R E D - D I S K 0 1
作者:
LIZERO
CHAPTER 04 * THINKING AND SAYING
22/91
* Week Later
気を抜くと溶けそうな暑さの月曜の朝。
祖母が仕事に出かけたあと、大量のお菓子とアイスクリームを買い、ついでにサンドウィッチも買って、たまり場へと向かった。
玄関のベルを鳴らすとすぐにドアが開いた。そこからのひんやりとした空気に身を救われた気がした。出迎えてくれたリーズは思わず懐かしいと言ってしまいそうな笑顔でハグをしてくれ、促されて中に入り、ニコラともハグをした。おみやげを渡すと、彼女たちはキッチンの冷凍庫にアイスを詰めはじめた。
私はお菓子とサンドウィッチの入った袋を持ってリビングへと向かう。床に座ったマスティとブルはテレビゲームをしていた。
マスティがこちらを振り返る。
「生きてたのか」
「悪かったわね」コーナーソファのやっぱり角に座り、袋からサンドウィッチを出した。フィルムを開ける。「なんでみんなそんな元気なの? 朝っぱらから」
「元気なわけじゃねえよ」ゲームをしながらブルが答えた。「暑くて寝てられないだけ」
「約一名を除いてな」と、マスティ。
「は?」
キッチンから、ニコラがソフトコーンのバニラアイスを食べながら戻ってきた。
「アゼルはぐーすか寝てる。うちらがわざと大声出しても、起きたと思ったらまた寝る」
リーズもミントのカップアイス片手に彼女のあとに続いた。
「やたらと寝るから無駄に背が高いわけね」と、私。
マスティとブルは同時に振り返ると、喧嘩売ってんのかと、声を揃えた。
「喧嘩売ってると思うなら、もうちょっと寝てみればいいと思う」
私がそう言うと、彼らはまたゲーム画面に注意を戻した。格闘ゲームだ。
「寝るだけで背が伸びたら苦労しないっつの。」マスティが言った。「ああ! 負けた!」コントローラーを脚に落とした。
「楽勝」ブルが振り返る。「っていうかなにいいモン食ってんの?」
ニコラが答える。「ベラにもらった」
まだあるかと訊かれ、あると答えると、ブルはコントローラーを置いて即キッチンへと向かった。マスティは私に、お前は善か悪かと訊いてきた。悪だと思うなら冷凍庫は見るべきじゃないと答えると、彼もキッチンへと走った。
「ベラは背高いよね」リーズが切りだした。「今何センチ?」
「百五十九センチ」
「高え!」ニコラが言う。「あたし、百五十三だった」
「私は哀しくも百四十九センチ」と、リーズ。
この身長もあまり好きではない。私は今、祖母と同じくらいなのだ。ほとんど変わらないだろう。厚底のシューズを履くと、祖母の身長を超える。あのヒトはハイヒールを履くのでよくわからないが、やはり同じくらいだ。私の身長があと十センチも伸びてしまえば、もうひとりのほうすら追い越してしまう。
「煙草吸うからじゃないの?」と、私は言った。
リーズが不満そうな表情をする。「背が低いのは昔からです」
マスティがソーダ味のアイスバー片手に戻ってきた。
「煙草を原因にはできねえだろ。アゼルの説明がつかねえ。あいつが誰より先に煙草はじめたんだから。ま、もともとでかいけど」
「へー。いいじゃん。女は小さいほうが可愛い」知らないけれど。
「こいつらの場合、口の悪さをどうにかしなきゃいけないけどな」
笑いながら、シャーベットアイス片手にブルが言った。ニコラの隣に座った瞬間、彼は彼女に蹴りを入れられた。
「ねえ、口が悪くて身長がある私は最悪みたいな話になってない?」
私が訊くと、彼らは笑った。
「俺らの身長を超えない限りまだ救いはある」と、マスティ。
正確な身長は知らないものの、ブルは私より五センチくらい背が高く、ほとんど変わらないものの、ほんの少しマスティが高く、アゼルは私よりも十五センチくらい高い。おそらくみんな、まだ伸びる。
意味がわからない。「フォローになってねえよ」
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サンドウィッチを食べ終わると、彼らに言われてアゼルを起こしにいった。奥の部屋、彼はやはりまだ眠っていた。どう起こそうかと悩んでけっきょく、向き合うようにして隣に寝転んだ。
壁のほうを向いて眠っていた彼がゆっくりと目を開ける。
「誰だっけ」
ムカつく。「会いたかった?」
「お前は?」
いつも質問だ。「うぬぼれんな」
「お前もな」
笑って、キスをした。約一週間ぶりのキスだった。
左腕で私に腕枕をし、腰に手をまわすと、アゼルは「腹へった」とつぶやいた。
「サンドウィッチがある。二パック。あとはお菓子とアイス」
「イチゴも赤だよな」
いきなりだな。「トマトもね」
「消防車」
「赤ワイン」
「俺はビールしか飲まねえ」
「赤バラ」
「パトカーのサイレン」
「あんたにぴったり」
「やっぱ髪染める」
またキスがはじまった。染める? 髪を?
