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僕の家の居候が金髪碧眼姉妹ハーレムで以下略 作者:八重代かりす
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僕の家の居候が金髪碧眼姉妹ハーレムで以下略_十日目


   ***十日目***

 ふと、僕は劇場版マクロスFを思い出した。
「そういえば、トゥエンティシックスを止血しなくてよかったの? あんな雑菌だらけの自然環境への免疫なんてまだできてないんじゃ?」
「やはり、あの巨乳が気になるのですか?」
「気になっているのは君の方だろ?」
 僕はジト目で睨んでやると、サーティエイトは「冗談です」と笑った(!)。
「我々は予防注射を何度もブスブスと打たれていますから。有名な病原菌への耐性はあると思いますよ」
「……米軍みたいだね」
「実際、根源三十六体(オリジナル=サーティシックス)の初等教育担当は米軍海兵隊訓練教官から引き抜いたそうです」
 だから、その影響もあるらしい。考えてみれば、彼女たちはどことなく海兵隊っぽい。
「しかし、そうすると、有名ではない病原菌が怖いんじゃ?」
「この際、実験台になってもらいましょう。どの道、誰かがいつかはやらねばならない事です」
「でも、あの辺りも温暖化のせいか最近じゃ猪が出るし」
「その時は諦めてもらいましょう。私のマスターに手を出した報いですよ」
 もしかして怒っている?――と僕は思ったが、そこまで言うなら仕方がない。ただ、
「男の僕が言う事じゃないけどさ、経血の臭いなんかはちゃんと処理しないと、熊寄せにすらなりかねないよ?」
「そのためのヴァイタルウェアです。加えて、彼女の生理周期ぐらい、把握しています。問題ありません」
「そう。確認できて、安心できた」
 勿論、僕は安心などしていなかったが、苦笑せざるをえなかった。

 その時、僕たち二人は舘山(たちやま)の主要観光道を歩いていた。
 トゥエンティシックス襲撃から考えても、大まかな位置がばれているはずだ。今さら、こそこそしても仕方がない。また、ボコボコにされた僕の怪我も気になる。重傷ではないというのが、僕とサーティエイトの共通見解だったが、油断はできない。だから、補給と休養も兼ねて、一度人里に戻ったという訳である。
 もっとも、僕としてはサーティエイトに観光を楽しんでもらいたいという下心もあった。欺瞞工作としてだけではない。純粋にいい機会だとも思ったのだ。
 実際、サーティエイトは早くもその好奇心をあらわにしていた。

