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第七話 イジメを追え
ある日、閉店時間になり店を閉めた長谷川は鼻歌を歌いながら家路を急いでいた。
肉体の保持に栄養は必要ないサイボーグだが、小室が作った食事が楽しみな長谷川は今日は何かな?と考えていた。
家路もあと半分という所で大通りを超える為、歩道橋を渡った。
古い歩道橋はところどころ錆びているが、まだまだ現役と主張するように大型車が走ってきても全く揺れることなく頑丈さをアピールしていた。
その歩道橋をリズミカルに登ると、歩道橋の上から車道を見ている少年がいた。
学生服を着た少年は中学生くらいで思いつめた顔をしていた。
その異様な雰囲気に長谷川は警戒していると、少年は歩道橋の手すりに足を掛け車道に飛び降りようとした。
長谷川はとっさに少年の腰を掴むと歩道橋の中に強引に引き入れた。
「ど、どうして自殺なんかしようとしたんだ!」
「…」
少年は何も言わずに長谷川から視線を逸らした。
「見ず知らずの人に話しても解決するか分からないが、話すだけでも何か解決策があるかもしれないよ?」
長谷川は少年の瞳を見たまま真剣に話をした。
「…実は、虐められてて…。母子家庭だからお母さんに心配かけたくないし…」
少年はそう言うと涙を流した。
「そうか。でもね、大切な息子が自殺しちゃうと、なんでもっと早く相談してくれなかったんだってお母さん思いつめちゃうんじゃないの?」
「…」
「はぁ、仕方ないか…。誰が虐めてるんだい?どこの学校の何年何組なんだい?」
「…○×中学の2年2組、河本亮…。ち、父親が暴力団だから…」
長谷川は咄嗟に脳内からネットにアクセスした。
確かに、河本の父親は暴力団だった。
しかし、堅気には一切手を出すことを禁じている宍戸組だった。
宍戸組の若頭の藤堂とは以前、松戸組を通じて面識を持っていた。
数日前にも幹部の不倫調査を依頼され見事に解決していた。
その時に必要書類の一枚として、宍戸組の構成員名簿を見たことを思い出した。
長谷川はメモリーからその時の記憶を呼び出すと、脳内でその時の名簿が再生された。
その時の名簿には確かに、河本の父親の名前があった。
しかし、かなりの下位で下から数えた方が早いほどの地位だった。
「大丈夫。その河本の父親の上司に知り合いがいるから注意して貰おう。」
長谷川はポケットから携帯電話を取り出し素早くボタンを押した。
数回の呼び出し音の後に声の低い男、宍戸組若頭の藤堂が出た。
長谷川が事情を説明すると、藤堂は直ぐに少年に謝罪した。
『すまなかった。こちらの指導不足だ。すぐに河本を教育する。許して欲しい。』
「あ、いえ、そ、そんな。」
その2人のやり取りを聞いた長谷川は少年から携帯を取り藤堂と話をした。
「すみません藤堂さん。この子も恐縮してますし、そちらで教育して頂き、この子に手を出さなくなれば結構ですから。」
『ああ、本当にすまない。』
「それじゃ、失礼します。」
長谷川は電話を切ってポケットにしまった。
「これで、大丈夫だね。」
「ありがとうございます。でも、どうして助けてくれたんですか?」
「困っている人を助けるのに理由なんていらないんだ。ただ、自分には助ける手段が多いからそうしているだけさ。」
長谷川は少しだけ笑うと少年も釣られて微笑んだ。
「カッコイイですね。」
「そうか?君も大人になった時に誰かを助けてあげられる存在になるんだ。それが俺に対する恩返しだと思ってくれればいいさ。」
長谷川の言葉は正義のヒーローのように少年には聞こえた。
「わかりました。将来お兄さんみたいにカッコイイヒーローみたいな大人になります。」
「ヒーローか、ははは。」
長谷川は少し口元が引きつった。
ヒーロー、長谷川が行っている殺戮とは正反対の正義の存在に笑うしかなかった。
「それじゃあ、俺はこれで帰るから。何かあったらここに来てくれ。いつでも相談に乗ろう。」
長谷川は一枚の紙を渡した。
それはAV専門店のチラシで可愛い動物と店の場所、電話番号等が書かれた普通のチラシだった。
