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押入れの中のエルゴパスク 作者:18茶
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虚言者とハーブティー

2万字超えてるんで時間がある時にでも読んで頂けたら幸いです。
 人生は始まりと終わりの連続体だ。
 永遠に続く幸せなどない。当たり前だ、誰もがそう言うだろう。しかし、実際に幸せに浸った奴のほとんどがその事を忘れるだろう。甘味な感情に浸れば浸るほどに思う。永遠に続く幸せは存在するのだ、例外はあるものだと論理立てすらせず、ただ自分に都合の良い妄想を人はなんの確証も無く信じ込むのだ。
 もちろん例外など存在しない。終わった後、それに気付き。そして自身の身体に渦巻く後悔の感情をいだき、疎かに過ごした日々を思い返して自身に憤りを感じるのだ。
 では、青春というものをテーマに上げてみよう、青春には終わりがあるか無いか人によって意見がわれる。当たり前だが青春にもしっかり終わりはある。だが、どこかの教育者が言った『人生は常に青春である』と。
 しかしそれはそうでありたいという願望であり、独りよがりの自己啓発フリークの妄言だと言うことだ。青春とは人気でたからって無理矢理ネタを引き延ばしにかかる漫画と同じだ。引き延ばそうと思えば引き延ばすことが出来るが『俺、そろそろ大人の階段駆け上がっても良いんじゃね?』と思った所で青春は終了するのだ。この曖昧な線引きに多くの人々が騙されるわけだ。
 青春が大学生までと仮定すると、大学生はどちらかというと青春と言うよりも、目の前に見えている大人の入り口に差し掛かる所であり既に青春を終え大人の階段を上っている訳だ。よくあるだろ?テニサー入って新歓で可愛い女の子をみんな先輩達がかっさらっていった事とかな。大人の階段駆け上がらざる得ないだろ?
 そんな訳で大学生は青春とは言えない訳だ。よって完全に青春と位置づけられる時期は、やはり高校生の期間と言えよう。
 では、そんな高校生という青春の期間を後残り無いようにどう楽しく充実して過ごせるのか、そこが肝になってくる。そんなものは人それぞれだし他人が易々と決められるものでもない。恋愛に走るのも良し、部活に走るのも良し、勉強に走るも良しだ。そして多くの失敗して経験を得る。それでこそ青春だ。
 そして数年後、いつの間にか終わっていた青春をネタに飲み会で、『あの頃は良かったな』と汚い所は記憶からそぎ落し、綺麗に整えられ磨かれた過剰包装メモリーズをネタとして役立てる事だろう。聞き手からするとそんなパッケージングされた奴より出荷前の原型を聞かせろよと思うが早々出回るものじゃない。
 まぁ、スーパーマーケット陳列商品よろしくな的な安売り青春が悪いという訳ではない。もちろん需要はあるものなのだ。人々は非日常的で感動的で娯楽的で共感出来るストーリーを求めているのだからな。多少の色づけは致し方無いだろう。
 個人的な意見として、他人に話すための青春ではなく、他人に羨ましがられる自分から語る必要のない青春を過ごしてみたい。さらに欲を言うと、一人になったときに思い返すと枕に顔を埋めて足をバタバタさせるようなちょっぴり恥ずかしいけれども楽しい青春を過ごしてみたいと思う。
 よくあるドタバタ青春コメディに憧れていた、そんな毎日が楽しい日々を過ごせたらそれはきっと改変不要の最高の青春である事だろう。

 ……そんな自己陶酔溢れる中二病ポエムを脳内で綴り、客観的視野で読んでみた。
 結果、全身の毛が逆立つ気分だ、こんな事考えた奴こそ顔枕バタバタ一生コースでは無かろうかと思うくらい酷いできだった。
 そして、一息つき、これもその青春って奴の責任にすれば良いかなと結論づけることにして思考を閉じることにした。

「東、私と付き合って下さいっ!」

 閑散とした校舎の裏庭で赤みがかったポニーテールが揺れる。幼さがまだ残る顔立ちの彼女から緊張した面持ちで決意の言葉を告げられた。長い時間躊躇していたせいもあり、つい出来心で自己陶酔のポエムを綴り、気持ち萎えきっていた東三太(あずまさんた)は気だるそうに口を開く。

「んで?今回はお前が負けたって訳?」

 これは告白ゲームという奴だ。ゲームに負けた人間はとりあえず誰でも良いから告白する。もし付き合った時は経過を逐一報告し、十分ネタが集まった後は最後にネタばらし。エグいがシンプルなゲームである。された側は絶対のトラウマを抱えることとなるのが特徴である。勝敗の付け方は前回のゲーム第一勝者によって決まる。ばば抜きでも大富豪でも麻雀でも良い。つまり、告白ゲームは罰ゲームの内容ということである。
 そんなエグい罰ゲームの内容も用法用量を守ればおふざけで済むのだ。身内同士でやる分にはそこまで効力は発しない。彼女たちもそれは理解しているだろう。
 何分、俺もこのゲームの内容は熟知している。おかげで月10回も告られていている。回数だけなら校内一のイケメンだ。

「…やっぱり?」
「当たり前だ。何回俺に告白するんだ、千葉ちゃん?それとももう一回俺と映画見に行くか?」
「いやー、遠慮しておくよ。スプラッター映画は精神的に持たないからね。」

 思い出したかのように少しッウとなっている千葉ちゃんを見ると流石にスプラッター映画はやり過ぎたかと内心反省した。でも最後まで付き合ってくれる千葉ちゃん可愛いよ千葉ちゃん。

その言葉を聞くとぞろぞろと校舎の影から隠れていた人影達が顔を見せてきた。

「だから言ったじゃん~、東はやりすぎって」
「ピーコすぐに東に走るしつまんなぃ~。もしかしてマジだったりするの?」
「そんなんじゃないよぉ~、皆だって良く東使うじゃん。ってか使いやすいじゃん~」

 使いやすいって、本人目の前にいう言葉か?俺も千葉ちゃん使いやすいよ。おかず的な意味で。
 閑散としていた裏庭は瞬時にして騒がしくなる。それに触発されたのか、それまで木々に止まっていた鳥たちもどこか空へと飛び立っていった。女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
 それにしても前日まで半泣き状態で俺に依頼してきた千葉ちゃんはなかなかの演技ものだなぁ。

「慣れてきたら罰ゲームじゃないし、次から東抜きね!」
「っえ~、幸枝それ厳しいよぉ~」

 ちょっと困っちゃうよ私~みたいな顔でその女子グループのリーダー格ともいえる女子、幸枝の腕に両手を回しぴょんぴょんとはねる千葉ちゃん。はねる毎に揺れる己の豊満な胸部に気付いているだろうか?いくら俺でも視線を向けざる得ない。

「ちょっと、ピーコ……」

 ピーコとはなんぞやと少し思考を巡らせた。状況を見たらすぐに解がでてきた。ようするに千葉ちゃんの事だ。こいつの名前が千葉市(ちばいち)ということから千葉の名産落花生を英語にしてピーナッツ。ピーって所と昭和的女子名の子を付け足しピーコだ。昭和=古いつまりは千葉マジで時代遅れという意味につながるわけだ。千葉県民は怒り心頭だろう。さすが埼玉県民はやることがえげつねぇぜ。

