季節は十月中旬、気温もそろそろ馬鹿にならないレベルまで下がり、寂しげな涼しい風が増え始める。そんな日の放課後に……
「うぅ……うおぉ……」
何だハウエルお前は。寝ているわけでもないし、かといって起きているとも言いがたい。うるせえなぁ、まったく……。
「何かあったのかハウエル」
面倒だが一応聞いておく。するとハウエルは頭を上げーー
「明日さぁ……親が来るんだよ……」
「へぇ、親が……それの何が問題ーーって、親ってお前!?」
詳しくはあまり知らないが、ハウエルはアジャーにいるときはいじめられっ子で体が弱かったらしい。今となってはこいつは肉体的にも精神的にもかなり強くなっている。昔苛められていたと言っても八割の人間は信じないだろう。
「……一応、確認しておくが。親御さんはさ、お前が今こうなっていることを知らないんだよな?」
「ああ……」
「体が弱かった頃のお前しか知らないんだよな? こんな不良っぽくなっちゃってることも、なーんにも知らないわけだ」
「……あぁ」
黙って首を振る。もうどうしようもない。もはやハウエルは強烈で鮮烈な高校デビューを親にカミングアウトするしかないのだ。服装や態度はなんとかなるかもしれんが、魔法で染めて戻らなくなったと言うその髪はごまかしようがない。
「おい! そんな十字なんか切らないで何とかしてくれよ! 何かないのか何か!」
何かって言われてもな。魔法を何とかするんだったら俺に相談するのはお門違いというものだ。
だが、そうだな。アイデアくらいはくれてやってもいいかもしれない。
「まずは何よりもその髪だ。魔法で何とかならないか? あれだ、メッシュの部分に黒い色素を実体化させればいいだろ?」
「やってみるか」
ハウエルは目を閉じ、暫く黙る。すると、金髪だったメッシュの部分が根本の辺りから徐々に黒く染まっていった。
「成功じゃないか!」
「……っ、ぶはぁ! い、いや、ここまではいつも行けるんだが……」
すると、ハウエルの魔力解放が終わったとたん、すぐに根本の辺りからまた金髪に染まりだした。
「……いつも、こうなるんだ」
「こりゃ無理だな、アーメン」
「待て待て待て待て! も、もう少しなんか考えてくれよ!」
魔力による色素の具現化を止めた途端にまた染まっていくわけか。だとするなら常時黒で染め続けるしかないわけだが……トパーズクラスのハウエルにそんな芸当ができるほど豊富な魔力があるはずがないよな。
「いったい誰がそんな雑な魔法を使ったのですか」
いつの間にやら現れていたルシフェルが、ハウエルと俺の席の間の席に座った。
「俺」
「「!?」」
「髪染めようと決意したときさ、もう絶対弱い自分とは決別するんだ――これがその証なんだって、そう思いながら染めたら……」
「なるほど……その時の固い決意が魔力を一部暴走させ、永久的に髪が染まり続ける魔法になってしまったのですね」
うはー、めんどくせぇな。ていうか暴走した魔法なんかもう黎じゃないと解けないんじゃないか? これだから訓練してないヤツが使う魔法ってのは……。
「しかし、それは恐らく解かない方がいいでしょうね」
「ええ!? 何でだよ!?」
「ハウエルさん。髪を染めてから、何か大きな変化があったんじゃないですか」
「えっ……あ、あぁ、まぁな。確かに、染めてからは体壊すことなくなったし、自分に自信が持てるようになったっていうか……」
「髪が染まると同時に、弱い自分との決別という祈りも具現化されたんですね」
……つまり。苛められっ子気質だったハウエルの体を強くし、いつまでも続く意思の強さを作り出したのはその髪染めの魔法だということか。それを解いてしまったら、体は弱くなりトレーニングを続ける精神力を失う――――と。
「だからってこのままじゃダメだろ!」
「親御さんを信じろ。外見だけで判断するような親なのか、お前の親は」
「いや、そういう問題じゃないんだ……もし今回の二人の訪問で、俺の行動や状態に問題ありと判断されたら――――親もウィジャーに引っ越してきて、一緒に住むって……!」
再び十字を切る。あ~あ。終わったようだなハウエル。優雅な学生独り暮らしももう終わりだ。 食い物の栄養バランスは良くなるが、自由な時間で外出したり変なことができなくなり、ついでにエロ本が処分される。
そういった絶望の未来を察してか、ハウエルがこんなにも必死なのは。だが現状、もはや抜け出す術はない。
「なぁ……俺の部屋に隠れて、常に魔法使っててくれないか」
「僕は忙しいので……」
「それを俺に言うのは軽くイジメ入ってるよな」
「ああああもう、どうすりゃいいんだよー! あっ、そうだ、ソル! あいつなら魔力結構あるだろ!?」
と、トパーズクラスの教室が突如勢いよく開いた。
「オレは忙しい!!」
どこからともなく現れ、なぜか話の内容を把握していたソルは一瞬でまた扉を閉じて消えていった。
俺は無理、ソルもルシフェルも忙しい、もはや打つ手なしかねハウエル。助けてやりたい気持ちは無きにしもあらずだが、 もはや無理というものだ。これ以上はとてもいたたまれなくて見ていられない。
「頑張れよ、ハウエル。達者でな。歯磨けよ、風呂入れよ、風邪引くなよ」
「く、空也ぁぁ~~! そんな、待ってくれよ! 何とか、何とか……!」
「辛くなったらウチに来てもいいぞ!」
まだまだ何か呻いているハウエルを残したまま、俺は教室を後にした。しかし、なかなかに興味深いトラブルだ。奴には悪いが、明日はモニタリングさせてもらうとしよう!