そして、長谷川はその場を後にした。
少年はチラシを手にいつまでも長谷川を見送っていた。
その翌日から、この少年『進藤友春』が下校後にAV専門店で長谷川に対して悩みや自分の事を相談し始めた。
長谷川は年の離れた弟のような感覚で真面目に相談に乗った。
一か月後、小室と朝食を食べていた長谷川はテレビを眺めていた。
『―――飛び降り自殺したのは、地元の中学校に通う進藤友春君14歳で警察は事件と事故両方から調査をしています。』
映し出されたのは先月自殺未遂を止めた少年だった。
「なんで…」
長谷川はテレビを見たまま動かなかった。
「この子って…」
「うん、少しづつ元気になっていたと思ったんだけど…」
長谷川はその日の営業を小室に任せ、亡くなった少年の葬儀に参加した。
式場では泣き続ける若い母親とそれを支える祖父母が印象的だった。
小室は母親から締め切った棺桶を開けてもらい少年の顔を拝んだ。
彼の首や顔には飛び降り自殺にはありえない丸く小さな火傷がいくつもあった。
「お母さん、友春君がイジメを受けていたのは知っていますか?」
「そ、そんな!友春に限って!」
「事実です。見てください。彼の首や顔には煙草を押し付けられた時に出来る火傷があります。…友春君は言ってました。お母さんに迷惑をかけられないって。」
「と、友春…うぅ…」
母親は泣き崩れた。
「友春君を虐めた犯人に心当たりがあります。復讐を望みますか?」
「…その子を殺しても友春は帰って来ません…。それに、友春が喜ぶとも思えません。ですが…」
母親は少し間をおいて続けた。
「…その子が次に誰をいじめるか分かりません…。その子にイジメをやめさせてください。」
母親は長谷川の目を真直ぐ見つめた。
「判りました。その依頼承りました。」
○×中学校 体育館裏
陽の当たらないジメジメした場所に中学生6人が煙草を吸いながら話をしていた。
「はははは、あの馬鹿マジで自殺しやがった。」
「おいおい、俺の『お財布』を飛び降りさせるなよ。」
「俺達の『お財布』だろ?」
「はは、そうだった。それにしても、惜しかったな。」
「そうだな。あの美人で有名なママをレイプされたくなければ自殺しろって言ったのお前だろ?」
「そうだっけ?どっちにしてもやるんだけどな。」
「酷いな、お前。それじゃあ、あいつの死に損だろ?」
「なに、あいつの自業自得さ。」
「確かに。」
「違いない。ははは。」
それぞれが自殺した進藤を侮辱した。
そんな話をしていた中、誰かの足音が少年たちのいる体育館裏に近づいていた。
現れたのは25歳くらいの青年だった。
黒く少し長い髪の毛を後ろに流し首の付け根に赤ゴムで止めていた。
何となくスティーブン・セガールを意識している髪形はそう言われなければ決して気がつかないだろう。
その青年、長谷川は無言で少年を見た。
その長谷川の視界にはそれぞれの名前や身長、体重、血液型に家族構成までのデータが重なって表示された。
その中の一人、髪の毛を金髪に染め若いホスト風な見るからに柄の悪い少年が河本亮だった。
「おっさん、部外者は立ち入り禁止だ。」
「そうだ、すぐにいかないと警察呼ぶぞ。」
「帰るとしても通行料を貰わないとな。」
「はっはっは、そうだな。大人なら結構な金持ってんじゃねえか?」
それぞれが口を開いた。
出てくる言葉はどれも相手を脅すように威嚇する言葉が続いた。
「五月蝿い!!」
長谷川が一括すると、一瞬驚いた表情をするが、すぐに口撃は再開された。
「一人じゃ何もできないのかよ!」
「いまさらゴメンなさいでも、許さないぞ。」
「河本の親父はヤクザなんだぞ。」
「親父に行って海に沈めてもらうぞ!!」
それぞれが好き勝手言っていたが、河本の父親の名前が出た事で長谷川に動きがあった。
「そういってますが、どうなんですか?」
長谷川の言葉で、柱の影から現れたのはリーゼントにサングラスをした黒服の男だった。
「お、オヤジ!?」
その男、河本の父親は直ぐに長谷川に土下座した。
「すまなかった!俺の教育が悪かったんだ!」
「お、オヤジ、何言ってんだ!?」
戸惑う河本に父親は続けた。