どうやら他の女子が俺の視線に気付いたみたいだ、こそっと話をしたみたいだ。少し顔を紅潮させ、両手でその豊満な胸部を隠す。

「ちょっと-!東何処見てんのよーっ!」
「っは、男はそこに夢を描いているんだ。仕方が無い。」
「さいってー」

 俺の言葉を聞いていた女子全員から同じ言葉が出てきた。こいつら何?どっかで打ち合せしてきたの?
 まぁ、女子が本気で嫌な場合ってあれだよ真顔で『キモいから近寄らないで、50m位幅開けてくんない?東菌うつるでしょ』だ。○○菌って最初に言った奴は死刑になっても良いと思うんだ。
 これは女子の仲で通じる冗談で言っているイントネーションなんだから仕方ない。

「それはそれは、お役御免で何よりだ。んじゃなー!」

「あっ、東ぁーっ、ありがとねー」
「おうよー」

 後ろでキャッキャしている女子共を背に裏庭をでて、彼女たちから俺の姿が見えなくなる所、校舎の壁にそって曲がった辺りに生活指導の嘉数文が校舎の壁にもたれかかっていた。

「よぉー東ぁ、ちょいと職員室に菓子食いに行こうぜ?」

 男勝りな口調とゆるふわ大学生みたいな容姿のギャップがあってか男子に人気だ。生活指導ってどうしてこんな感じの人がなるんだろうな?
 しかし、その男勝りが災いし、未だ独身であると聞く。噂を聞く限りだとあざとく振る舞いすぎて逆にひかれるみたいだ。男勝り関係ないじゃん。

「はぁ……」

 こうして俺は職員室へと連行されるわけだ。

 職員室に入る時って失礼しますって言うよね。それって先生に用事がある生徒が先生の仕事を一時的に止めて相手をして頂く事に対し失礼だとは思いますがお邪魔しますっていう事から言うわけで、今回は強制連行されて連れてこられた筈なのに『おいっ!あずまぁっ!職員室入るときの失礼しますがきこえねぇぞぉ!』の怒声は理不尽極まり無いんじゃないの?体育の田中?。一瞬乾杯のイッキ音頭に聞こえてしまったわ。ご馳走様が聞こえない~。ごめん、怒声のおかわりは簡便な。

「まぁまぁ、田中先生、今回は私が用事で呼んだのでそのくらいで」
「そうですか、嘉藤先生がそう言うなら仕方が無いですね。東、今回だけだからな!」
「はぁ……」

 にこやかに返す嘉藤にすぐに言葉を引っ込める田中。職員室の上下関係を垣間見てしまった。
 嘉藤につれられて職員室奥にあるパーテーションに仕切られた部屋に案内された。ソファーに座ると正面に嘉藤が座る。

「さて、単刀直入に要件を聞くぞ、東」
「はい、なんでしょうか?」
「お前はいじめられているのか?」
「そんな訳ないじゃないですか。今回のあれだって千葉ちゃんから事前に依頼があったから請け負った訳で、特に俺を使って遊んでいるなんてそんなことはないですよ?もちろん彼女からは報酬は頂いてますけど」
「報酬?まさか金銭とかそういった話か?それだと別に問題だぞ、お前を……」
「そんなわけ無いじゃないですか~、いわゆる借りって奴ですよ。これ盾にして面倒くさい行事の作業とか手伝ってもらうんですよ。そこで二人きりで作業していく内に仲良くなって……っていうのを期待しているんで」
「な、なるほど、お前はあれか?千葉みたいな女がタイプか?」
「ん~、そうでも無いですけれどとりあえずキープ的な?」
「……お前いつかボコボコにされるぞ」
「ははっその時は先生が看病して下さいね!」
「まぁ、その時が来たらな。それじゃ特にいじめはなかったと」

 ニュースとかでいじめ自殺した時の学校対応みたいな口調で言わないで欲しいなぁ。俺本当にいじめられてたらどうすんだよ。小声で圧力をかけられた環境で言われるのか?『いじめはなかった』って?俺は屈せずに素直に答えるだろう『いじめは無かったです』と全然素直じゃねぇし屈してるわ。社会こえぇ。

「そうっすね、とりあえず話はそれだけっすか?俺そろそろ勉強したいんすけど」
「まぁまぁ、急かすな。あと1件あるんだ、これはお前の今後の進路を有利に進める事が出来る一つの策だ。」
「ほぅ、そんなものをこんな成績中の上くらいの人間に教えても良いのですか?どうせなら学内成績トップ10に入る奴らに教えた方が良いんでは?」
「いやいや、そいつらに教えても役にたたん。何も言わずとも勝手に良い大学に入るだろう。結局勉強ばかりやってきた人間共だ。人を理解しようとする姿勢が無ければ勤まらんよ。」
「人を理解?」
「君がそうじゃないか?窮地追いやられている人間を手助けするのはそれを理解しているからだろ?」
「……なんか含んだ言葉ですね。俺のこと調べました?」
「察しが良いね。まぁ、良いじゃ無いか、高校デビューが成功して。」

 嫌な言葉並べるなぁ、思春期の男の子の秘密を本人前に暴露しちゃったらトラウマになっちゃうんだぞぉ?

「だから結婚できないですよ。」
「私は孤高に生きてるんだ……ッグス」

 ……すいません、言い過ぎました。涙ぐむのやめてもらえないですかね?

「……ーあ、なんていうか……すいませんでした。」

 嘉藤がうんと頷きながら袖で涙拭いている。あざと可愛いと思ってしまいました。なるほど、これは男子に人気になるわけだ。

「話は戻しますけど、それでその策ってのを教えてもらっても良いですかね?」
「あぁ、先日の職員会議で決まってな、生徒が生徒の為に動く生徒の為の部活動というものを始めようと言うことになったのだ」

 なんだそのハーレム系小説の発端的な部活動、ネコ好きの黒髪ロングな美少女とか千葉ちゃん真っ青のばくにゅ……驚異的な胸囲をもつ金髪美少女ヒロインとか出てくんの?俺ぼっちでもヤンキーでも無いし妹いねぇぞ?

「なんか、唐突っすね、それ?結局何をする部なんですかね?」
「君はカスタマーサポートという職業を知っているかい?」
「確か、顧客対応を専門にした職業を言いますよね?主に電話で質問とかクレームを対応する所じゃないんですか?」
「そうだ、君にはそれの学校版カスタマーサポートをしてもらいたい。名称はそうだな。スクールスチューデントサポート部略してSSS部だ!」

 呼びづれぇ……さらにこんだけS入れるといかがわしい部活だと思っちゃう僕はちょっと大人の階段を駆け足しちゃったかな?テへっ☆

「それは呼びづらいっすよ。。。エスエスエス部って」
「それはそうだな、それじゃトリプルS部でどうだ?」
なんか違うんだよな。ってかさっきのいかがわしい妄想のせいでイメージが離れない。どんだけサドりたいねん。
「ちょっと名称が古いっすね。年ばれますよ?」
「私はまだ20代だ。30半ばで血眼に結婚相手探しているF先生よりはましだろ?」

 あんた藤原先生になんか恨みでもあるのか?

「そんな話はどうでも良かったな、忘れてくれ。それでは部活動の名称は君たちが付けたまえ、生徒の為の部活動だからな。そこも君達に委ねよう。」

 良い案が思いつかなかったんだな。……ん?

「分りました、それと、達って?」
「あぁ、実はもう既に1人は捕まえているんだ。後で既に部室にいるから案内しよう」

 なんだと……もしかして美少女じゃねぇの?ちょっと待てよ、今俺の脳内にある同学年可愛い子データベースがうねりを上げるぜ!

