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一般高校生の僕が、実はいろいろ凄くて、ヤバイ。 作者:地横零人
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男の闘い VS アルゴル・ジェシーシュー

その男は赤だった。真ッ赤に燃え上がるような深紅の鎧に身を包んだ戦士だった。そして冑のそれ。頭に本来つけておくべき、金属のそれは、風に揺れる火のように形状を一刻一刻変えている。よくよく甲冑をみるとそれも同じだった。形状が揺れている。まるで、炎に包まれているように、ゆらゆらと全身が空気に波打っている。

男が、アルゴル・ジェシーシューと名乗った男の元へ一飛びで向かうと、男の巨大な体へと蹴りを放った。その蹴りが、男の体に当たる直前に、防衛魔法が放たれる。虹色に光るプリズムの盾。何人にも侵される事の無い魔法。その魔法に、亀裂が走った。直後、その衝撃波で、アルゴルの巨体が壁を貫き、工場外へとぶっ飛ばされる。

男は頭を潰され、どくどくと放射状に心臓が血だまりへと広げている少女を一瞥すると、少女の傍らに置いてあった少女の背丈程も巨大な槍を手に持った。男は右手に持ち替え、構えると、強力な魔法波を纏った。大気は凍え、鳥達は逃げ出し、大地は震えあがり、太陽すらも雲へと姿を隠した。この魔力を肌で感じている生物は、無意識に反対側へ、歩みを進めた。

「美しい勇士だ。感動で涙さえ流れる。だが、我輩のも、強いよ」

アルゴルの周囲には空間が捻じ曲がり歪めるほどの魔力が立ち込めていた。

「一枚の、全魔力を、君に与えよう。はたしてどちらが上かな?」

アルゴルはもはや魔力や、圧力、衝撃波などといった形の無いモノではなく、無から生み出した、黒色のナニカを赤色の男に放った。同時に、赤色の男も手に持った槍の先端に魔力を集中させ、放った。黒色のナニカと魔力を帯びた炎の槍は激突した。槍は、黒色のナニカを裂き、その魔力、全エネルギーを吸い込み、さらなる加速を持って、アルゴルへと切っ先を向けた。

「おもしろい」

アルゴルは百年ぶりに、笑った。そして、アルゴルの幾重にも重なる防衛魔法を貫通し、アルゴルに、突き刺さった。アルゴルは二百年ぶりに、血の涙を流して、立ったまま、息絶えた。真っ赤の男は、アルゴルに向かって歩を進めた。形状を留めていないような先ほどの燃えるような焔の鎧は、無く、ただの赤になっていた。しかも、少しずつ、その鎧は黒く、錆のように染まっていった。男の歩いた先で、錆のような黒色の鎧が、炭のように、ぼとりぼとりと末端から落ちていく。小手がボロリと風と共に消え去る。具足は土に混じり、その黒い足跡を大地に残す。少しずつ黒に染まっていった鎧は、やがて、冑にまで達し、冑は黒くなり、ぼろぼろと崩れ去った。

男の顔があらわになる。男は、まだ、男とはいえないような、少年だった。彼は、アルゴルのむくろにまで、歩くと、上着の内ポケットを探った。指先に魔力を感じた。その何かに触れるやいなや、男の甲冑がみるみる復元され、燃えるような真っ赤の焔に戻った。

躯から発せられる魔力の残滓が無くなるのを確認すると、彼は自身の甲冑の衣を解いた。彼の衣服はぼろぼろだった。彼はアルゴルの持っていた、カード二枚の内、一枚を手に取り、残りをポケットにしまった。彼はさらに歩き出す。歩く事を止めたのは、頭を潰された少女だった。今でも心臓は動いてるらしく、その血だまりで、白くか細い小さなてのひらを、血で染めあげていた。彼はカードの魔力を解き放つと、雷のような稲光が天より走り、少女に直撃した。少女の肉体が回復する。まだあどけない、ベッドにでも寝ているかのような、無垢な寝顔がそこにあった。

彼は半分になった魔法カードをポケットにしまう。ぼっかりと大きな穴、というよりも、壁自体が取り払われてしまったかのような空間から夕日が差し込んでいた。彼は、その夕日に向かってにっこりと満足気に微笑むと、崩れ落ちた。
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