挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
※この物語は逆ハーではありません。 作者:うぇる
4/14

04:アヤ、授業しろ

 午後の暖かな日差しのなか、耳に心地の良いテノールが耳朶をくすぐる。

 なんて、かっこよく言ってみたけど、ぶっちゃけ眠い。
 だいたい、五限の一番眠い時間にこんないい声で英文読まれてみなさいよ。眠くならないほうがおかしいでしょ。
 周りにも頭が揺れているのがチラホラいるし、完全に夢の世界へこんにちはしているのもいる。
 訂正。どうやら眠そうにしているのは男子だけのようだ。女子は瞳を輝かせている。むしろ、机から身を乗り出しそうな雰囲気だ。あたしは教壇に目を向けた。
 女子からの熱い視線を当然のように受け止め、流暢に教科書を読み上げるのは、我がクラスの担任様でもある巻藤センセイだ。
 プリンにならず綺麗に染められた金髪は少し長めで、今日はハーフアップにしてある。伏し目になってさらに色気が増している目元は普段から涼しげで、一言で言えばクール系のイケメン。
 スマートに着こなされたダークグレーのスーツは、細身の長身だから許されるデザインだろう。まぁ、見た目は完全にホストだけど。学校もよく採用したな。
 しかしこのホスト教師、これでも授業はわかりやすいと評判である。帰国子女なので発音も綺麗だし、質問にも丁寧に答えてくれるので生徒の受けもいい。
 なによりイケメンだから、女子の人気が凄まじい。ノリもいいし、あたしも良い先生だとは思う。ある一点を除いては……。

「じゃあ、今までの英文を訳してみろ。ユリ」

 指された逆ハー女は立ち上がった。詰まることなく、日本語訳を読み上げる。

「パーフェクト。さすが、俺のユリだな」

 おい、教師。何堂々と俺の物宣言してんだ。淫行で捕まるぞ。いや、むしろ捕まれ!
 一人限定で見せる甘ーい笑顔に、喜び半分嫉妬半分と、教室内の女子の空気がざわついた。男子も憧れの美少女を口説く教師に良い顔はしないが、顔面偏差値の違いから表に出せないでいる。
 そんな教室内の微妙な空気に気付かないのは、あの二人くらいだろう。

「じゃあ、このthisが何を指しているのかを田中、答えてみろ」

 おわかりかと思うが、このホスト教師も逆ハー女に群がるイケメンの一人だ。
「ユリ」だなんて一人だけ名前呼びで、いかにも贔屓してますオーラが出ている。授業中も関係なく口説きだすのは本当に勘弁しろと叫びたい。それでも教師か。チャラすぎるだろ。
 あ、今ウインクした。どうせ逆ハー女に向けてだろう。誰も見てないと思ったか。残念、あたしが見てました。
 もう、あんなヤツはチャラホストでいい!教育委員会に訴えられてしまえ!
 まぁ、それも時間の問題だろう。このチャラホスト、スキンシップが少々どころかかなり派手だからだ。
 とにかく目に付いてしょうがない。ハグは当たり前だし、肩や手にはよく触っている。逆ハー女限定で。
 はっきりと嫌がらないため、あっちも満更ではないのだろう。学校でイチャつくんじゃねぇよ。まじウゼェ。
 教科書の続きを読み始めたチャラホストは、机の間を歩きだした。
 間近を通るイケメンに女子は小さな歓声を上げ、船を漕いでいた男子はハッと目を覚ます。
 そのとき、あたしは見てしまった。逆ハー女の頭を撫でる、チャラホストの姿を。
 もうダメだコイツら。名残惜しげに髪の毛を弄っているチャラホストに見切りをつけ、癒しを求めて幼なじみを見る。
 ナナはすでに夢の中へと旅立っていた。どうやら、教室内の悪い空気に気付かないのは三人いたようだ。聞けよ授業。だから成績が悪いんだよ。
 はぁ、もう嫌だ。眠気は限界だし、あの二人はウザいし。
 めんどくさくなったあたしは、机に突っ伏した。

 寝よう。おやすみ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