「わかりやした。んで、そろそろ俺がその部活に入るメリットってのを教えてもらっても良いですかね?」
「君は科学者になりたいようだな。」
「……書面にも進路調査にもそこまで明確に書いてなかった筈ですか、そこまで調べたんですね。ストーカーもびっくりっすよ」
「まぁ、そういうな。君の希望を深く汲み取りたくてね。私が提示する条件はこれだ」

 そう言って嘉藤が差し出した一つのプリンタ用紙に書かれていた文字を追う内に書いている内容に自らの目が見開いている事に気付く。

「……国立大学への推薦枠の確保」
「あぁ、これの確約には苦労したぞ。」
「なるほど、確かに良い条件だわ」
「初めての試みたいだからな。それなりに報酬を出すということだ。もちろんだが君のこの1年での成果によってこの条件を適用出来るか教師陣で判断させて頂く。出来れば推薦確約、出来なければ条件はなしだ。そして、活動中の試験勉強の時間が削られるハイリスクハイリターンであると思うが如何かな?」
「いえ、文句なしの条件です。それなら是非ともやらせて頂きたいです。」
「わかった、では部室に案内しよう。」

 そう言って職員室を後にした。

高等部棟の最上階、3年生教室と部室が対面になるようにコの字を描いている。部室棟の末端には生徒会室があり、その隣に教室一つ分はある大きな空き部屋があった。

「前までは資材置き場として使っていたのだが、それでも空きがあってな、丁度ここが部室には良いと思ってな」

 嘉藤が名前無き部室の扉を開ける
 俺の内心は絶好調だった。
 期待値として大本命はC組の大人しめかわいい系の小麦ちゃんかな。いや待て、かわいい系よりも美人系がこういう部活はヒロインになりやすい……と言うことはA組の優菜ちゃんも十分に期待できるッ!……ステイステイ、落ち着け俺!ここは現実だ、文学の世界じゃ無い。そうなると、やはりこういう部活は基本的に意識高い系が食いつくと思うんだ。となると同じB組のちょっとウザいけど舌足らずで横文字がたどたどしい意識高いのを守ってやりたい系の春ちゃんが期待値アップップーッ!

 大いなる期待を胸に抱き、いざ部室への扉をくぐった。その先には予想通り、裏切りと絶望が俺を待ち構えていた。先に部室に居たのは見覚えのある顔だった俺の中学の同級生だ。

「雄へ……木下」

 昔の呼び名が自然と出てきたが力尽くで押し込んだ。噂では滝川より難しい都内の進学校に受かったと聞いていた。木下雄平、幼馴染みの姿を見て息をのんだ。

「三太じゃないか。久し振りだね」

 俺を見るさわやかな笑顔、透かした声が俺の気に障る。互いに違う高校に進学して二度と会うことは無いと思っていたのだが

「なんだよ、都立進学校受かったって聞いたぞ?俺が恋しくて蹴ったか?残念ながら俺はそんな趣味は持ってないから今後とも近づきたく無いのだが?」
「違うよ、しっかりとした厳選の元、滝川が俺に合っているから蹴っただけのことだよ偏差値だけ重視する学校に興味は無いんだ。それに滝川に三太がいたのは驚いたよ、これは本当に偶然。それに、これからは同じ部活の仲間じゃないか、昔みたいに仲良くしようよ」

 木下はまたにこりと笑う。

「あ?何言ってんのお前?」
「こらこら、東ぁ~喧嘩腰になるんじゃない」

 嘉藤から軽いげんこつを受けた。過剰の体罰で訴えてやる。だから結婚できねぇんだ。

「お前今なんか失礼なこと考えなかったか?」
「………何も」

嘉藤俺の思考が分るのかよ……離れてたって以心で伝心しちゃうの?文ちゃんにテレパシー届いちゃうの?だとしたら俺、R型脳梁の病気を疑うわ。俺天才。
まぁこういう時はすぐ謝るに限る。そうじゃないと面倒くさい事が長引くからな。昔からの教えだ。

「すいません、少し感情的になってたみたいっす」
「お、おう、以外と素直なんだな」
「こいつはそういう奴ですよ。素直にすぐに謝る。それが三太の良い所なんだ」

 木下を目だけで睨むがそれ以上口は出さないようにした、俺のテレパス受信者に見つからないようにひっそり妄想でボコボコにすることにした。

「さて、お前ら2人はこのまだ部活の名前も決まってない生徒支援の部員として、来週からやることとなる訳だ。来週のHRから中等部・高等部の生徒にも情報が行き渡るはずだ。」

「ちょっと待ってくれ、依頼は中等部からも来るんすかっ!?」
「あぁ、そうだ」
「そうなると、二人では対応が追いつかないのでは?」

 途中木下も口を挟んできた。木下もその件については聞いてないと見えた。

「そうだな、それも一応予見している。その際は生徒会を使え。その間に増員を用意しよう」
「適当っすね。」
「適当とは適度に割り当てていると言う意味だ。お前らの知っているテキトーの”いい加減”とは違う。と言うことで褒め言葉として受け取っておこう」

 嘉藤は俺に目線を配りニコっと微笑する。なんだろう、こうしてみれば本当に可愛いんだよなこの人。

「さて、他に質問は」

 その後いくつか質問をし脳内でまとめる。要するにこの部活は生徒個人の依頼と生徒から生徒会へ依頼の一次受付を受け持つ部活だ。案件が来る、それが俺たちで切り分けを行う。俺たちだけで対応が難しい場合は生徒会に送る。もし対応出来る場合は俺たちで対応する訳だ。依頼の量が多かった場合は生徒会がこちらを手伝う。また逆もしかりって所だ。

 一通り説明を終えた嘉藤は一息つき
「さて、それじゃ、部活名はどうする?出来れば今日のうちに決めて置きたいのだ。来週のHRで告知しなくてはならないのでな」

 俺も、木下もしばし考える。

「目安部はどうかな?」
「なるほど、目安箱からもじったか。確かに良いが少し古くさくないか?」
「それじゃ、パブリックコメント部はどうかな?本来の意味合いとは違うけど大衆を相手にするって所はって目的からは外れてないと思うんだよ」
「横文字がなんか気取った感じにしか見えなく無いか?」
「それじゃあさ、三太は何か思いついた?」

 否定的な意見を連続で出され、流石の木下の少し不機嫌そうだ。そこで俺はこの部活の根本から考え口に出してみた。

「最近の学生は受け身だからな、生徒が生徒の為にと謳っているがそれを鵜呑みにして依頼してから1から10まで全てを任せる奴がいる。挙げ句の果てには依頼者は神様だぞとか言ってくる馬鹿も居るだろう。俺たちはそんな飲食業みたいなブラック部活をする気はさらさら無いわけだ。俺たちは依頼者の心を奮い立たせ自ら考え行動させ、その結果を体験させる。つまりは依頼者の自立を支援する部活を目指すべきだ」

ほぅっと感心したかのように嘉藤は振る舞う。

「まともなことを言うじゃないか?っでその部活の名前は?」
「依頼者の心の声を聞き、救済する部活。その名も……」

皆が息をのむ。

「鼓部だ!」

 小一時間部室に春の静寂が訪れた。
 皆、これまでに無いほどドン引きの表情だ。あのツッコみに定評のある嘉藤先生ですら返答に困っている。その日、俺は顔を枕に埋め足をバタバタする事になるのだった。

「まぁ、なんだ?とりあえずパブリックコメント部でいいな」
「……はい」
「東ぁ、発言後に恥ずかしがるなら発言するべき物じゃ無いのだ。」
「嘉藤先生に同感だよ、三太」
「……やめろ、あの時の俺はどうかしていたんだ。」
「まさかあの引っ張りで自身を鼓ぶふぅッ!……しているなんて思いもしなかったぞ」

