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幕話 勇者と魔王の結末
ごめんなさい、配分を間違えました…。長くなったので、改行を減らしてあります。読みにくいかもしれませんが、ご容赦ください。
兄の計画、それは、勇者が始祖の再来と噂される事を逆手に取ったものだった。
『魔が再び、この地を覆うときに我もまた生まれるだろう』
そう始祖が言い残したという伝説を利用したのだ。
高神正親は始祖の再来である。
彼がこの地に生まれたということは魔が復活したのだろう。
正親が勇ましく魔を打ち払わぬ限り、この地は再び闇に包まれるだろう。
そう噂を流し、人心に魔への不安と勇者への期待の種をまいたのである
その効果は高かった。人々は、始祖の再来の正親の出奔に失望や不安を抱いていたからだ。彼らの心につけこんだその噂によって、人々は正親は魔の再来に備えているのではと考えたのだ。彼らの不安を解消する一番いい推論だった。
だが、真偽は定かではないが悪い噂ばかり流れる状態に不安ばかり掻き立てられた。そして、正親の噂は聞けず、悪い出来事ばかりが耳に入る内に、彼らの心は闇に包まれた。そして、人々はその不安の元に名前をつけた。
そう、魔王の仕業だと。
始祖が王を倒した後に息を潜めていた魔の残りが新たな王を見つけ動き始めたんじゃないか。そうそこかしこで噂された。そして、国は荒れ始めた。
自分の気に入らぬ者や、評判の悪い者を魔の手先ではないかと密告するものが出て来たからだ。証拠が無くとも、人々はそう噂される者を排斥しようとした。
異分子の排除に民衆の関心が集まったのだ。
そして…人と違う珍しい髪の色をしていたが為に、隠されて育てられた娘がいた。
人の口に戸は立てられず、その娘の存在が外部に漏れたことから事態は悪い方向に進んだ。五家の一つ、加賀美家に異形の娘がいると…。
その娘こそ魔王だ!加賀美家は魔王をかくまっている!
そう民衆は騒いだ。
その噂が流れた裏に、弟を憎む兄の存在があったことに誰も…いや、加賀美家や正親達以外に気づく者はいなかった。民衆の勢いは止められなかった。
正親様!いや、勇ましく魔王を倒す者!そう、勇者よ!魔王を倒しこの国に光を!我らを救ってくれ!
声高に叫ぶ民に、真実を知る者たちの声は届かなかった。あやふやだった魔王に姿が与えられ、彼らは安心したのだ。魔王は見つかった、後は勇者様がなんとかしてくれる。
勇者とされた正親が動かなければ無力な少女は嬲り殺されるかも知れない上に、民衆の怒りが正親自身に向けられる可能性もあった。正親は勇者として加賀美家の娘を魔王としてうたなくてはいけなくなったのだった。
そして、魔王とされた娘を両親と兄は必死で守り、自分達が所有する魔の山と呼ばれ人が寄り付かぬ山にかくまった。この山は始祖が熊を倒した山でもあるが、50年ほど前に土砂崩れが起きてからはたびたび、迷い込んだ人が死ぬと噂されたり、実際に山で気分が悪くなる者がいたために、人が寄り付かなかった。その山が加賀美家の所有だったことも彼らが魔王をかくまっているという噂に信憑性を与えたのだった。加賀美家は灯台下暗しといわんばかりにそこに彼女を隠れさせた。
そして、彼女の1つ上の兄が勇者の隠れる山を訪れた。
彼は、佐々木の息子の幼馴染であり、動植物の研究を行う為に数多い山を所有している加賀美家の山を隠れ家として勇者達に提供していた支援者でもあった。また、それが勇者の兄に利用された理由でもあった。かかわりのある男の身内を見捨てはしないだろうという思惑があったからだ。
彼は勇者に懇願した。
妹を助けてほしい。あの子はただ、髪が白いだけなんだ。それ以外は普通の娘なんだと勇者に縋った。髪が白いだけで、母は不貞を疑われ、祖父母に妹は疎まれた。生まれたときから白い髪なんて、不吉だと…。血がつながっているかも分からないと。だから、両親は祖父母から妹を守るために隠して育てたんだ。なのに…民が…髪が白い娘なんて見たこともない、異形だと。噂におどらされ、僕と両親以外は敵になってしまった。親族も信じられない…。だから、僕は妹を魔の山に隠した。知られていないが、あの山の噂は中腹にある洞窟の風下に回らなければ問題ないんだ。お願いだ…君を引きずり出すためだけに妹はあの男に魔王にされた。
頼む!妹を!華を救ってくれ!僕が出来ることならなんでもする!