「なんで?」
「黒髪に飽きたから」
「飽き性って最低だよね」
「それは前にも聞いた」
「飽き性って最悪だよね」
「なにが違うんだ」
「飽き性って最低最悪だよね」
「黙れアホ」
「起こしてこいって言われてたの忘れてた」
「あとで昼飯ついでに髪染め買う」
「何色?」
「パトカーのサイレン」
つまり赤。「私の色みたいなのにしたら、ものすごくバカっぽいことになるわよ」赤毛は赤毛でも、この色は希少レベル。
「ブラウンとブロンドはもうやった。あとは赤しかない」
まあいいか、と思った。「そしたらパトカーも追い払える」
「逆に集まってくるかもな」
「私には来ないから大丈夫」
「俺なんか夜センター街歩いてるだけで職質だっての」
思わず笑った。
「センター街は敵だらけ」
「俺の敵はお前だけ」
「今のいい。そっか。敵だ。いろんな意味で敵」
「いろんな意味でな」
微笑んでそう言うと、彼はまた私にキスをした。
その後みんなに遊ばれながら、アゼルは本当に髪を染めた。だが黒髪からでは思うように色が出ず、一週間後にまた染めることにした。どこまでやるつもりなのだろう。
髪染めが終わると、マスティたちは私とアゼルを放置して帰っていった。
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いつのまにか、唇はもちろん、首筋にキスをされるのが好きになっていた。くすぐったくて好き。
いつのまにか、ぜんぶ入るようになって、痛いなどとは思わなくなっていた。よさがわかるようになった。
いつのまにか、帰りたくないと思うようになっていた。ここにずっといられればいいのにと。
触れられるのが好きだった。体温が好きだった。シーツの中でふざけるのも、腕枕をして話すのも、なにかを言い合って追ったり逃げたりするのも、数時間と呼べるか呼べないかの短い時間で過ごす、ふたりきりの時間が好きだった。
つきあうという口約束をしてからというもの、みんながさっさと帰っていく日は、アゼルは自転車のうしろに私を乗せて、祖母の家の近くまで送ってくれる。
そして、離れられなくなりそうなキスをする。微笑んで、「ひとり悶々としてろ」と言って帰っていく。
私は通りの真ん中にしゃがみ、彼のうしろ姿が見えなくなるまで見送った。
だけど私の心は、なにかが欠けている気がする。宿題に集中していたその一週間、彼や彼らがなにをしているのかと考えることはあっても、会いたいという感情がよくわからないせいか、そう思うことはなかった気がする。
部屋に戻ると、静かな部屋のベッドの上でひとり、過去に聴いていた歌を口ずさんだ。ところどころ、歌詞の一部を適当な言葉に替えた。
今まで本当の意味では理解できなかった恋愛の歌が、今ならわかる気がした。
そばに音楽がない生活も、そろそろ限界だと思った。
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