 今鼓舞の所で笑ったよな?ジワジワきてんだろ?んんぅ~?文ちゃ~ん?今ジワジワとこみ上げるものがあるんだろ、口角ひくひくしてんの分かってんだぞ。

「ま、まぁなんだ?それじゃ、来週からパブリックコメント部を宜しく頼む!」

 そうって颯爽と部屋を出て行った。廊下に出て行った瞬間足音の感覚が早くなったのは絶対に俺はスベっていないと思うんだ。
 それから俺も木下と2人でいるのは気に障るので嘉藤の後を追うように部室を出ようとした。丁度引き戸に手をかけた後、後ろから声が耳障りな声が聞こえた。

「三太、また来週!」

 中学の頃から変わらないあの優男の笑みを鼻で笑い部室を後にした。

 休日、電車で40分さらに乗り継ぎで30分と1時間ちょいかけて来た甲斐があったというものだ。
 煌びやかに光る室内、数々と並ぶ莫大な商品達は美しくパッケージされ、そのクオリティの良さに目が奪われる。
 俺は今、超大型ショッピングで話題のデザイアショッピングタウンに来ている。オープンしてそろそろ3年は経とうこの施設には距離的な懸念もあり一度も足を運んだことが無かったのだが、今回思い切って来てみた。動画で流行りそうだな。来店してみたって。絶対無許可撮影で出禁になる奴がいるのは目に見えてるな。
 フロアマップを確認すると4ヶ所円形になるように建設されており、建物間に連絡通路が設置されている。片方歩けば施設全てに足を運ぶことが出来る訳循環型のような形らしい。お年寄りのためにエスカレーターの水平バージョンであるオートウォークまで設置されている。ここポイント高いよー。
 中央にはイベント会場があり、どの施設からでも観覧出来る様な仕組みだ。各棟は1Fから3Fまであり、歩き回るだけで今日一日が終わってしまいそうな気がする。まぁ、手当たり次第適当に回っていこう。やはり休みはモール散策に限る。

 既に両手の指の数以上の店舗を見て回った頃、ふとガラス越しに中央のイベント会場が目にとまった。大きく作られた手作りの看板には『東農即売会』と書かれている。どうやら近場の高校生が即売会を行っているようだ。特に関心も無くそんなのを眺めていたら丁度腹が鳴った。時間を確認すると既に午後2時、だいぶ時間を忘れていたみたいだ。ここらで昼にする事にしようと、俺はフードコートに向った。

 フードコートでは昼過ぎではあるが、まだ大勢人が入り乱れており、人気のお店などはまだ行列を作っていた。
 そんな行列を成している店には全く興味を持たず、いつもの超有名牛丼店でざるそばを頼む。列に並ばずにすぐに頼めるすぐにでる。そこそこうまい。そしてすぐに席を確保できる。良いことづくしに感謝の言葉しかでない。マジ牛丼屋リスペクト
 優越感に浸りながら贅沢に角のボックス席に座りそばをすする。行列に目を配るとどうやら作業着を着た高校生らしき人物も所々に見られる。どうやら先ほどのイベント会場にいた東農の生徒なのだろう。休憩時間を行列で使うとかねぇわ~。いや、ガチで無いわ。

 ふと、行列を見ている俺の視界の端になにやら違和感のある人影が映り込んだ。何ぞやとフォーカスを当てて見ると見知った2人の姿をとらえた。とらえた瞬間にすぐに席を立とうとしたが時既に遅し、角のボックス席が仇となり逃げ道を塞がれてしまったのだった。

「よぉー!三ちゃんじゃん!久し振りーっ!相変わらずショッピングセンター巡りしてんだな!」

 身長が190を超えるであろう身長に農業という力仕事で培われたガッシリとした体格で紫色に脱色した髪は明らかにヤンキーだったが、表情は優しく俺を見る。俺の中学の幼馴染みである、広津宏治(ひろつこうじ)は興奮気味に俺に話しかけてきた。

「……」

「おい、まゆまゆ、せっかくの幼馴染み再会だぞ?スマホくらいしまえよ」

 宏治が少し困ったような表情で問いかけるも表情一つ変えずスマホから目線を外さない。中学以来だがプリン頭と厚化粧女でギャル化が進行した幼馴染みの芦辺真優(あしべまゆ)は諦めない宏治からの問いかけに痺れを切らしたらし舌打ちした後に口を開く。

「あ?コージ何言ってんの?ってかこいつに話しかけるとかチョーキモいんだけど。東菌移るからさっさと行かない?」
「お前なぁ、もう少し言い方ってのがあるだろ。」
「チョーどうでもいいし。マジ気分最悪だからあたし行くわ」

 一度も目を合わさず暴言だけたれて芦辺は去って行った。どうやったら人を傷つけられる言葉ぽんぽん放つように育つのか不思議でたまらない。昔はあんな娘じゃなかったのにね。

「三ちゃん、ゴメンな!あいつもアレだから悪気と思うんだ!ここは俺に免じて許してくれっ!」

 あいつがアレなのはアレだろ?中学の頃から知っている。アレと、コレとソレが足りないんだろ?要は頭がアレなんだろ?

「大丈夫だからっ!気にすんなって。」
「あっやっべ、そろそろ集合だ!三ちゃんごめん!俺行くから!飯邪魔してゴメンな!今度また遊ぼうな!」

 そう言って宏治は行ってしまった。毎度の事ながら嵐みたいな男だと思う。

 月曜日というものは毎度の事ながら憂鬱になる日だ。
 俺の通う私立滝川学園は家からはだいぶ離れており、他の学生より一足早く家を出なければならない。これは俺が地元の高校を避けた末路といえよう。しかし、そこにはなんの不満も無い。全て俺が決めた事なのだから。
 ……ただ、毎週月曜日に同じ時間に家を出るお隣さんの幼馴染みと鉢合わせするのが気まずいのが憂鬱なのだ。ばったり顔を合わせるのもなんだから俺が数分ほど時間を空け出る訳だ。そうすることで平和な世界が作られる。
 そう思いながら俺は目の前を歩く女の子を凝視する。肩まで伸びた栗色の髪が朝日に照らされて少し神秘的に見えた、小柄で整った容姿は高校生男子の将来嫁にしたい女子ランキング上位に名前を残しているのだろう。そんな柚木陽菜(ゆうきひな)の後ろ姿を目の前に、自然と嘆息がでる。
 昔は『私さっちゃんのお嫁さんになるっ!』とか嬉しいこと言っていたのだが年月というのは残酷で今では挨拶すらしない他人同様の関係にまで落ちてしまう始末だ。いや、元々引っ込み思案でこちらから話しかけないと話してくれない節はあるのだが、感情が顔に出やすいと言うか直情的というか何度もそれに苦労した覚えがある。要するに面倒くさい女だ。ほんと、幼馴染みが優しい世界ってあるのかと疑いたくなる。有名なメンタルクリニックの先生も言っているだろ。「優しい幼馴染み」とはあなたの想像上の人物に過ぎないのでは無いでしょうかってな。
 そんなこんな考えていたら、駅前の大きなスクランブル交差点に差し掛かった。そう、ここで前を歩く陽菜とはさよならだ。なぜかって?……学校が違うからだ。引っ張った割に面白くない。今は反省している。

 放課後のチャイムが憂鬱な時間の始まりを告げた。本日から部活動が開始すると同時にあの木下と一緒に居る時間が増える考えるとフラストレーションが溜まる。
しかし、決めた事は決めた事だ。そこはきっちりと理解し、重い足取りで部室へ向かうことにした。

