53/55
魔族の棲み処
お久しぶりです。緋絽です!
とある事情により紅さんとプー太さんがパスすることになったので、自分が次に回ってきましたー!
俺は赤色に染まった髪を見ながら唇を尖らせる。
「なーんか嫌な感じするなぁ」
「嫌な感じ?」
隣で髪が緑に染まった夕花がメガネをかけながら俺に聞き返した。その向こうで髪をオレンジに染めた秋弥が欠伸をする。
「また髪染めることになってんじゃん? なんかありそうな気がすんだよな」
「ちょっとわかるかも…。この間みたいなことがありそう」
紅葉が青く染めた髪を払いながら頷いた。
「そうならないように髪染めてるんだ。これでなんかあったらあたしはキレる」
「誰に!?」
秋弥が顔をひきつらせる。
ほんと止めろよ夕花。俺らに当たるのだけはやめろよ。
今俺達は馬車に揺られている。
こうなった発端は、つい先日。この間の事件から一月ほどたった頃のこと。
村で相変わらず過ごしていた俺達のもとにとある情報がもたらされた。
王都に商売に行っていた村人が、王都で出回っていた噂を聞いて警告しに来てくれたのである。
いわく、牢獄に入れられた奴が事情聴取で黒目の奴を見たと言ったのだとか。そんなのは御伽噺だと聴取した奴は言ったらしいが、男の必死さに鬼気迫るものを感じたのか、騎士達が黒目の奴を捜しに近々村を回るらしい。
なんで事情聴取の内容が城下で出回ってるんだよとつっこみたい。
城でのことって機密性高いんじゃねーの? それってガセじゃねーの? そしてそもそも何故黒目ってだけで捜す?
と思ったが 、いくら箝口令をしいても城に出入りする一般兵士やメイドによって漏れるものらしい。おい、それでいいのか。
この村が王都に最も近いからすぐに騎士が来るかもしれない。だからしばらく警戒しといた方がいいんじゃないか。と言われた。
そこまで言われたら無視するわけにはいかないし、なんか怖くなるってもんだろう。
そして俺達はビビりながら髪を染めることにしたのである。
そこにちょうどよくブルータスから隣村への商売的なものへの同行という名の荷物運びを頼まれた。
皆で相談した結果、なんなら少しでも遠くに行ったほうがいいだろうということになり、依頼を受けることになったのだ。
シリティアが上機嫌に俺の横を陣取る。俺は後ろから突き刺さるヨイチの視線にたじろいだ。
髪を染めてからずっとこの調子なのだ。
村で髪を染めた時、女子が集まって何やら話していた。
『何話してんの?』
『もしバレそうになったらどうごまかすかって話よ。べっ、別にあんた達が心配なわけじゃないんだからねっ』
シリティアが髪をかきあげる。
心配してくれてんだな。
『あー、確かにな』
秋弥が深く頷く。
バレそうって誰に? てか、どうごまかすかって?
俺が首を捻っているとそれを見たヨイチが仕方ないというように説明してくれた。
『ヒロト達の目のことだよ。フード被るからばれにくいとは言え、バレる可能性はなくなったわけじゃないから』
『あー』
『さて、どうしたものか…』
そこで夕花と視線がぶつかる。そのまま夕花の視線が上に上がって止まる。
『え? あの、夕花さん?』
俺の言葉を無視して夕花がシリティアの髪を一筋掬って見つめる。
『な、何よ、ユーカ』
手を離してメガネを押さえ夕花がニヤリと笑う。
ぎゃー嫌な予感する!
『紘斗とシリティアは夫婦、あたし達はその友人、だな』
『!? はぁ!?』
『ちょっと、ユーカ!?』
慌てる俺とシリティアの後ろでヨイチが顔を真っ青にする。
『シリティアはどこからどう見ても黒目黒髪に見えないし、この国の常識として黒目黒髪の奴とは結婚しないだろ。そこをさも当然のように言ってごり押しで通す』
『だ、だだだダメに決まってるだろ! 僕のシリティアがグフゥッ』
夕花に鳩尾を殴られてシクシクと涙を流しながら崩れ落ちるヨイチ。
悪い、骨は拾ってやるから。
夕花の笑顔に寒気を感じつつ俺はなお言い募った。
『無茶言うなって! この歳で結婚してるようには見えないだろ! 普通有り得ねーよ!』
その言葉に夕花がふふんと勝ち気に笑ってメガネを光らせた。
『何言ってるんだ紘斗。この世界ではお前ぐらいの歳の奴はまさに結婚適齢期の真っ最中だよ』
その台詞に衝撃を受ける。
そ、そうか! こっちとあっちじゃ結婚する早さが違うんだ。
『シリティアもだしね』
あぁそっかと紅葉が納得した顔になる。
『ギャハハハ、紘斗とシリティアが夫婦! 見えねー』
腹を抱えて笑っている秋弥を八つ当たりぎみに殴りつけた。
『いてっ!』
うるせー秋弥! 笑うんじゃねえ!