そういって、彼は勇者に土下座して懇願した。そして、彼らは協力して彼女を救うことを誓った。時間はあまり無かった。
娘を助けるには魔王が退治されたことを民衆に知らしめることと、彼女が魔王ではないことを明らかにする必要があった。ただ、彼女を隠し通して偽の魔王を退治したと見せかけても、白い髪の娘が幸せに生きられるとは到底、思えなかった。
そこで、勇者は隠し通す気だった前世の知識を利用することに決めた。
勇者は前世の知識を信頼する佐々木親子にも伝えなかった。異世界だと思われるこの世界に自分の知る進んだ知識を教えることにより、人々から考える気力や発展を奪いたくなかったからだ。なにより、どんな弊害が起こるのかわからなかった。
自分自身それほど、物の構造に詳しいわけではない。
ただ、前世の進んだ文明が引き起こした戦争の記憶を勇者は忘れることが出来なかった。前世では、化粧品会社の研究員だった勇者。化学に携わっていた者だからこその思いだった。だからこそ、人の命を守るために彼は決めた。発展を壊さぬ程度に前世の知識を使うことを。そのため、勇者が考えたのは彼女の髪を染めることだった。本来なら、化学薬品で染めたかったが、成分を抽出するには時間がかかる。そのために、彼女は加賀美家の知識を使うことにした。動植物の研究の大家とされているが、実は彼らは闇を担ってきた家だった。
五家の一つに加賀家がある。薬師が祖であり、医術に優れた家とされている。実は加賀美は祖である薬師の弟の家系なのだ。だが、彼らに表向きの交流はない。なぜなら、加賀美は加賀巳が本来の呼び名であった。加賀の蛇…それが、彼らの本質だった。毒に特化した一族、それが彼らだった。加賀とは表裏一体の関係だったからこそ、彼らの関係は一部の人間にしか知られなかった。動植物から毒の抽出をしていることを隠すために、彼らは薬草などの知識を蓄えた。勇者は加賀美の息子からそれを聞き、植物で彼女の髪を染めることを思いついた。いずれは秘密裏に薬品を開発するにしても、ひとまずはそれでしのげるはずだ。鬘だと疑われなければよいのだ。なにしろ、この時代には化粧の概念もあまり無く、髪を染めるなども、濃い色の髪の持ち主ばかりなので、考えもしなかった。普通の色だったら脱色しなければなかなか変わらない。天然素材の脱色剤も色が抜けるには時間がかかる。だが、幸いにも彼女は白い髪だ、天然色素でも色が染まりやすい。加賀美兄もほかの人よりは薄めの茶色だったので、彼ぐらいの色になれば騙せるだろう。そういう思惑だった。そして、佐々木の知り合いの染物師などにも協力をしてもらい、ついに髪染め薬が完成した。
あとは、偽の魔王をどうするかだけだった。ただの人形では証拠にならないし、ほかの人を犠牲にするわけにもいかない。彼らは頭を悩ませたが、そんなときだった。佐々木の父が始祖が倒した魔は熊の形をしていたという伝承を思い出したのは。あまり、メジャーな伝承ではなかった。実は真実なのだが…。
だからこそ、彼らは思った。動物でいいんじゃね?と。ただ、並外れた獣の必要がある。ただの大きさでは駄目だろうと話し合っていた時に、加賀美の息子が思い出したのだ。研究の為に、加賀美の倉庫に3mもある大蛇を酒で漬けて保存しているものがあると。
それだ!!!彼らはそういって手をたたいて喜んだ。
そして、こまごまと計画を立てて、彼らは動き出した。勇者は荒れる民衆を宥めながら魔の山に向かった。そして、兄がよこした刺客や、賊などを山篭りで鍛えた力を見せ付けるように倒しながら佐々木親子と加賀美の息子を従えて魔王退治に赴いたのだった。そして、彼らはとうとう魔の山にたどり着いた。
彼女と合流し、舞台を整える。薬の完成後すぐから髪を染めていた娘、彼女の髪が茶色になったのが開始の合図だった。
そして勇者による魔王退治が始まった。
彼女の髪で鬘を作り、身の軽い佐々木の息子が彼女の振りをする。そして、追い詰められて山の頂上付近にある隠れ家の洞窟に逃げ込んだところを火を放って浄化する。そして、そこには焼け焦げた大蛇の死骸がある。アルコールで漬けられていたことを隠すためにも火は必須だった。山火事を起こさずに民衆にも火が燃えている様子を見せるには、頂上付近の洞窟はうってつけだった。
それが、彼らの筋書きだった。そして、それは計画通りに上手くいった。