 部室の扉を開けるとまだ誰も来ていない。俺が一番乗りみたいだ。2人しかいないんだけどね。
 先週と同じ席に腰を落ち着かせ、時間を無駄にしない為に勉強をしようとタブレットを取り出す。最近はクラウド上にデータを保存できるから、参考書をいちいち持ってこなくてもこれで事足りる。しかし、皆に合わせないと奇特な目で見られるので人の目につく所では皆に合わせるようにしていた。
 教室で板書したノートを見ながらタブレットに打ち込んでいく。これで復習にもなるし、テスト前の確認にも有効だ。

 それにしても誰も来ない。本当に嘉藤はHRで告知したのだろうかって位誰も来ない。依頼系部活動のグランドオープンでこの集客数はやばくないでしょうか?もっとわちゃわちゃと忙しくなるのを期待していたいのだがな……普通の店なら店長青ざめて縄用意しているレベルだぞこれ?まぁ、静かに勉強出来るから良いけど。
それにしても木下だ。あいつ、なにやってんだ?初日からサボリとか酷すぎだろ。

 それからしばらく経ち、丁度タブレットへの打ち込みが終わりそうな時、ガラッっと部室の扉が開く音がした。
 『ようやく来たか。遅すぎだろお前』と口出ししながら視線を向けたがそこには俺が期待していた人物は居なかった。

「っや……東」
「千葉ちゃん?」

 長テーブルに向かい合うように座る俺と千葉ちゃん。互いの目線が合う。こういう場で合うとなんか少し照れくさいし、目と目が合う瞬間に好きだと気付いちゃいそうになるから少しだけ目をそらさせて頂こう。

「まさか、依頼者第一号が千葉ちゃんかぁ~、罰ゲーム以外でも俺を頼るなんて。実は俺のこと好きでしょ?」
「あは、ウケる~。東の自意識過剰も大概だね。東がこんな部活やっていたなんて思わなかったよ」

 上手く回答を濁された辺り、少し期待値が上昇した。

「まぁな、ちょっとした気分転換みたいなものだ。それに嘉藤先生直々のお願いってのもあるからな」

 大学推薦とかそう言う所は嫉妬を買う要因になりそうだから伏せておくことにしよう。
 千葉ちゃんもそうなんだーと流し頷く。

「んじゃ、依頼を聞くぜ」
「あっ、うん...えっとー.........」

 少し沈黙が続く。千葉ちゃんが少しもじもじと言うことを躊躇っているようにも見える。
 ん?顔が少しだけ紅潮している?……もしや、いや以前から何度も俺を狙った辺りの執拗な罰ゲーム代行依頼。そして先ほどの上手くかわされた回答と俺と千葉ちゃんが2人きりであるこのシチュエーションから導き出せるもの……いやー、なんて言うかモテる男ってツラいわー。

 千葉ちゃんは意を決したかのように今までうろちょろして居た視線を俺に見定め、口を開く。
 俺の全身に緊張感が駆け巡る。

「東!私の告白を手伝って欲しいのっ!」

 あれ?俺じゃないの……ですよねー。

「へぇー、千葉ちゃんに好きな奴居たんだ」
「うん、海陽の男子なんだけど……」

 話を聞けば、友人と一緒に遊びに行った際に知り合ったそうな。たびたび合う内に惹かれていったとそういうことですか。リア充爆発しろよ。

「ふーん、なるほど。んで、俺はなにをすればいいのかな?」

 告白の手伝いだって漠然とした用件で動けるわけがない。ここからが俺のヒアリング力が試される。
いくつか千葉ちゃんがこうして欲しいと言う問いに質問を投げかけて内容を詰めていく。予定としては今週の土曜日。遊びに行く人数は4、5名程度、場所は東部動物公園、現地集合らしい。千葉ちゃんの思い人の名前は後藤翔太(ごとうしょうた)、彼と出来るだけ二人きりで行動させて俺は外野を誘導する係を担えば良いとのことだ。オーケー簡単な仕事だ。

「わぁーた、一応出来る事まではするが、大きく期待するなよ」
「うん、お願いね。」

 この日はこれで解散となった。結局、千葉ちゃん以外の人物からの依頼が来ることは無く、そして木下も部室に来ることは無く週末を迎えた。
 土曜日の朝は雲一つ無い良い天気だ、とんだデート日和だ。アウトドアなインドアの俺には少しキツめな天気だ。神様はそんなに千葉ちゃんに彼氏を作らせたいみたいだな。あぁ、手伝うんじゃ無くて邪魔してぇ……。
 そう思いながら駅へ歩く俺の目の前には珍しく、陽菜が歩いていた。
 制服姿ではない陽菜を見るのは小学生以来だ。まぁ、外に出る時間が被っただけだろうと後ろから並ばないように歩調を調整しながら歩く。どうせ十字路でお別れだ。
 そう思いながら歩いていた。陽菜も駅に入るみたいだ。休日だしな、遠くに遊ぶに行くのだろう。仕方がない別の車両に乗ろう。…あれ?降りる駅が一緒か、まぁ、この近場には遊び場が沢山あるからな仕方が無い。あれ?待ち合わせって確か東部動物公園前の噴水ってコレだよなよな……なんで陽菜もここで止まってんの?同じ日に同じ場所で遊ぶの?おぉ、それは奇遇だ。ショッピングセンターとかで同級生と会うときのあの気まずさに似てるわ。何度も鉢合わせいないようにめっちゃ努力するわ。
 陽菜と少し離れたベンチに腰掛ける。スマホを弄りながらちらりと陽菜をみる、赤に近いオレンジ色のスカートに白と淡いピンクのノースリーブと淡い薄手のカーディガンを羽織っていた。

 「東ぁ~」

 聞き覚えのある声に少し心が落ち着いた。目線を声がかかった方向に目線を向けると、フラワープリントのワンピースとリボンベルトで学校で見る千葉ちゃんとはひと味ちがう愛らしさがあった。一瞬見とれていたほどだ。

「おぅ、千葉ちゃん!今日は一段と可愛いねぇ~!特に胸の辺りが強調されている所が最高だよっ!」
「出会い頭でそれぇ?もう少し言い回し考えてよぉ~」

 軽い冗談をしながら一緒のベンチで雑談しながら待っていると同い年くらいの男に声をかけられた。

「おっ!千葉ちゃんじゃん!ハイサイ!」
「あー!後藤君久し振りーっ!」

 あいつが千葉ちゃんが好きな奴か。結構良い感じじゃん。コレ俺が手伝う必要は無いんじゃないの?一応、自己紹介と思う少し話を合わせようか。

「ども、東っす」
「あー、君が千葉ちゃんの連れ!俺後藤な!ごっちゃんってよく言われているからそっちで呼んでもらってもかまわへんぜよ!ばってん千葉ちゃんの連れが男!もしかして彼氏?」
「やだ~、そんなわけ無いじゃん~」

 やだ~、未来の彼氏さんにそう言われたら、俺萎縮しちゃいますよ?ってか口調おかしくね?お前の地元何処だよ。どこ中よ?