「ところで先程から佐々成政(さっさ なりまさ)の宣伝がやたらと多いのは何故ですか?」
「え、佐々成政を知っているの?」
 僕は驚いた。確かに観光道では佐々成政の幟旗が立ち、商店では関連商品が並んでいる。だが、知識がなければ、それが佐々成政であると認識する事も出来ないだろう。
「馬鹿にしないでください。戦国時代の武将でしょう?」
「そりゃそうだけど、ぶっちゃけ全国的な知名度は皆無に近いからさ」
「けれど、この北陸一帯で主に活躍し、城を建てた人物です。県に縁の有名人ですから、予備知識ぐらいあります」
 なるほど、一理ある。だが、地元民でもないだろうに、こうもつらつら語れるサーティエイトは大したものだと思う。
「ですが、たしかに知名度が高いとは言えません。そんな人物が何故ここではこれほど大々的に喧伝されるのかが、わからないのです」
「そりゃあ、ここが佐々成政の『さらさら越え』舞台だったからさ」
「『さらさら越え』?」
「君の言う通り、佐々成政は北陸一帯で活躍し、ここ越中に基盤を築いた。けど、信長の死後、秀吉と対立してね。戦略的に閉じ込められた。東を越前の前田家、西を越後の上杉家に囲まれた。さらに秀吉は当時の日本最大の経済圏だった近畿一帯を手にしている」
「絶体絶命ですか?」
「ああ。ただ、その頃は冬で動き難い。雪もある。大雑把に計算して、二週間は敵が攻めてくることもない。東西は封鎖され、北は海だけど、南は別だ。太平洋側には秀吉と対立している家康がいた」
「しかし、成政は日本海側で、家康は太平洋側でしょう? 間にはこの三千メートル級の舘山(たちやま)連峰――ひいては日本アルプスそのものがそびえていますよ」
「ハンニバルやナポレオンも、本家の『アルプス越え』で名を轟かせたろ?」
「佐々成政も日本アルプスを越えた――と? 真冬に? 迂回もせず? 二週間で?」
「正確には往復だね。彼には守るべき領地があったから、大軍を連れたりはしなかった。あくまでも、お忍びで日本アルプスを越えて、家康との同盟を求めに行った。おかげで、元祖の『アルプス越え』みたいに兵士の多くを餓死凍死させる事もなかったよ――これが世に言う『さらさら越え』ってわけ」
「……なるほど、それで佐々成政がここでは名高いのですね」
「そういう事。負けっぱなしの成政にとっては、秀吉の裏をかけた唯一の策だったと思う。一軍の長が真冬の日本アルプスをほぼ単身徒歩で正面突破なんて、対策のしようもない」
 実際のところ、当時既に秀吉の力は圧倒的で、成政と家康の間にある日本アルプスにも支配を及ぼしていた。しかし、それでも、どこから登ってくるかわからぬ者を相手にアルプスを封鎖などできるはずもない。
「それ以前に想像もつきませんよ」
「なるほど、僥倖だ。……やはり有効かな?」
「……あの……まさか……」
「そのために――というわけではないよ。ただ、腹案の一つである事は……」
 そこで、サーティエイトの手が僕の口を閉ざした。
 僕は自然ドギマギしたが、すぐに【彼女たち】に気付く。
 それは大人びた眼鏡っ娘と幼げな巨乳っ娘だった。
 ――フォーティフォー、フィフティエイト……!
 髪を黒く染め、登山服を着ているが、その美貌は隠しようもない。観光客の中にいる【マリオン】二体を僕は確認した。
 数瞬遅れて、向こうも気づいたらしい。二人は二人で身構える。
 ただ、よく見ると、フォーティフォーの右手がフィフティエイトの左手を掴んでいる。
「ここで事を構える気はありません」
 フォーティフォーが冷たい声で言う。たしかにこれだけの人目、口封じは面倒だろう。
「我々の目的はトゥエンティシックス姉さまの回収です」
「……それを信じろと?」
「では、考えて下さい。数的優位を確保できていないのに仕掛けると思います?」
 たしかに僕を数に入れれば、2対2だ。けど、僕は数に入らないと思う……。それに、
「そのトゥエンティシックスは単独で襲いかかって来たけど?」
「あれはトゥエンティシックス姉さまだから許された特例です。あの方の運動能力はずば抜けていましたし……」
 フォーティフォーが頬を緩めていた。
 昨夜確認したのが、サーティエイトの運動能力はトゥエンティシックスに次ぐという。あの『水平錐揉み回転両足蹴り』ができるのも、サーティエイトとトゥエンティシックスぐらい。逆に、あの重力を無視したような『ニンジャ=ムーヴ』に至ってはトゥエンティシックスの専売特許だったらしい。
 ただ、フォーティフォーには別の見解があるようだ。
「何より、トゥエンティシックス姉さまは、サーティエイト姉さまに執着されていましたから。事実上の勇み足ですよ」
 なるほど、トゥエンティシックスは『拙速』の典型だった。しかし、未睹巧之久也――未だ巧之久しきを()ざる也――と孫子なら言うだろう。実際、僕は間一髪だった。それを考えれば、辛辣な言い方だ。……どうも、この連中にはこの連中で人間関係があるらしい。
「回収に二人も充てる理由は?」
「理由も何も、元々我々は二人一組(ツーマンセル)以上が基本です。それが【マリオン】の性質に適していますし。……こんな状況なら、なおのことでしょう?」
 僕が横目でサーティエイトに確認すると、彼女は頷いた。たしかに話の整合性はある。トゥエンティシックスの回収は必須だし、刑事なども二人一組(ツーマンセル)を基本にするという。僕がメッサリーナさんでも同じ指示を下すだろう。
 もっとも、このフォーティフォーが表面上は落ち着いているのに対し、隣のフィフティエイトが露骨に睨んできている。意見が割れている可能性も……。
 ――いや、これがいわゆる『善い警官、悪い警官(Good Cop/Bad Cop)』というやつか?
 僕は弱気を振り切るため、歩みを速める。強引に二人の隣を通り過ぎるつもりだった。サーティエイトもそんな僕に付き従ってくれる。

 ただ、すれ違う瞬間、言葉を交わす。

「トゥエンティシックスの携帯端末も発信装置も発見次第に回収させてもらった。あてにしない方がいい」
「私が確認している限り直接投入された人員は9名――内8名はあなたの家に居候させてもらった【マリオン】です」
「その上で、国土地理院発行1/50000『剣温泉付近』地図で、左下から、東50センチ、北35センチの松林に放置してある。……GPSなしで僕の概算だから参考程度だけど」
「メッサリーナ姉さまは非殺傷性も含めた弾薬を手配済み。さらに半径十キロ以内の主要交通拠点にはすべて機械的、電子的な監査網があります。背後は山、逃げ場はありません」
「一応、縄で縛ってあるから、急いで回収してあげて。彼女が風邪をひく前に」
「……今、投降すれば、一定の配慮がなされるでしょう。それでもよろしいのですね?」
「非モテの対女子免疫の低さを侮るな。……今の僕はこの娘ために尽力あるのみだよ」
 僕は勇気を出して、サーティエイトの頭を撫でる。
 歳下の【マリオン】二人は、頬を染めるサーティエイトを、黙って見ていた。

   ***

「行くよ。サーティエイト――さらさら越えだ」
「イエス、マイ=マスター……!」
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