加賀美家はかくまっていたのではなく魔の山から移動させて、魔王を封印していた。だが、封印は解かれてしまった。それに責任を感じた娘が髪を切り男装して、兄の振りをして勇者を助け、見事に魔王を討ち取った。娘は男女の双子は縁起が悪いとして隠されて育てられていたという設定にしてあった。そして、勇者との恋物語を大々的に広めて民衆を味方につけ、責任感の強い加賀美の娘という美談にしたのだ。
そして、闇の世界に詳しい加賀美の尽力で勇者は兄こそが父暗殺の真犯人という証拠を得た。そして、彼を除籍し生涯を監視した。勇者は彼の命を奪うことは出来なかった。捕らえた賊たちも命を奪うことは出来なかった。そんな彼の優しさを危ぶむ者は多かったが、勇者の兄は魔王を燃やした炎に弟への憎しみまでも全て燃やし尽くしたのか静かに生涯を終えた。
そして、魔の山と呼ばれた原因が土砂崩れによって黄鉄鉱が大雨の際に水に触れることによってガスを発生させていたことが勇者によって判明した。魔の山は有用な鉱物の宝庫であることがわかり、採掘も進んだおかげで、有毒なガスも出なくなり、富を生む山となった。もう魔の山と呼ばれることはなかった。
そうした功績もあり、華々しく勇者は高神の当主に迎えられた。
そして、彼は佐々木と加賀美を生涯の友として遇した。そして、魔王を押し付けられた娘は勇者の妻となり彼を支えた。勇者はもう勇者がいらない世界にかえたのだ。彼は生涯をかけて、魔が復活することはないと語り続けた。
当主になってしばらくしてから、彼は気づいた。
魔王と勇者…王様じゃなくて当主…御三家に五家や十家が支配…それに華ちゃんにあるバラのあざ…髪色は地味なのに派手な目の色…異世界かと思っていたけど、魔法も無いし…ここってもしかしたら妹が好きだったゲームじゃね?と。あのオープニングにか流れないっていってた勇者…俺じゃね?たしか、勇者の子孫の婚約者がヒロインに負けると魔王になって、ヒロインが勇者になって魔王を倒すと新しい攻略者が増えるんだよな…。
妹は下の名前か立位置でしか登場人物を語らなかった。ざっくりと説明した後は良樹様に対する萌を語っていた。ちなみに由香里ちゃんの前世ではない。RPGやライトノベル好き理系男子の生まれ変わりの高神正親は、前世で勇者という言葉に引かれて中古で華勇のゲームを手に入れた。彼はパッケージを見て自分の勘違いに気づいた。そして、隠れオタクで乙女ゲーム好きの妹に上げたのである。それにはまった妹にあんなにも萌を語られるとは思いもしなかった。
そのため、子孫の婚約者の名前などはよく分からなかった。妹は一環して、婚約者か魔王としか彼女を呼ばなかったからだ。子孫がどちらの女を選ぶかで、魔王が生まれることだけが確実だった。子孫の女の目を磨くように言おうかとも思ったが、テンプレ通りなら転生者が来る!と考えたのだ。自分と違って華勇を攻略した経験のある人間が婚約者かヒロインか、はたまたのっとり系の脇役か…子孫の見る目を鍛えるだけでは不安だった。そして、思ったのだ。妻の条件を厳しくしとけばいいんじゃね?と。
現代っ子なら絶対に根を上げる修行をさせる。そして、特に精神面を鍛える修行を!そうだ!佐々木親子に自分がやらされたのを条件にしておこう。素振り100回に、滝行に…素手で熊も倒したっけ…いや、それは女の子に必要ないよな、などと考えながら勇者は妻の条件を書いたのだった。まさか、面白がった佐々木親子や加賀美兄妹に条件が付け加えられていたことや、勇者だったらきっとこんなこともしていたはずだと、勇者にあこがれた子孫が条件を年々、超人的に変えていったことなど彼は知る由もなかった。
そう、それをクリアできた女性達は軽く勇者のスペックを超えていた…。勇者の書いただけの条件なら精神面の修行がメインだったはずなのに…。
ちなみに勇者はゲームの世界ということが分かってからは意図的にゲームという文化が出来ないように働きかけていた。勇者にとって彼らはゲームの登場人物などではなかったからだ。信頼できる仲間に愛する妻、彼はリセットの概念をこの世界にもたらしたくなかった。いずれ、開発されるかもしれない。だが、なるべく遅らせたい。そんな思いがあったからだ。だからこそ、響子たちの時代は現代日本に近い便利な物があっても、ゲームは存在しなかった。
勇者の思いは彼らに届いたのだろうか?
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