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この最悪なる世界と 作者:南部鶴
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第一幕 現実逃非


みなさんは、目の前で起こった出来事が信じられないということがないだろうか。

例えば、前を歩いていた人が突然車に轢かれる。
例えば、飛び降り自殺を目撃する。
例えば、通り魔に刺される。
例えば、面接の日に目覚まし時計が壊れてる。
つまりは脳が理解できるのに頭が許容できないこと。簡単に言えば゛きょとんとする゛的な状況。
自分は今まさにそんな状態です。まあ、別にきょとんとはしてないし脳で理解はしていないんだけれど。
いや、だって、ねえ?
その、例えば、例えばだよ?普通に、普段通りに、なんらいつもと変わり無く歩いていたら、いきなり、唐突に、突然まったく知らない部屋に移動したらどうする?。
移動、そう。まさに瞬間移動。転移でもいい。むしろなんだっていい。なんでもいいから誰か説明してくれ。
ここはどこだ!?
なんで自分はここにいる?目の前の女は誰だ!?



落ち着こう。
まずは落ち着こう。
深呼吸、深呼吸。
一休み一休み。
いや、いやいやいやいやいやいや、落ち着けるか!?たかだか20年の人生だけどこんな事態は初めてだぞ?そう、自分の人生だ。
違う違う、自分の事を思い出そう。
大分頭が混乱しているがいけるはずだ。
よし、まず性別は男。
DNAはXY染色体。身長は約170cm、体重60kg程度、いわゆる普通。国籍は日本、もちろん髪の毛は黒の黄色人種。今年で二十歳、残りの人生だいたい60年無い位。服装は黒の作業着上下。ブーツみたいな安全靴に軍手。もろ仕事中の格好。座右の銘は・・・・別にいっか。とにかくそんな感じ。
ダメだ、自分の事を思い出しても冷静になれない。肝心要を思い出していない気がするし。
なら、自分の行動と周囲を確認しよう。
そうしよう。
えーーとっ、まず自分は工場で働いていた。
これはOK。
仕事内容と給料は別にどうでもいいから、とにかく工場の廊下を歩いていた。
理由は忘れたけど歩いていた。
んで、気が付いたらここにいた。
はいアウト。
意味が解らん。
気が付いたらここにいたってどこのアリス嬢だよ。
あーー、もういいか。
自分の行動に不振な点は無かったと。
ならここ、自分が今いるこの部屋はなんだ?壁はレンガ製、壁紙も貼ってない剥き出しレンガ。
訳してムキレン。
かなりどうでもいいな。
気を取り直して床は真っ赤な絨毯が敷いてある。やべ、自分土足だよ。後で怒られないかな?しかしこの部屋暗いな。おお!窓が無いし蛍光灯も無いぞ。灯りが天井のシャンデリアの蝋燭だけだよ。えっ?、蝋燭?せめて電球使えよ。しかし殺風景な部屋だな。家具らしきものが一つも無い。20畳程の部屋に絨毯とシャンデリアと女だけって。
絨毯とシャンデリアと女だけって。
うん、わかってるさ。なるべく触れないようにしてたんだから。
女、失礼。女性ですね、ハイ。自分の3m程前に立っていますね、ハイ。
いわゆる向き合っている形ですね、ハイ。
黒色、もはや漆黒って感じのドレス。
自分の黒の作業着とお揃いだ、わーい。
じゃなくて!?。
ドレスってパーティーでもやってたのか?いやもうドレスはいいや。えーーと、金髪ロングに碧眼と、確実に日本人じゃないね。白人、ゲルマン系かな?それに耳が神話のエルフみたいに長いね。・・・はっ?エルフって人間じゃねーじゃん。ええい、無視無視。おそらく福耳の白人版だって。そういう事にしとこう。じゃないと自分の精神が保たない。マジで。

「あの〜〜〜〜もしもし?」

気のせい気のせい。おや?この女性頭になんか乗っけてるな。王冠?ティアラってやつか?詳しくないからよくわからないな。よく見れば指輪とかネックレスもしてるな。金持ちなのか?

「あの〜〜聞こえてます?」

風の音、風の音。ん?目線から察するに自分より背が高いな。チクショウ。冗談です。冗談。白人と日本人じゃ体格が違いすぎるからね。別に嫉妬なんかしてませんよ?

