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7.四神に嫁ぐことになっているそうです
『』内の言葉は主に中国語です。
当然のことながら皇帝と思しき男性は内側の扉から現れた。そしてまっすぐに玉座に向かい、腰かける。お付きの者たちがさっと定位置であろう場所に立つと、今まで物言わず突っ立っていた人々が拱手し、
『皇帝陛下、万歳万歳万々歳!』
と合唱した。
『なおれ』
というおごそかな皇帝の言葉に、
『皇帝陛下、ありがとうございます!』
と返し再び元の格好に戻った。
その様子を香子はただ茫然と見ていることしかできなかった。
(わー、中国の時代劇もこうだったなー……)
あまりの迫力にそんなことしか思い浮かばない。
じろじろ見るのは失礼だろうが、思わず目がいってしまう。
鮮やかな黒髪を頭のてっぺんで結ぶポニーテールのような髪型をして、黒い光沢のある長袍をまとっている。その下には黄色い袍を着ているのがわかる。
中国の皇帝というのは冕冠を被っているものと香子は思っていたがどうやら違うらしい。それともやはり特別な時にしか被らない物なのかもしれないとも思い直す。
皇帝は茫然と考えを巡らせている香子を上から下まで見ると、
『そこにいるのが異世界から召喚された小娘か。何故そんな赤い髪をしている?』
(小丫头(小娘)!?)
小娘と言われて香子はむっとした。
皇帝の問いに後ろに控えていた趙が答える。
『染められているとのことです』
趙の答えに皇帝は面白そうに口元をくっと上げた。
くやしいが皇帝は美丈夫といってもいい容姿をしていた。目は大きいがつり上がっており、鼻も高く唇は薄い。
(この国にはなんでこう美形が多いのよ!?)
平凡な容姿の香子には望むべくもない。
『小娘、何故わざわざ両親から授かった髪を染める?』
今度は香子自身に向けられた問いだった。
小娘小娘と言われてすでに香子の機嫌は悪い。その上ずっと髪の色のことを言及されてきているのだ。
(人が髪を染めてようがなんだろうか人の勝手でしょ!?)
元々の短気な性格が前面に出てくる。
『おそれながら陛下、私のいた世界では髪を染めるのは別段おかしなことではありませんでした。私の髪は元々真黒で量が多かった為その状態で伸ばすとうっとうしく見えました。髪の色を明るくすれば重苦しく見えないだろうと、髪を染めるのは母から勧められたことです。それから、私は白香と申します』
赤く染めろとは言われていないがそれぐらいはご愛敬だろうと香子は思う。
香子の不遜な物言いに横に控えている者たちがざわめいた。
皇帝は目を細めた。
『文化の違い、とでもいうところだろうか。白香よ、その勝気な物言い気に入ったぞ。これぐらいでなければ四神の花嫁は務まらんだろう』
ざわめている官吏たちに言い聞かせるように言うと途端室内が静かになった。
香子は眉根を寄せた。
(……今この人なんて言った……?)
香子が言われた言葉を頭の中で反芻しようとした時、後ろから慌てたような声がした。
『おそれながら陛下、実はまだ白香様が四神に嫁がれることはご説明申し上げておりませんでした』
趙が背後で平伏しているのを感じる。
(……嫁ぐ……?)
誰が誰に? とそこまで考えて、
『えええええええ~~~~~~!?』
驚きを訴える声が日本語にならなかっただけまだいいとしよう。
茫然とした香子はその後侍女たちに促され部屋に案内された。
部屋でお茶を入れてもらいほっと一息をついた時、
『たいへん申し訳ありませんでした!』
とずっとうなだれていた趙がいきなり目の前で平伏した。
『あー、いえ、いいですよ……』
何がどうしてそんなことになっているのかはわからないが香子に拒否権はないのだろう。
『それよりもう少し詳しく説明してくれませんか?』
ある意味人柱的な意味合いもあるのだろうが、いきなり見知らぬところに連れて来られて見ず知らずの相手に嫁げとは随分と乱暴な話である。
趙がおそるおそる顔を上げる。
『私はそれほど詳しいことは知りませんが……』
そう前述して趙が話したのは大まかな内容だった。
この国を守護する四神には何百年かに一度異世界から花嫁が召喚されてくること。
四神の眷族はこの国の人間とでも子どもを作ることができるが、四神たちの子どもが産めるのは異世界から召喚された花嫁ただ1人だということ。
その為花嫁召喚のお告げがあると国が率先して保護をするというのである。
(専業主婦が夢ではあったけど、まさかこんなことになるなんて……)
香子はこめかみに指を当てた。
今夜の晩餐会にはその四神も来るという。
文字通りとんでもない1日である。
香子はたまらず大きなため息をついた。
ちょっと豆知識:
冕冠 皇帝が主に被る頭の前後にすだれを垂らしたような帽子のこと。

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