「バカ野郎!あれほど堅気には手を出すな、俺の名前は使うなと言っただろう!」
父親は立ち上がると河本の襟を掴み上げ数発顔面を殴った。
その気迫に河本以外の5人は学校の柵を越え逃走し、河本も父親の手を振り切って逃走した。
「本当にすまなかった。堅気には手を出さないように言ってたつもりだったんだが…」
父親は地面に頭を付け土下座をした。
「顔を上げてください。」
長谷川が何度か言うと父親はやっと頭を上げた。地面に膝をついている状態ではあるが。
「妻にも聞いたが、最近では母親にも手を上げるようで、あいつの弟たちも殴られたりしていたんだ。一番下の子は階段から落ちて死んだが、あの様子だとあいつが付き落したんじゃないかと思うようになって…」
父親は悔しそうな顔をした。
「それで、あの子はどうするんですか?」
「あいつとは親子の縁を切る。妻とも相談して決めた事だ。今後、何があっても俺は責任を取らない。例え死んでも無縁仏として処理する。」
「そうですか…、縁を切るんですね。」
長谷川は空を見上げてつぶやいた。
その夜
長谷川は小室のミスで発生した配送忘れの商品を宅配業者の営業所に持って行った。
数分で手続きが終わり、指定日に間に合うように配送された。
その帰り、長谷川が帰宅ラッシュのバスに乗っているとバスの脇を数台の改造バイクが通り過ぎていた。
その運転をしていたのは昼間に逃走した河本達だった。
長谷川は次の停留所で下りると河本達が運転するバイクを走って追いかけた。
繁華街でも帰宅ラッシュで渋滞が発生していたが、その車と車の間を猛スピードで改造バイクが通り過ぎて行った。
その後ろを長谷川が追いかけていた。
「クソッ!!追い着かれる!!」
「急げ!!渋滞を抜けるんだ!!」
「早く!!」
「邪魔だよ!!道開けろ!!」
河本達は時速を40キロ以下に落としたことはなかった。しかし、長谷川は徐々にその距離を詰めていた。
何も乗らず、ただ無言で走って追いかけてくる長谷川に6人は恐怖した。
最後尾を走るバイクにもうすぐ手がかかるという時に、急ブレーキをしてスリップしたバスが長谷川を吹き飛ばした。
長谷川はバスに衝突すると空高く飛ばされ、数メートル先のブティックの展示ガラスを割りながら店内に飛び込んだ。
店内の幾つかの棚を壊しながら床を転がり壁にぶつかると止まった。
「だ、大丈夫ですか?」
若い女性店員が長谷川に声をかけた。
長谷川は目を開くと普通に起き上がった。
「大丈夫。問題ない。」
実際に長谷川の体にはダメージは無かった。
服やズボンが切れたが体には一切の怪我はなかった。
長谷川は立ち上がると壊れたガラスの隣にあった自動ドアから外に出て河本達を追った。
長谷川の追跡を振り切った6人は埋立地にある古い倉庫に来ていた。
そこには河本たち6人以外にも10人ほどの目つきの悪い男たちがいた。
「――それで、その男から逃げてきた、と。」
金髪の男がジロリと河本を睨んだ。
「は、はい。バイクに走って追いつくなんて人間じゃないですよ。」
河本が言い訳をした瞬間、男の拳が河本の頬を殴りつけた。
「バカ野郎!!ふざけた事言ってんじゃねえ!!俺達、族ってのはな!舐められたらお終いなんだよ!!お前たち!そいつをボコリにいくぞ!!」
「は、はい!!」
男たちは河本たち長谷川の顔を知っている中学生1人と数人で幾つかのグループを作った。
河本は金髪の男と2人での行動になった。
河本達はバイクを変え、排気音の小さいものに乗り換え街中を探した。
すると、河本が長谷川を見つけた。
幸い、長谷川の方は追跡を諦めており、周囲を警戒していなかった。
長谷川はマンションの2階にあるAVショップ『希望』で小室と交代し営業時間終了まで店内で過ごした。
営業が終了し、施錠すると長谷川は帰路についた。
長谷川が帰ったAV専門店『希望』にバットを持った2人の男が近づいているとも知らずに…
翌日の水曜日
長谷川の携帯電話に警察から電話がかかってきた。
店が何者かに襲撃された。現場確認に来てくれと。
長谷川と小室が店に着くと見るも無残な状況だった。