「その、無視しないで下さい。・・・・・・あれ?もしかして言葉が通じないですか?もしもーし。」

ラジオかテレビだろ。
誰だよ点けっぱなしにしてる奴は。しかし結構美人だな。顔立ちも整ってるしプロポーションも申し分ないな。いやー、一度でいいから会話とかお茶してみたいね。まず英語が話せなきゃ無理か。おっと!?あまりじろじろ見たら失礼か。訴えられたらたまったもんじゃない。訴訟大国アメリカの人だったら大変だ。 

「聞こえてますか〜?なにか反応して下さ〜い。」

空耳、空耳。近頃疲れが溜まってたからな。ああそうか。これは夢か。なんだよ脅かすなよな。きっと働き過ぎて倒れたんだ。うわー班長に迷惑かけるなこりゃ。あとで謝らないと。てことは休憩室のベッドで寝てんのかな自分は?救急車とな呼ばれてたら嫌だなー。入院とかだったら最悪だよ。 

「も〜し。あなたは誰で、どうしてここいるんですか〜〜。」
「それは自分が聞きたい!?」
「うわっ!ビックリした。」



あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・現実逃避失敗。
条件反射してしまいました。はいアウト。スリーアウトチェンジ。誰か自分と代わってくれ。
「あ、あの〜私の言葉が分かりますか。えと、その、わ、私の名前は・・」
「いや、すぐ帰りますんで名乗らなくて結構です。あーーとっ、三木野原はどっちですかね?と言いますかここは何処ですか?近くにバス停とか駅があれば教えて欲しいんですけど。」
正直、泣き叫びたい。混乱した頭でちゃんと会話した自分に拍手だ。だから金髪さんよ、そんなゲテモノを見る目で視ないでくれ。気持ち悪くなる。
「・・・・・・もしかしてあなた人間ですか?」

   ?

日本人ですか?じゃなくて人間ですか?。不思議な質問だ。
「日本人ですけどなにか?大和民族、ホモサピエンス、ヒューマン。端から端まで人間ですが。」
「っ!・・・・・・。」
こっちがビックリするくら反応したよ、この金髪さん。少なくとも三歩はバックしたね。なかなかの瞬発力だ。
「このバルケン城にどうやって侵入しましたか人間っ!?目的はなに?」
「侵入てか迷子?自分が聞きたいくらいですよ。それにすぐ帰りますんで。いや、すいませんね。」
バルケン城って言うんですかここ。てか城?なんで城にいるの自分?なんか金髪さんの口調が随分キツくなってる気がするんだが。思わず謝ってしまったよ。それに目的って聞かれても困るし。強いて言えば帰りたい。これしかないね。
おや?金髪さんが右手を自分に向けているんだが。なにかの儀式か?それとも拒絶?
「あなたの足元・・・まさか転送魔方陣!?」
自分の足元を見て警戒心を表わにする金髪さん。転送魔方陣?下を向いてもなにもありませんけど。もしかして電波さん?それともヤク中アル中?なんにせよ面倒くさい人みたいだ。こういう人は軽くあしらって離れるが吉だね。
「もしかしてあなたが噂の侵入者ですか!?よりにもよって私の目の前に現れるとは。」

   ?

   ゛現れる?゛
ああ、そうかなるほど。自分にはこの金髪さんが突然現れたように見えたけど、実は逆なのか。
なんで?
あれですか、いわゆる召喚されたとか次元の狭間とか神隠しとかですか。
ハハハハハハ

ありえない。

いやもう馬鹿らしい妄想ですな。
世の中は悲しくなるくらいよく出来てるんだから。林檎は木から地面に落ちる、で、腐る。一足歩いたら一歩分しか進まない。太陽は東から西に、時間は前にしか進まない。いくら元素だ電子だ原子だといったところで自然の摂理はこれ絶対。変わらないし変わってほしくない。
魔法?冒険?英雄?
そんなのは32型薄型液晶の中だけで結構。自分の人生はそれで十分だ。

さて、くだらない想像もとい妄想は置いといて現実を考えよう。
ここまでくればいささか落ち着いてきているさ。
さっきから右手を突き出している金髪電波さんは無視してと、出口を探そう。右見て、左見て、金髪さんの後ろみて・・・無いね。ドアらしきものがありませんね。
となれば自分の背後しかないっと。
「あなたは本当に人間ですか?その髪の毛の色はありえないはずでしっ・・・。」
うわぁーお、シリアスな口調で噛んじゃったよ金髪さん。しかし自分の一回たりとも染めたことない黒髪を゛ありえない゛と言うなんて。てか、それくらいで人外扱いするなよ電波さん。いやまあ、キョロキョロと挙動不審だったのは認めるけど、なんなら謝るけどさ。
ところでさっき振り向いてみたわけですよ。なかば金髪さんを無視してね。そこで発見が一つ。