『なぁシリティアからも言ってやれよ…』
『え?』
別にいいんじゃない? とばかりにキョトンとしているシリティアと目が合う。
『…………え?』
し、しまった。夕花の口車にのせられてる。 さっきは嫌だって言ってたのに!
『べ、別にいいんじゃない? そりゃ夫婦っていうのはいきなりだけど、………ごっこだと思えば楽しいかも』
最後のあたりがボソッと言ったつもりだろうが、聞こえてるぞ!
そうか、女子っておままごと好きだもんな !
『シーリーティーアー!』
泣き叫ぶヨイチの声も虚しく、結局こういうことになったのである。
後ろから突き刺さる視線に俺は心で滂沱と涙を流した。
ヨイチ、俺はお前と同じ気持ちなんだよ。敵じゃねーよ。
「し、シリティア、どうした?」
「え? ……だ、旦那様の隣に座って何が悪いのよ」
一瞬、体も頭も固まった。
───可愛いからもう、いっか…。
後ろからの視線もおままごとという恥ずかしさも気にしなくなる俺。
「ほらお前らついたぞー」
ブルータスの声と同時に荷馬車が止まる。
外に出るとシリティアとヨイチ以外の全員がフードを被った。
その村人らしき人に出迎えられ、広場的な場所に案内される。
中央に大きな池がある。水は澄んでいるからそのまま飲めそうだ。
「俺は商品を渡してくる。今日はこの村に泊まるからブラブラしてきていいぞ。ただし迷惑はかけるなよ」
そうして解き放たれる俺達。
ブルータスが見えなくなって秋弥が拳を空に向かって突き上げた。
「探検するぞー!」
「おー!」
俺もそれに便乗して拳を突き上げる。
シューストン村と何が違うのか探してやる!
「あまり目立たないようにしないと」
紅葉の正論に盛り上がっていた気分が少し落ちる。いや!
「じゃあ目立たないように探検するぞー!」
「おー!」
ヨイチが俺の言葉に拳を突き上げた。
おぉっ返事してくれるようになったか!
笑顔でヨイチの方を向こうとして続けて聞こえた内容に背筋が凍る。
「埋める場所を探さないと…」
何を!? あれだよな、割っちゃった皿とかだよな! まかり間違っても、お、俺じゃないよな!
「ヨ、ヨイチ?」
「それにしても人の少ない村だな」
夕花が周りを見ながらそうごちる。
確かに。
周りには大人と子供がまばらにしかいない。
シューストン村では広場は村の中心だけど、ここはそうじゃねーのかな。
「おかしいわね。まだ子供達が遊んでてもいい時間だし」
シリティアが首を傾げる。
「なー見ろよ」
秋弥の方を見ると村の奥の方に山の斜面に何故か分厚そうな木製の扉が埋まっている。
「え、なんだあれ」
近づいてみると、どうやら埋まっているのではなくそこに扉としてあるようだった。
「すげぇ! お宝っぽくね!?」
テンションの上がった秋弥とあーいあーいと万歳する。
いや、まぁ、開けたりはしないけども。
「これ鍵かかってるね」
紅葉の言葉に目を剥いた。
あ、開けようとしたんすか!? もしもし紅葉さん?
「ここなら埋められるかも…」
んで怖ぇんだよヨイチお前は!
「しかし、なんでこんなところに…」
「そこから先は魔族の棲み処じゃ」
「ギャア!」
夕花の台詞を遮ったガラガラとした声にビクリと体が揺れた。
秋弥が夕花の背に隠れる。 び、びびった。けどお前はびびりすぎだろ秋弥!
ちなみに秋弥が夕花の背に隠れるのは、夕花ならおばけに勝てそうだからだそうだ。
声の方を見ると腰の折れ曲がったおばあさんが睨むようにこちらを見上げていた。
「ま、ぞく? っすか?」
「そうじゃ。昔からの言い伝えでな」
おばあさんがゆらりゆらりと動いてその扉に近づきそっと触れる。
「この扉の向こう側には黒目黒髪のおぞましい形相をした魔族共が捕まっておるらしい。空を飛んだり山ともあろうほどの岩を持ち上げたりと恐ろしい力を使う凶暴なやつらがねぇ」
おばあさんが歯を剥き出した。少しして笑っているのだとようやく気付く。
おばあさんがずいっと夕花の顔を覗きこんで夕花が慌てて後ろに体を反らした。
「ひひ、この歳になると目が悪くてね。どんな顔かもわかりゃしない」
不気味な笑い声を残しておばあさんが去っていく。
「ヒ、ヒロト」
ヨイチが俺の肩を掴んだ。
「な、何だよ」
夕花が苦々しい顔をしている。
「え? どうした?」
秋弥が目をパチクリさせる。
「目、見られたかもしれない」
クソっと夕花がそっぽを向いた。
「で、でも目見えないって言ってたよ」
「バカねクレハ。嘘かもしれないでしょ」
シリティアの言葉がその場全員の肩に重みがのしかかる。
嫌な予感、的中しちゃった。
次は夕さん!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。