商品棚は崩れ落ち商品は踏みつけられ事務所としていた部屋も荒らされていた。
警察から責任者の長谷川は警察署で事情を聴くと告げられパトカーに乗せられた。
小室は現場検証が終了次第、被害を調べる為その場に留まる事になった。
長谷川は警察署に向うパトカーの中で昨夜の店内の様子を防犯カメラでチェックしていた。
長谷川が帰った10分後、静かに店内に入った2つの影。
一つは見覚えのある少年。河本亮。
もう一つは全く見覚えのない金髪の男だった。
長谷川は警察官にペンとノートを借り金髪の男の似顔絵を描いた。
ほぼ、そっくりに書き終えた所で警察署に着いた。
担当警官のデスクで調書を取り、被害届もその場で書いていた。
そこで榎本警察署長と偶然の再開をした。
「今回は災難だったな。」
「そうですね。あ、そういえば、この男知ってますか?」
長谷川が描いた金髪の男の似顔絵だった。
「ん~、少年か。それなら少年犯罪に詳しい人を紹介しよう。こっちだ。」
署長に連れれ2階に来ると、署長は1人の男性警部を呼んだ。
「この男に見覚えはないか?」
署長は長谷川が描いた似顔絵を警部に見せた。
「よく書かれてますよ。ひと眼で判るくらいの上手さです。こいつは井原誠で21歳。ラストプリンスを名乗る暴走族のリーダーです。」
「そのラストプリンスに中学生くらいの子はいるんですか?」
「そうだね~、…可能性はゼロじゃないですね。」
「…そうですか、分りました。」
長谷川は警察署から帰る途中でネットにアクセスし21歳で井原誠を検索した。
3名の同姓同名がいたが、2人は県外に1人は市内に住んでいた。
市内に住む井原誠を詳しく調べた。
両親とも、素行の悪い息子に愛想を尽かせていて息子が1人暮らしを始めると同時に引っ越し。
現在、両親は北海道で暮らしている。
井原誠の住所は警察署から車で15分のところにあった。
長谷川は壊された店に向かわずに井原の家にタクシーで向かった。
タクシーの中で小室から電話がり、今回の件で売り物にならなくなったDVDや壊された窓、壁、PCなどの被害をおおよそだが、計算すると300万円程になると連絡があった。
長谷川はその報告を溜息交じりに返事をし、電話を切った。
井原の住むアパートは築20年を超す古いアパートだった。
その1階に井原は住んでいた。
長谷川は井原の家のチャイムを鳴らすが中に気配はなく、何度かドアを叩くが反応は一切なかった。
長谷川はドアのノブを強引に回しノブごと鍵を壊すと中に侵入した。
敷かれたままの布団や脱ぎっぱなしの服等、井原の生活空間がそこにあった。
長谷川は汚い部屋の中で井原の帰りを待った。
1時間過ぎ2時間過ぎた頃、暇過ぎて我慢の限界を超えた長谷川は部屋の片づけを始めた。
布団を畳み、ゴミを一纏めにし分別する。
そのついでに掃除機をかけながら洗濯機を回す。
そんな事をしているとごみ溜めの部屋は少しずつ奇麗になって行った。
なぜ、自分の家は掃除をしなかったのかと疑いたくなるような手際の良さだった。
そして、部屋の片隅にある棚の上に透明な袋に入った覚せい剤が無造作に置いてある事に気がついた。
そんな時、部屋の主が帰宅した。
「お、お前!俺の部屋で何してんだ!!」
井原の大きな声に長谷川は溜息をつくと井原の首を手で掴み持ち上げた。
「グッ…!!」
井原は苦しくなり長谷川の手を離させようと必死に抵抗するが、長谷川はそんな井原を無視してキレイになった床に叩きつけた。
「ぐあ!!」
長谷川は倒れた井原に何度か蹴りを入れた。
「お前らラストプリンスのたまり場は?」
「ぐ…、だ、誰がお前なんかに…」
井原は長谷川に睨みながら言った。
その井原の態度に長谷川の怒りが一瞬だが、振り切れてしまった。
倒れた井原の脛を押しつぶすように踏み込むと大きな音を立て井原の両足が折れ、皮膚を突き破り白い骨が脛から顔をのぞかせた。
「ぐああああああああ!!」
井原の悲痛な叫び声が室内に響いた。
「もう一度聞こう。お前らのたまり場はどこだ?」
「ふ、埠頭の一番奥の廃倉庫…」
井原は苦痛に顔を歪めながら答えた。
長谷川はその答えに頷くと携帯を取り出し何所かに電話した。