「出口はどこ?」

マジで困惑するね。ドアがどこにも無いんだよ。本当に、マジで。四方の壁にも無いし、天井にはシャンデリアだけ。まさか足元の絨毯をめくれとでも?
いや、どこかにあるはずだ。そうじゃないと自分も金髪さんもどうやって入ってきたっていうのかわからなくなってしまう。
実際わからない訳だが。
しょうがないから金髪さんにもう一度出口を聞いてみよう。この際どうしていきなりこの部屋に移動したのかは考えないようにして、。多少電波なこと言ってもスルーして出口を聞き出さないとって。うわぁ、金髪さん自分の足元を怖いくらいガン見してくるよ。左手で口元押さえてるし、噛んじゃった舌が痛いのかね?
「転送魔方陣にこれは召喚魔方陣?まさか二重詠唱?でも不安定すぎるし・・・魔方陣を転送させたのかも・・・でも・・・この部屋の結界は抜けないはず。魔方陣自体が歪んだのかしら?・・・ならこの人間はいったい何者?」
・・・ぶつぶつ喋ってる金髪さんは正直、不気味だ。話し掛けるのが躊躇われる。でも話し掛けないと帰れない。ここは勇気をもって話し掛けよう。すっごいヤだけど。
「すいませんが少しよろしいでしょうか?もし差し障りなければこの部屋の出口を教えて頂きたいのですがいかがでしょうか?恥ずかしい話、自分でもどのようにしてこの部屋に来たのかわからないのです。ええもう夢遊病かアルツハイマーのように記憶にポッカリと穴が開いたように抜けているのです。ハイ。もしかしたら病院に行ったほうがいいのかもしれませんね、友達にもよく馬鹿にされるんですよ。ハハハ。ええとっ、話を戻しますけれども、もし教えて頂ければ即刻この場を立ち去りますので。お願いします。」
言うだけ言って頭を下げる。金髪さんとしてはいきなりべらべらと話掛けられて驚いただろうが、別に構うものか。どうせ出口さえ分かればサヨウナラだし、電波入ってるし、外人だし、自分より背が高いし。

「あ、あなたはこの状況が理解できないのですか?」
あれ?たしかに驚いたけどなんか違うな。肝心の出口を教えてくれないし。
右手を自分に向けてかざしたままだし。 
「・・・見えていないのですか?・・・それに私が誰なのかも分からないのですか?」
見えるって何が?金髪さんこそ何が見えてるんだよ?
私が誰?・・・知るか! ああ、もう!
自分はただ帰りたいだけなんだよ。金髪電波さんの相手なんかしてられないんだからさぁ。
「そうですか・・・・・・いいでしょう。わかっていないのなら教えてあげましょう、私の名は」
名前なんかいいから出口を教えてくれ。 
マジで頼む。
「私の名は、エーリカ・フォン・バルト。このバルケン城の主にしてルフトバッフェ魔帝国が魔帝なるぞ。」






へーーー。


あれだ、あれ。
手遅れって奴だ。もう社会的に死んじゃてる雰囲気だね。呆れるの通り越して可哀想に見えてくるよ。格好つけて胸を張ってる姿がすごく痛々しい。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
二人共沈黙しちゃたね。仕方ないよ。自分にはもう金髪さんを救うすべが無いよ。
「・・・本当に分からないの?」 
そんな泣きそうな顔されても困るし。泣きたいのはこっちだよ?電波さんと密室で二人きりってどんな罰ゲームだよ。
「残念ながらわかりません。ルフトバッフェ魔帝国なんて知りません。えーーっと、恵里香さん?でしたっけ?あなたのことも存じません。」
「っ!・・・・・」
キッパリ言ったら金髪さん固まっちゃったよ。なんか失礼なこと言ったかな?
「で、ではケルト王国は?チグリス都市国家同盟は?レルガン・ボトルネック共和国は?グナイゼナル大公は?ドーラ侯爵は?」
「なにそれ?誰それ?なんなのそれは?」
残念ながら自分はヨーロッパ史は詳しくないんですよ。まあ電波さんの話だから誰にも分からないんだけどね。
「・・・・・・なら、オっ、オダ・ノブナガは知ってますか?」
おおっと。いきなり日本人がきたぞ!?さすがに魔帝を名乗るだけあって第六天魔王をチョイスしましたか。
「織田信長なら知ってますよ。天下布武の人でしょ?教科書にも乗ってますからさすがに分かりますよ。」
「!!!!!!」
うおっ!?今日一番の金髪さん驚き顔。
てっ、いきなり握手しないでくれ、ビビるから。顔が近いよ、耳が長いよ、碧眼の目が爛々として怖いよ。なに?この食いつきのよさ。そんなに織田信長が好きなの?金髪さんは。
「も、もしかしてヒノモトの国の方ですか?」
ヒノモト、火の元、日の本。たしか昔の日本はそういうんだっけか? 
「まあ、そんな感じですね。」
間違っちゃいないだろう。日本人にはかわりないだろうし。
「ああ・・・・ああ・・・・ああ・」
大丈夫かこの金髪電波さん?自分が肯定した途端、様子が変だぞ?ああ・ああ・言いながら肩を掴んでくるんだが。つーか痛い。どんだけ握力あるんだよ!?女性の力じゃねーよ。
ああ、もう面倒くさい。
なんでここにいるのかも分からないし。
出口は見つからないし。
金髪さんは電波だし。
帰りたいし。
と、なんか金髪さんが自分を見つめてくるんだが、え?なに?これ以上面倒くさいこと言わないでよ。

「お願いですヒノモトの方!どうか私を、ルフトバッフェ魔帝国を助けて下さい!。」



お願いです。
誰でもいいから自分を助けて下さい。。
いい加減泣きそうです。
思いついたから書いたものです。主人公は゛自分゛が一人称の二十歳。今のところはそれくらいです。また思いついたら続編を書きます。
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