「あ~、柚木いるじゃーん!もう来てたん?早くね?」

 俺の嫌な予感が的中する、若干手汗が滲む。久しぶりに顔合わせるから若干気まずい

「あれ~?ごっちゃんきてたの~?」

 そう言いながら陽菜がこちらの方に駆け寄ってきた。久し振りに声を聞いたな。案外可愛い声してんのね。

 どうやら俺の視線を感じとったのか陽菜も俺に目線を移す、目が合う。一瞬。視線をそらして、ッハとした感じで俺を二度見た。そして怪訝そうな表情で俺をじーっと見つめる。俺は珍獣じゃねぇぞ。

「あれ?もしかして………?三太?」

 あっ、良かった覚えていたわ。ここで『初めまして』とか言われてたら俺泣いてたわ。さて、スイッチを切り替えよう。

「っよ、陽菜、久し振りだな」

このやりとりは他の2人には初対面とは思えなかったらしく後藤と千葉ちゃんが絡んでくる

「あれー!2人って会ったことあるんだ-!」
「うん、同中なんだ」
「あー、それで!奇遇じゃん-!今日も一緒に来とか?」
「いやーそういう訳ではないな。そもそも来ることわかんなかったしな」
「えー、なんかロマンチックじゃない~。」

 千葉ちゃん、一緒に来るだけでRomantic感じていたら胸が苦しくなりすぎて酸欠起こすぞ。
 まぁ、陽菜が来るというのは予想外だったが、千葉ちゃんとごっちゃんを2人きりにする時はなんとかなりそうだ。

「まぁ、いいじゃん。とりあえず全員揃った?」
「あと1人来るよ」

 まじか、その構成少しまずくね?確実に1人余りできるだろ。この構成考えた奴馬鹿なんじゃねーの?

「ごめーん、遅くなった-!」

 その口調からは明らかに女子。あれ、このメンツの構成だと確実にぼっちになるの俺じゃね?
 そんな、ふざけた思考はその女の子が視界に入った時全て吹き飛んだ。

 自然と小さく呟く一言は誰の耳にも届かず空気と共に消えた。
 フェミニンなショートカットに、人形の様な愛らしい顔立ちときめ細やかな肌の白さに息をのんだ。そして、何よりあいつ似ていると言う所が彼女の姿が俺の視界を縛り付けた。

「ん?この人は?」

 俺の視線に気付いた彼女は俺を指さして千葉ちゃんに訪ねる。

「こらっ、渚!人を指さすな、それと人に名前を聞く前に自分から名乗るのっ!」

 どうやら渚という名前らしい。どうやら千葉ちゃんと親しいのはこっちの方らしい。
風見渚(かざみなぎさ)ですー、趣味は同人活動です、よろしくです」

なんでも語尾にです付けりゃ良いわけではないんだけどな。

「東三太っす。よろしく」
「あー、君がそうなんだ。良く陽菜ちゃんから聞いてるよ中二病だったんだよね?」
「はぁ?」

 場の空気が一瞬凍り付いた気がした。
 ……おっといけない。威圧的なイントネーションだ。コレじゃ相手を萎縮させてしまう。驚きの連続だったからコントロール出来てなかったわ。

「……おっと、すまんすまん、声の出し方間違えたわ。イントネーションって難しいな」

 笑って誤魔化して見て見たがどうだろう。どうやら俺のごまかし方じゃまだ氷は完全に溶けていないようだ。
 すると、先陣切って後藤のごっちゃんが明るく振る舞う。
「東ちゃん、良くある良くある!あれ?こぎゃん声出す予定じゃ無かったんはずなのに~ってなっ!あっはっは」

 すぐに氷のように固まった空気は後藤という熱線で溶けていった。流石千葉ちゃんが惚れるだけはある。一応、フォローはしておくか。

「まぁ、あんま思い出したくない思い出だ。恥ずかしさの余り身悶えするからその話は勘弁してくれ。」

 多分これがこいつらの求めている答えだ『昔の俺超恥ずかしい事していたけど今はきちんと普通になったよ。だから昔を掘り起こさないで』とな。

 俺の予想通り、そこで笑いが起こる。たまに空気読めない奴はそこでさらにツッコんで聞いてくるけど今回のメンツにそんな野暮な事を聞いてくる奴はいなかったようだ。

「おっけーおっけー!」
「本当かよ。」

 外見が似ているだけでやはり性格はあいつとは違うみたいだ。まぁ流石にそうだろう。性格まで同じなら俺そのまま連れ去ってる自信がある。

「よっしゃー!それじゃ全員揃ったしいくぜよー!」

 勢いよく手を振り上げた後藤が出発の狼煙を上げる。皆微笑しながら後藤の後に続き入場した。
 それからは出来るだけ千葉ちゃんと後藤を二人にするように気は使っていたが俺がそこまで気をつける必要は余り無かった様に思えた。ジェットコースターですら二人仲良く先陣切って行ってくれた位だ。その他女子2人はおしゃべりして俺置いてけぼりのぼっち確定して居るわけだ。

「俺、昼飯そろそろ買ってくるわ」
「おっけー。私らもう少し乗ってからにするね~」

そう言って、後藤と一緒に行ってしまった。ほんと息ぴったりね。俺特にやることねーじゃん。

「おろ、いいんですかい旦那ぁ、彼女さん連れて行かれましたっせ?」

 ひょっこりと横から顔を出す風見に驚く。

「彼女じゃねぇよ。とりあえず、良いんじゃねえの?なんかあの2人良い感じだし。2人きりの方がやりやすいんじゃの?」
「そうですかねぇ……まぁ良いですけど。それよりうちもおなか空きました。なんか買ってきて下さい。」

 それに合わせるかのように陽菜も話に割り込んできた。

「私も~、何でも良いよ~」
「なんで俺パシられないといけないんだよ。」
「えー、こういう場合は男子が買いに行くのが相場でしょ。」
「相場はあくまで相場。てが圧倒的に人手足りんからお前も来い」
「えー、何それ誘ってるの?久し振りに会話したからって1人で勘違い盛り上がりすぎじゃない?」
「誘ってねぇし、手が足りないって言っているだろ。そんな勘違いは中学校で卒業したわ、今は県内有数の進学校生徒だ。」
「出た出た、学歴自慢、高学歴によくいるよねー。あーうっとうしいったらありゃしない」
「お前高学歴に恨みでもあんの?」
「……うるさいなー。ほら行くよ!」

 そういえば陽菜とこんな馬鹿みたいな会話するのも久し振りだな。中学校1年の夏以来だ。あの頃は擬態する事を知らなかったからな。それさえ知っていればもっと中学校は良く振る舞えたのだろうが……まぁ、過ぎたことを今更考えてもしょうが無い。

 フードコートは昼前という事もあり、俺と同じ思考をした『混む前に昼を済ませておこう』という人で若干混雑していた。
少し列に並ぶ必要があった。

「ねぇ、三太。今更なんだけど滝川入ったんだ」
「そうだ。」
「聞いてないし。」
「言ってないし。」
「言えし。……ってか、卒業して以来姿見なかったけど、寮とか入ったの?」
「いや、実家から普通に通ってるけど」
「姿見ないけどなに?朝早いとか?」
「そうか?朝は確かに早いけど俺は毎週月曜日にお前目撃してるぜ?なんせ後ろから歩いてるからな」
「はぁ?」

 その語尾を上げる感じのイントネーションやめろイラッとくる。こいつ、1年以上気付いてなかったのか?馬鹿か?