「○△アパートの101号室の住人が覚せい剤所持をしている。今、室内にいる。」
それだけ言うと長谷川は電話を切った。
○△アパート101号室、それはここ井原誠の部屋だった。
長谷川は苦痛を堪える井原を残し部屋を立ち去った。
その数分後、サイレンを鳴らしながらパトカーが到着した。
警察官は井原を見ると直ぐに救急車を呼んだ。
井原を乗せた救急車は最寄りの病院に搬送され治療を受けた。
その後、覚せい剤所持で逮捕された。
埠頭の一番奥の廃倉庫には10人の男がいた。
「おい、総長が病院に運ばれたらしいぞ。」
「マジか?」
「ああ、見てた奴がさっきメールくれたんだ。あの金髪は総長だった。
「おいおい、どうするんだよ?」
「どうするって…」
それぞれが井原の不在に不安に思っていた。
ガラッと大きな音を立てて扉が開いた。
「そこまでだ!」
現れたのは何故か両手にバリカンを持った覆面をした長谷川だった。
「なんだ!おまえ!!」
長谷川に一番近い男が方を体を揺らし威嚇しながら近づいて行った。
「副長!そんな男やっちまってください!」
「あははは、覆面してビビってるの隠してやがる!!」
「やっちまってださい!!副長!!」
副長と呼ばれた男は長谷川の胸倉をつかみ睨み上げた。
「おうおう!テメェ何モンだ!俺達がラストプリンスと知って絡んでるのか!あぁ?」
胸倉を掴まれた長谷川は顔色を変えず、長谷川を掴んでいる副長の手を掴み少しだけ力を入れた。
「うわぁぁああぁ!!!」
副長の手は音を立てて握りつぶされた。
長谷川は目の前で手を抑え蹲る副長の頭部をバリカンで刈りあげた。
髪を刈りあげられた副長は痛みで動けず成すがままにされていた。
長谷川は斑模様になった頭部に満足すると副長の脇を抜け残りの男たちの元へむかった。
「さぁ、お前達には2つの選択肢がある。1つはバイクを捨てこのバリカンで坊主にし、今までの行いに反省するか…。もしくは、死ぬ覚悟を決め俺に立ち向かうか…。2つに1つだ。」
長谷川は男たちを見据えた。
「う…」
「っく…」
「この!!」
長谷川の背後から片手を潰された副長が鉄パイプで殴りかかった。
バキッ!!
長谷川は鉄パイプで頭部への攻撃を食らったが、ビクともしなかった。
ゆっくりと後ろを向いた長谷川の視線の先には片手で鉄パイプを持つ斑な坊主頭の副長が立っていた。
「な、なんで!!」
悠然としている長谷川を見て副長は驚きの声を上げた。
長谷川は副長の首を掴み上げ長谷川が入ってきた扉に向けて投げた。
「きゅぉぉぉぉぉ!!ぎゃ!!」
副長は変な叫び声を上げながら開きっぱなしの扉から外に投げ出された。
地面に落ちた時に何かが折れる音が聞こえたが、長谷川はそれを無視した。
「さて、お前たちはどうする?あの男と同じように向かってくるか?それとも坊主にするか?」
長谷川が男たちに振り向きながら問いかけた。
「…ぼ、坊主にしたら何もしないんだろうな。」
赤い髪をした少年が長谷川に答えた。
「バイクを降り坊主にして、今までの行為に反省し後ろ指を刺されないような生活を送ると約束するならば解放しよう。」
長谷川の要求が増えているが誰も指摘しなかった。
「…ほ、本当だな。」
「ああ、本当だ。」
長谷川は少年の目を見て答えた。
「坊主にしたら、兄さんを病院に連れて行ってもいいか?」
「兄さん?あの男か…。安心しろ、これ以上は何もしない。」
「わかった。バイクを降りて坊主にする。兄さんの怪我を早く治療してやりたい。」
そういうと男は地面にしゃがみこんだ。
長谷川は少年の髪を掴みゆっくりと坊主に刈り上げていった。
「これで終わりだ。」
長谷川は少年の髪を奇麗に刈りあげると満足して頷いて。
「それじゃあ、兄さんを連れて行く!!」
少年は外で倒れている兄を背負うと倉庫から離れていった。
「さて、君たちはどうする?」
残った男たちに長谷川が問いかけた。
「お、俺も坊主に!!」
「お、俺も!」
中学生の6人以外がバイクから離れ、少年を刈り上げ終った時に地面に置いたバリカンを奪い合うように坊主にした。
