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隣の席の魔法使い 作者:橘アカシ
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後ろから全力で見守ります!②

 
 
「いいかい、皆。これはチャンスだ。間違っても篠宮くんは敵ではない。そこは胆に命じておくように」
 そう言っていつになく興奮気味に語るのは我らが同士優木瑞穂くん。見上げるように背の高い優木くんはしっぽがあったならぶんぶんと振り回していることでしょう。



 私たちは今一つの空き教室に十数人で集まっています。端から見ればとっても怪しい集団ですが本人たちはいたって真剣です。
「しかし相手はあの悪名高き篠宮そう介ですよ?彼を近づけるなんて危険ではないですか?」
 盛り上がる優木くんをいさめるように一人の同士が懸念を表示します。それはもっともなことでした。普通なら不良である篠宮くんを友達になんてとてもじゃないですがおすすめできません。
「確かにそうだ。でもよく考えてみてくれ。あの一ノ瀬さんが始めて他人に興味を持ったんだ。君たちも目撃しているのだろう?一ノ瀬さんが篠宮くんを追いかけている姿を。それに一ノ瀬さんがただの不良に興味を持つなんて思えないんだ」
「それは……そうですが」
 意外と冷静な発言に誰も否を言えません。優木くんは一同を見回して更に言葉を重ねます。
「僕らは一ノ瀬さんのファンじゃないし彼女の行動を制限する資格なんてない。いや、そんなものは誰も持ち得ないんだ。ここに集まっているのは一ノ瀬さんと友達になりたい者たちだろう?ならば彼女の背中を押すべきだ。例え相手が篠宮くんでも」
 黙す一同。
 そう私たちは一ノ瀬さんと友達になりたい人の集まりです。友達になるのに括りなんて必要ない。だからファンクラブのように名前はないけれど一ノ瀬さんと関わっていたい支えたいと思っている人たちが集まっています。
 本来ならばこんな風に群れずに、真摯に彼女と向き合うべきでしょう。けれど個人で挑むには一ノ瀬さんはあまりにも遠く、友情以前にお近づきになるにも幾つものハードルが待ち構えているのです。
 だからこそこうして様々な理由から一ノ瀬さんと仲良くなりたい同士で集まり、試行錯誤しながら友情への道を模索しています。
 かくいう私もその一人で神妙に優木くんの語る言葉を聞いていました。
 ただの集まりだから上も下もありません。ですが自然と優木くんを中心に物事を進める傾向にあります。
 何を隠そう優木くんだって男女を問わずモテるのです。
 高い背と甘いルックス。成績優秀でスポーツ万能となれば女子がほっとくはずありません。それに加えたカリスマ性は男女とわず引き付けます。そんな彼がこの場を仕切るのも無理はありません。

「それに僕は篠宮くんが見た目通りの人とは思えないんだ」
「どういうことですか?」
「僕は彼が人を傷つけた所を見たことがない。確かに人を睨んだり乱暴な言葉遣いをしたりするけどそれが猫の威嚇にしか見えないんだ。だから僕は彼と話してみようと思う」
 教室がにわかに喧騒に包まれました。だってあの篠宮くんと会話ですよ!なにが起こるか分かったものじゃありません。
 すかさず誰かが異を唱えます。しかし優木くんの中では決意が固まっているようでした。
「僕は一ノ瀬さんに友達を作って欲しい。だからこそ篠宮くんとの仲も応援したい。最初の友達が僕らであったならそれ以上に嬉しいことはないけれど、現状僕らでは言葉を交わすことさえ困難だ。僕は今回のことはひとつのチャンスだと思っているんだ。彼に一ノ瀬さんのことをお願いする。ただの自己満足かもしれないけれど篠宮くんが一ノ瀬さんの友人に足り得るか僕自身の目でも確かめたいんだ。僕は行くよ。君たちの賛同を得られなくても、たとえ一人でも」
 そう言って決然と笑う優木くんに後光がさしてるようでした。彼の言葉に心動かされないものはいません。
 俺も行きます!私も!という声があちこちであがります。もちろん私も同意しましたよ。
「みんな、ありがとう。よし決行は明日の朝だ。彼が登校してきた所を狙う。場所は二年下駄箱。今日は早いけど解散にしよう。みんな!鋭気を養ってくれ!」
 その目に浮かぶ涙は見間違いではないと思います。皆さんの士気の高さに感化され私も力一杯やるぞーと叫びました。

 後日、空き教室から謎の雄叫びが聞こえたと若干ホラーテイストで噂になったのは秘密です。





 こんなに間近で見たのは今日が始めてです。同じクラスでもいつも遠巻きに見ていた私は恐怖に膝が笑うのを必死に抑えています。

 宣言通り私たちは篠宮くんを囲っています。優木くんが一歩出ているためその後ろからという形になりますがそれでも十分恐いです。
 いつ見てもプリン頭になることなく綺麗な金髪は度重なる脱色のせいでもとから色が抜けてしまったのでしょうか。何度もカラーリングしてる篠宮くんはなんとなく笑えます。そんな想像で気を紛らわしていると優木くんが第一声を放ちました。
 若干声は上擦ってますが話しかけたこと自体快挙です。誰かが勇者だ!と言ってますが激しく同意します。
「一ノ瀬さんと友達になってくれないか?」
「断る!」
 すげなく一蹴されてしまいました。ですよね。一匹狼の不良である篠宮くんが喜んでとか言いませんよね。
 それからしばらくコミカルな言い合いが続きます。あれ、意外と付き合いいい?と思ったのもつかの間篠宮くんは立ち去ろうとします。打ち合わせ通り逃げられないように隙間を詰めます。大分頑張ったと思いますが殺気なるものを向けられればひと溜まりもありません。篠宮くんは空いた隙間を素早く抜けていってしまいました。
「……ちょっとやり過ぎたかな」
 今さら反省しても遅いですよ。優木くん恐怖のあまりおかしなテンションになってなんだか振り切ってました。
 けれど、収穫はありました。私たちの中である疑念が浮かびあがります。信じがたいことですが優木くんの言っていたことは間違いではなかったのかもしれません。
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