「なんで声かけないの?馬鹿なの?」
「1年以上同じように通ってるのに気付かないかよ、お前後ろ振り返らないの?俺がいるんだよ?」
「そのネタわかんないし」
「ネタと分った時点でお前知ってるだろ。」
「……ふんっ」

少しだけ間があった、少し違和感を感じたがその違和感が陽菜から発せられる言葉と表情とイントネーションが物語っていた。

「…ねぇ、そろそろさ、皆と一緒にまた集まらない?また小学校の時みたいにさ!」

 いきなりの陽菜の問いかけに、スイッチが切り替わった。返す言葉は考える迄も無く出てきた。

「……なんで?」

 純粋な疑問だった。お前は中学1年で周りから奇特な目で見られ始めている俺をすぐ見限った筈だ。まぁそれならまだ良い方よな。逆にいじめる側に移った奴らだって居たからな。結論を言うとそんなこと出来るはずが無いだろう。

「逆に質問なんだが、お前は自分が窮地に追い込まれた時に即効で見限って逃げる奴、裏切った奴らとまた友達で居続ける事が出来るか?」
「っ……」

 返答が無いが俺は構わず続ける。こいつの考えている事は大体分る。大衆よく考えることだ。狡猾で無責任で非情なやり方だ。これ以上言ったら確実にこの日を楽しく過ごせなくなると言うものも分っている。しかし、言わずにはいられない。

「時間が経てば無かったことに出来ると思ったら大間違いだ。そんな無責任な考えで俺にそれ提案を話したのか?人を馬鹿にするのも大概にしろ。俺はまだ許してはいないし、さっきまでお前の見ていた俺はあくまで処世的なやりとりをしているのであって本心ははらわた煮えくり返ってるからな。」

 すこし威圧的に言葉を放った。陽菜はシュンと縮こまってしまった。これ以上何を言っても陽菜は何も返答しないだろう。そういう所変わらない、自分が悪くなると黙秘を続ける所。最悪は感情に任せ、気分が悪くなったからと途中で退散すら考えているはずだいや、きっと何も言わずに居なくなるだろう。

 『ご注文をどうぞ』と言う店員の声が聞こえてきた。丁度俺たちが注文する番になったらしい。適当に目に入った奴を3つと飲み物。絶賛デート中の2人が行列に並ぶ手間を省くためホットドックを頼む。

出てきた量は流石に1人では持てそうに無い。陽菜はもう居ないだろうからトレイでも用意してもらうかと思ったが横からホットドックと飲み物を取る手があった。

「陽菜……」
「手伝うって話だったから……」
「あ、あぁ、すまん、頼む。」

 正直驚いた。昔のいつものパターンだったら気を悪くしてさっさと席に戻るか帰るかしているはずなのだが……
 両者無言の気まずい空気のままテーブルに戻るとそんな事情を知ったことの無い輩が腹減った~とテーブルにうつぶせていた。

「こーら、渚ちゃん。顔テーブルに着けちゃうととばい菌入ってニキビ出来ちゃうよ。」

 何事も無かったかのように明るく陽菜が対応する。どうやら切り替えが出来ているようだ。俺もスイッチを切り替えよう。
 昔の陽菜とは違いちゃんと成長して居るんだなと自分の先ほどの決めつけるかの思考を反省した。

「俺は特に何も感じなかったのだが、女子的にはテーブル顔うつぶせはNGなのか?」
「当たり前でしょ!せっかく白くて綺麗なのにもったいないよー」 
「飯がキター!」

 ハッハッハと飯を待てされている犬かのような風見を少し引き気味でみて、とりあえずテーブルに置いてあるホットドック以外なら取って良いと付け加え選択は各自の自由と言うことにした。
 風見はすぐさまカツ丼をとった。男前な迅速チョイスに感心した。

「男前なチョイスだな。流石に感心したわ」
「だろ、惚れるなら今のうちだぜ!」

 親指を突き立てこちらに笑顔を振りまく姿に少しドキリとした。

「言ったな?今すぐキュンキュンするような言葉考えてやるよ」

 あのまま一緒に成長して居たらきっと俺も彼女にこの言葉を伝えたのだろう。そう思い少し息を吸い込む。

「出会ったときから世界一可愛いと思っていました。付き合って下さい」
「棒読み。っていうかその言葉自体が2世代くらい古いね!キュンキュンするとか実際口に出して恥ずかしくないの?自信過剰も大概だね!100年振られ続けた後に出直してきてね!」

 この俺の告白はその日の夜に思い返され、顔を枕に埋め、足をバタバタさせるのだった。

「俺の一世一代の告白になんてけち付けるんだよっ!」
「あれで一世一代とか……君の来世5代分からのブーイングが聞こえてくるよ」

 未来の俺からブーイング聞こえる時点で凄すぎる告白だろ。
 まさか鼻で笑われたあげく、軽蔑されたかの目で見られるとか、こいつどんだけ大物なんだよ。

「陽菜、俺の告白はそんな糞だったか?」
「うん、1000年の恋も一瞬で冷める勢いで酷かったよ。若干引いたし。」

 えっ、そんなに……俺の人生の大半を否定された位深く傷ついたわ。

「おーい!」

どうやら、お二方さんが戻ってきたみたいだ。

5人で昼食を取った後、ホワイトタイガーを見に動物園枠へ移動。
ニュースでやっていたホワイトタイガーの赤ちゃんの場所は混雑して居たが人数が5名いることで会話が弾みそこまで時間を気にすることが無かった。

「やーん、かわいいー!」
「アレ見て!アレ見て!おなか出してごろごろしてる~かわいいぃ!」
「肉球舐めてる!ぷにぷにしたいー!」

 女子テンショントップ高で男子置いてけぼりのこの状況。
 後藤と共に苦笑いである。ホワイトタイガーの両親もハイテンション3人組にどん引きで近寄ろうとしない。

「ちょっと!三太何してんのほらカメラ撮って!撮って!」
「ごっちゃんもよろしくっ!」

 こうして男2人はカメラマンとして動物園では動く事になった。まさかメモリカードいっぱいになるまで撮る羽目になるとは思わなかった。何こいつら、アイドル目指してんの?千葉ちゃん以外胸囲足んねぇよ。乳酸菌補充しとけよ?

 楽しい時は過ぎ、夕日が落ちる黄昏時、一通り遊び尽くした。最後の締めは決まってこいつだ。
 「観覧車かぁー」

 そういやこういう所の観覧車に限って良く一緒に乗る男女が別れるで有名だったりするが、ここもその類いでは無いことを祈ろう。

「そんじゃどないな構成で乗るん?」
「俺は久し振りに陽菜と喋りたいのと、あと風見さんともう少し交流深めたいからわがまま言っても良いかね?」
「あずまちゃん欲張りやな~、仕方が無いか!今日は譲ったるけ!」
 そう言いながら後藤は先に千葉ちゃんと一緒に乗り込んで行った
 風見・陽菜から怪訝そうな目で見られたが、まぁここは協力して欲しいと言うことで観覧車の中で話をする事にしよう。

「……さっきのよく分らない口説き文句について詳細を伺いたいのですが」
「まぁ、そっからだよな。」

 俺は2人に自身の部活の事は避け依頼の経緯のみを話した、とりあえずは理解は得られた。

「……~ふぅ、東さん、あなたもお人好しですね。わざわざそんな面倒くさい事を依頼されるなんて。」
「ふーん、千葉ちゃんってごっちゃんタイプだったんだ~。てっきり……」

