方に向かったの見てぼんやりと考えた。買いたいと思っていたが、今の状況を考えてショックを受ける。

「……はぁ、ウィッグ外して出なきゃ良かった」

 病院を出る時にカバンにウィッグをしまい、洋服もまた男女共に見える白のパーカーにジーンズという何とも色のない代わり映えのない、誉め所が見つからない恰好だった。

「私だって、可愛い服着たいよ」

 誰にも届かない声で呟き、店の前にあるベンチに移動して座ることにした。何度も止まりそうにないため息をつく。
女であることを捨てたつもりはない。けれど、男のフリをしていると自分の性別が分からなくなる。



「ごめん、待たせちゃったかな」

「いや、待ってない」

「ふふっ、アスは本当に優しいね」

「……」

「今度はアスの買い物に付き合うわ」

「いや、俺は良い。おまえの買い物に付き合うし」

 正直なところ、この格好では女性用は間違いなく無理だ。男物だって明日也のを着ていれば大抵は大丈夫で、ローテーションするくらいの量はあるつもりだ。
そのつもりで、付き合うと話すと唯は顔を真っ赤にさせた。

「どうした」

「な、何でもないよ。そ、それにね、いい加減に名前覚えて!?」

 顔が赤くなったことを誤魔化すためと、未だに名前を覚えてくれない明日奈に業を煮やしたのか大きな声で手を腰に当て、子どもを叱るように話した。

「……次は、どこに行く。唯」

「……っあ、えっとね、ちょっと飲み物でも飲もうか」

 初めて名前を呼ばれたことにより顔を更に赤くさせた。明日也と同じ顔だからこそ動揺させる。
それを隠すようにすぐに話を変えた。友達になりたいけれど、明日也に止められてしまったせいで言えずにいた。

 ファーストフード店に着くと、明日奈はアイスコーヒーを唯はアイスティーを頼んで席に座る。

「ここのアイスティー好きなんだよね。甘さが控えめで」

「甘いの苦手なのか?」

「うん、そんなに好きじゃないの。嫌いではないんだよ? 食べれないことはないの。ただ甘ったるいのが苦手なだけで」

「へぇ」

「アスは甘いの好きだよね」

「まあな。甘いのでも苦手なのはあるけどな」

「例えば?」

「餡子とか、チーズ使ったのとか」

「そうなの? 昔から食べられなかったの?」

「ああ。小さい頃から食べられないんだ」

「大変なんだね」

 甘いの好きだからこそ食べられないことがあるのが無性に腹が立つ。和菓子も洋菓子も好きなのに、嫌いな材料を使ってると手は出せなかったり食べなかったりする。

「唯、髪って地毛か?」

「うん、そうだよ。だから良く怒られるんだよね。そういえば今日のアスの髪、綺麗だね」

「ああ、たくさん……とかしたし」

「そうなんだ。あたしも短めだけど手クシだけなんだよね」

「へぇ」

「それの割に、シャンプー高いの使ってるの」

「短いからこそ癖毛になりやすいよな。シャンプー、高いのあるよな。何千円とか」

「でも香りも良いし、やっぱり髪に合うんだよ。ふふっ、アスと髪の談義をするなんて思わなかったわ」

「俺も、何のシャンプー?」

 やっぱり女の子である明日奈としては気になるシャンプーの談話。話はシャンプーを通り越しコスメやら流行している物へと変わっていった。
その間、楽しすぎて明日奈は初めて本気の笑顔で話をしていた。

 きちんと帰りに、高いシャンプーを買い財布の中身が寒くなったのは言うまでもない。
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