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お菓子くれなきゃ、 作者:鈴懸陽子
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おそらく救世主の登場と、意外な真実。

「こーら、新入り。愛想よくしなさい」
「あ、会長!」

細長い双眸(そうぼう)から放たれるビームのような視線に耐えられなくなってきたころ、ちょうど香樹が戻ってきた。
「正義のヒーロー、見参。」
「余裕そうだね。助けてあげないよ?」
「すみませんでした。」

「かいちょう会長、トリックオアトリート!」
「ああ。はい、どうぞ。」

彼は3人に、巡回ついでに生徒に配るといって持っていった棒つきキャンディーを渡した。
二日前のことをなかったように接するのは、さすがというべきか。

「忘れているだけですね。きっと。」
「ねえねえネコさん。」
「わあ!…すみません、なんでしょうか。」

香樹(の持つ菓子)に意識がいったはずのひとりが、好奇心でキラキラさせながら早苗の髪に触れる。

「この髪、染めたんだよね?」
「あ、それ思った!どう染めたらこんな色でるのかな?ところどころ、しろくて綺麗!」
「ね~」
「え…いや…」
「あ、もしかしてウィッグ?校則あるもんね。」
「でもネコさんにぴったり。あれみたい、この前英語の授業で見た…」
「ロマンスグレー?ビデオ観賞の。」
「そう、それよ奈津美!さっすがぁ。」

「…白髪のオジサマをさす言葉じゃないですか…。」
「しかも和製英語だろ。」


女子軍団のいうとおり、
香樹会長とともにあきれている早苗の髪はあの伸びきった黒髪ではない。
白と黒が複雑に入り混ざっていて、遠くから見ると濃い灰色にみえる。その髪はさらに肩上でまっすぐに切りそろえられていた。

「ヅラだよ。」
ふってきたこえとともに、頭をポンポンとやられて驚く早苗。
「え?」

見上げた顔はどこか楽しげである。香樹がなにやらしかけるようだ。ここは口を閉じていたほうが得策
と判断した早苗は、そのままだんまりを決めこんだ。

「なんか生徒会室でホコリまみれになってたから、新入りにかぶせてみた。」
「会長、ぐっじょぶ!」
「大人な衣装にネコミミがギャップ萌えです!!」



数分後。ひととおり盛り上がった2人は、未だ早苗に強い視線を向けている奈津美を連れて次のクラスへと向かった。

「ハァ。なんとかなりましたね。」

姿が見えなくなると早苗は脱力し椅子によりかかり、香樹は呆れたような表情を作る。

「納得したまま行っちゃったよ。…地毛に決まってんのに。」
「本場英語では‘ごま塩’といわれるくらいですから、もうちょっと汚いイメージなのかもしれませんね。」
「ま、いいけどね!おれたちだけの秘密みたいでワクワクするから」
「…だけってわけではないのですが…。」

もともと、早苗の髪はこの灰色で、普段の黒髪のほうが染めている。言うなれば日常が仮装みたいなものなのだ。
事情を伝えれば染めなくてもいいのだが、この学校の教師とクラスに話さなければならない面倒くささと、ことあるごとに早苗を巻きこんでいた香樹から逃げるために、あのぼさぼさ髪にしていたのだ。
香樹にはバレてしまったけれど。

「で、またやられていたのか。」
3人が帰っていったほうに視線を送る香樹。

「やられてませんよ。」
事実、今回は物理的な攻撃はされていない。

「武道やってんだから、力で黙らせればいいだろ」
「いやいやいやいや、ダメでしょ。」

早苗の師匠は厳しく、いかなる理由があろうと心得がない人に技使ったらしこたま怒られる。下手したら破門。ギリギリまで手をださないほうがうまく対処できる、というのもあり彼女はほとんど反撃をしない。それに…

「それに。ひどくなる前に、リーダー格の…奈津美さんが止めてくれますから。」

どこか諦めたような表情をして、早苗はそういった。
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