 陽菜はてっきりの後を口ごもった。
 なんだよ?言ってみ?予想通りだったら俺テンション上がって声色半音上がるから。

「……まぁいっか」

 くそぉ!察しやがったな。

「さて、事情は聞いてまぁ、理解は出来ましたよ。大変なお仕事で御座いまして」
「そうか、分ってくれたか。」
「仕方ないですねぇ。じゃぁなんか面白い話して下さいよ」
「いきなり、無茶ぶりかよ。……まぁ確かに深く交流っていったけどな」
「ではでは、あの中2病の内容って言うのを」
「……はぁ、お前も大概だな。恥ずかしいから余り喋りたくないんだが。そもそもなんでそんなの知りたがる?」
「言ったじゃないですか?私は同人活動してるんです。自作で漫画作って売ってるんですよ?しかし、現状ネタに餓えてて例え中二病のネタにしろ1つ2つくらい参考に出来る所はあるかと。」
「はいはい、分ったよ。身悶えても知らないからな。」
「大概の物でない限り身もだえはしないからだよ。」
「分かった」
「っで?どんな設定なんすか?」
「設定なんてねぇよ。とりあえず話すからその経緯から設定を勝手に生み出しやがれ」

 俺は少し思考を巡らせる。どこからを話した方が良いか考える。
 正直この話は久し振りにするな、と言うかこいつがこの外見で無ければ話す気も起きなかっただろう。
 あれは、小学3年生の初夏だ。丁度親から自分専用の部屋をもらえた時だ。いきなり押入れから女の子が出てきた。どこから来たのかと言ったら押入れの中に通路が広がっていてそこから来たらしい。これが俺と女の子の出会いと空の大陸エルゴパスクと俺の部屋が何故か繋がった時だった。

「ちょっと待って下さい。設定がベタすぎません?22世紀のネコ型ロボットですか!」
「まぁ、確かに傍から見ればベタだろうな。話している俺でもそう思うわ。ちなみにその女の子の名前はフィエスタ、お前にそっくりだったわ。外見的な意味で」
 ぱちくりと風見はぽかんと口をあけていた。
「そ、そうなんだ。す、凄い偶然だね。」
「お前、明らかに『あんた今設定考えたでしょ……キモッ』的な顔してるんだが、本当だからな」
「渚とそっくりって……それ、初めて聞いた。」

 陽菜が少し目を細めこちらを見る。私の友達をネタに使いやがってと言いたげな表情だ。

「視覚情報を正確に伝えるにはかなり語彙力が試されんのよ。まぁいいや話し続けるぞ」

 それから俺は空の大陸での冒険、出会い、生活について語った。久し振りにこの話が出来ると思い少しテンションが上がっていたのは間違いない、気付けば観覧車の3分の2は過ぎていた。太陽は既に落ちて辺りを照らすのは遊園地の人工的な光が辺りを照らしていた。

「まぁ、空の大陸自体で俺の記憶にあるのはそれくらいだ。」
「……これ1人で考えたんですか?」
「だから実体験だ。」
「……非現実的すぎます。お話としての完成度は高いですけどね。東さんシナリオライターとか向いてますよ。」
「はぁ、そりゃどうも」
「……それに、このフィエスタって娘!最初はどんな萌え萌え設定で来るかと思いきや意外と受け入れやすいキャラして居たからなんか好感持てるね!それにうちと似てるって言うのはうち的にはポイント高いですよ?好感度急上昇中ですよ?」
「そりゃどうも。あと、良いことを教えてやろう。隣見てみ」
「ん?……っ!!」

 この話をすると必ず陽菜は機嫌が悪くなる。それは今も変わらないみたいだ。と言うか不機嫌の凄みが増しているから余計この話をしたくなくなった訳だ。……まぁよく考えれば陽菜的には報われない話だからな。この話で登場するのは俺だけじゃ無い、陽菜も、木下も芦辺も広津だって出てくる。その中で陽菜は俺に『将来お嫁さんになるー』と言いながら当の主人公である俺はフィエスタと一緒に出かけてばっかりだ。陽菜はモブ子1みたいな扱いで留まってしまっている。まぁ確かに自身の話で無くても名前を貸りて出てきたキャラクターが余り活躍しない話を聞くというのは貸した側からすると不機嫌になるだろう。
 そして、好感度急上昇したばかりの風見さんはと言うと、陽菜の腐った汚物を見るかのような表情を直視しないように必死に目をそらしていた。その光景をみながら残りの観覧車を満喫した。話を振ってきたのは俺じゃ無い。風見が悪い。

 観覧車を降りると丁度千葉ちゃんと、ごっちゃんが手を振って待っていた。変わっているのは二人が手を繋いでいる所だ。

「どうやら、成功したみたいだな。めでたく爆発しろ」
「うっひゃー!ふたりとももしかして-?もしかして?」
「きゃーおめでと!」

 それからは2人をちゃかし一通り熱が冷めた後、もう少し2人で話したいからと言うことでその場で解散となった。
 風見は帰りの電車の途中駅で乗り換えがあるらしく、『またね!』と言葉を残し車両を後にした。残ったのは陽菜と俺だ。

 一息つく。依頼は無事達成。千葉ちゃんは彼氏持ち。俺の中で終わったという達成感と千葉ちゃんが彼氏出来てしまったという喪失感が渦巻いていた。そこまで私的感情は持っていなかったと思っていたのだが結構情を入れてしまっていたのだなと彼氏がいなかった頃の千葉ちゃんを思い出す。……やべっ涙出てくるから布団の中でやろう。

 すこし、気まずそうに陽菜が口を開く

「……ねぇ、お昼の話の続きなんだけど…」

 どうやら、もう少し気を詰める話題が残っていたみたいだ。

「……駅ついてからで良いか?ここでそんな話するのもなんだろ」

 俺たちは地元の駅に着くと構内にあるハーブティーの店で腰を落ち着けた。
 対面で座る円テーブルに色鮮やかな青を際立たせたロングタンブラーの中に入っている氷が溶けカランと音をたてた。それが開始の合図かと思い俺は口を開く。

「先に言っておくな、確かに許してもいないしはらわた煮えくり返るって言ったが、それはお前以外の連中に対してだ。
お前はあの時何もしなかったし何もしようとしなかった。それはそれで若干ではあるが怒っている。だが、今回俺がお前に怒っているのはそれを無かった事にしようとした事だ。」
「……だよね。ゴメン、自分の都合の良いことばかり考えてた。」
「あぁ、そうだな。何もせずに解決する事なんてどうでも良いこと以外ないんだ。」
「ごめん…なさい」

 陽菜は既に半泣き状態だ。開始5分足らずでこれってこいつどんだけ豆腐メンタルなんだよ……と言いたい所だが、昔から引っ込み思案の陽菜が最後まで自分で行動して謝るをやりきるというの今まで無かった事だ。大体、宏治や木下がフォローしていた。今回、陽菜も勇気を出したのだろう。そこは褒めてやる所なのだろう。
 俺的には、『何もしてないならなんも責任無いじゃん器の小さい男ね!』つってハーブティーぶっかける位の度胸はつけて欲しいわ。

「親しき中にも礼儀ありだ。無礼をした責任はしっかりと取ってもらうぞ」
「うん……」
「そんじゃ、明日デザイア行くからな。予定空けておくように」
「うん……うん?」

 どうやら陽菜は急な展開でついて行けてない様だ。さっきの顔すっげーアホ面だったわ。写メ撮れば良かった。

「みたい映画あるんだよ…明日カップルデーで安くなるだろ。1年ぶりに少し遊びに付き合えよ。それで今回はチャラだ」

 俺も俺で後付けみたいな言い訳が酷すぎるな。慣れないことはするもんじゃないな。

「うんっ!」

 まぁ…この満面の笑みで頷かれたらどうでも良くなったわ、今更だけど、明日の映画ジャンルがスプラッターって言ったら怒るかな?

 ハーブティーの氷がまたカランと音を立てた。どうやら終了のゴングのようだ。
 互いの心境を表したかのように鮮明な青のハーブティーは淡いピンクへと色を変えていた。
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