斑だが、ある程度坊主になると扉から逃げるようにその場を去った。
「これで、ラストプリンスも終わりだな!」
長谷川は残った6人に向かって叫んだ。
「ま、まだだ!俺達がラストプリンスだ!」
「ははは!!殺してやるよ!」
河本と茶髪の少年がナイフを取り出した。
それを見ていた4人は急に冷静になり慌てて2人を止めようとした。
「おい!ナイフはヤバいって!」
「落ち着け!」
「うるさい!!退け!!」
茶髪の少年が4人に向かってナイフを振り回すがデタラメに振るので4人は距離を直ぐに下がり距離を取った。
「ははは!!おまえを殺せば!おまえを殺せば―!!」
激昂して長谷川にナイフを突き刺してきた。
長谷川はナイフを持った手を蹴り上げた。
「あ?」
ナイフはもうスピードで天井に刺さり、蹴られた腕には新しい関節が出来ていた。
長谷川は唖然とした茶髪の少年の顔面を殴りつけた。
「はがぁ!」
鼻と歯が折れた少年は2メートルほど吹き飛ぶと仰向けに倒れた。
「や、山川!!」
4人の少年が殴られ倒れた少年に駆け寄った。
「そこの4人。彼を病院に連れて行きたくば、坊主にして今までの行いを反省しろ。」
4人の少年は倒れている少年とバリカンを何度も見ると、1人の少年が意を決してバリカンを手に取った。
そのまま自分の髪の毛を刈り上げた。
彼に続くように他の3人も刈り上げ始めた。
「これでいいんだろ?」
「ああ、今までの自らの行いで何がいけなかったか考えろ。次、同じことをすれば痛い目を見るからな。」
長谷川は4人にそう言うと残る河本を見た。
河本は坊主になった4人を睨みつけるように見るが、その視線の先に長谷川が移動し河本を睨みつけた。
「ック!なんだよ、お前は!!」
「…そうだな、友人を殺された恨みだな。」
「友人?」
「進藤友春、彼から君を中心に虐められていると相談された。遺族の意向で反省すれば許すように言われた。が…」
長谷川は覆面を取った。
「お、お前は!!」
「そう、お前と井原に大事な店を壊されたんだ。井原は2度とバイクには乗れずに松葉杖の必要な人生を過ごしてもらう事にした。」
「松葉杖…」
河本は青い顔をして呟いた。
「そして、お前だ。友人を殺された恨み、ここまで話をして反省の色がない、大事な店を壊し謝罪もない、店の修理の為の請求も親に見捨てられ出来ない。つまり…」
長谷川は言葉を止め、河本を冷たい目で見た。
「つまり、死んで償って貰う。」
「!!」
長谷川の言葉に驚いた河本は後ろに駆けだした。
駆けだした河本を長谷川が追い掛けた。
すぐに長谷川が追いつき走る河本の背中を押すように蹴りを放った。
「うぁああ!」
バランスを崩した河本は数メートル先の壁に頭をぶつけると意識を失い倒れた。
「さて、君たちは反省したかな?」
長谷川は後ろで見ていた4人に振り向いて尋ねるが、全員が首を何度も首を縦に振った。
「ならば、振り向かずに帰れ。そして、今日見たことを忘れるんだ。明日から心を入れ替え真っ当な人生を歩め。」
4人はそのまま倒れた茶髪の少年を抱えながら倉庫から出て行った。
「さて、河本亮。拷問の時間だ。」
意識のない河本に向かって長谷川は無表情のまま近づいた。
翌日、○×中学校の校門に河本亮だったモノが発見された。
四肢を引き千切られ原型の残っていないソレは校門に遺棄され焼かれていたのを近所の人が発見し通報した。
後日、警察の司法解剖から死因は水死で生前に殴られた形跡があり、暴力から多くの骨折をしている事までわかった。
「ここ数週間は大人しくしていたんだがな…」
佐藤警部は遺体に拝むとビニールの遺体袋を開け被害者を確認した。
佐藤警部の後ろにいた警察官も遺体を見てしまい、青い顔をしながら溝まで走ると嘔吐した。
「ここまでする事はないだろう。まだ子供じゃないか…」
佐藤はビニール遺体袋を閉めると再び手を合わせた。
「待ってろよ、ウェンズディ・キラーめ…」
佐藤警部は殺された河本亮にウェンズディ・キラーの逮捕を心に誓った。
+注意+
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