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執着
「あー、喉痛え…。」
午前4時。昨日俺たちは制服姿でオールしてもなにも言われないようなユルいカラオケ屋で一夜を明かした。
三島が食ってばかりなので、実質俺とミヨで競うように歌った格好だ。
帰り道に警察官に補導されかかり、走り疲れた足を引きずり、俺は玄関のドアを開けた。
玄関に妹の靴はない。
夜遊びから帰っていないのか。
俺は、手を洗おうと洗面所に歩を進めたー。
「よーしの、お帰り。」
背中にかけられた声に、ざわりと悪寒が走った。
振り向くとそこには、髪に金色のメッシュを入れた、俺と似た顔の少女が立っている。
なんとも幸せそうな笑みを浮かべて。
「…流乃、帰ってたのか。」
コイツ、靴を隠してやがったな。
「うん。ヨシノは今日随分遅かったんだね。」
お前がいるなら帰ってこなかったけどな。
「そういうお前は、お友達の家にお泊まりはもういいのか?」
この2つ下の妹は、夜遊びに明け暮れたり、友人の家を転々としていて、最近家に帰ってきていなかった。
「うん、ヨシノに会いたくて。」
「……ソーデスカ。」
「なんか作ろうか?」
「食ってきた。」
「じゃあ、コーヒーいれてあげる。」
流乃は微笑みを絶やさぬまま、キッチンに消えていった。
壱村流乃。
現在中学二年生。陸上で全国大会にいくほどの実力者で、コイツの生活は基本夜遊びか走り込みに費やされている。
見た目や雰囲気は不良っぽいが、普段は大人しくて無口である。
しかし、一度逆鱗に触れると……。
「てめえ皿も洗ってねぇのかよ!役立たずが!」
出勤のために父が起きていたのか。
流乃の怒号と、何かを殴るような音がキッチンから聞こえた。
相変わらず気が短いやつだ。
俺は、ぎゃんぎゃんと騒いでいる彼女の声を背に、洗面所に入った。
まだ日が出てきたばかりなのに、空気は湿気を孕んで、じわりとした暑さを伝えてくる。手を流れていく水が心地よく感じた。
鏡をみれば、数ヶ月前に金色に染めた髪は見事なプリン頭で、いささか不格好である。
「髪、今度染めてあげるね。」
ぬ、と鏡の中で流乃が俺の後ろに立った。
手には白いコーヒーカップ。
「アイツ、氷も作ってなかったんだよ
?やんなっちゃうよね。」
今日も随分ヒートアップようで、玄関から靴を履く音に混じって呻き声が聞こえてきた。
人の顔に拳を叩き込むのは、女の子としてどうかと思うぞ。
「ほら、実習でクッキーが残ってるんだよ。ヨシノに食べてほしいな。」
鏡の中の流乃は笑う。
本人曰く、俺にだけ見せるというその笑顔はとても明るく、そして気持ちが悪い。
ここ数年、流乃という人間が分からない。
鏡の中にいるのは、妹の形をしたなにか別のものに思えて仕方ない。
「ねえ、ヨシノー早くー。」
苛立つ訳でもない、純粋な疑問の声。
振り返って彼女を見たが、その真意をつかむことは出来なかった。
ー流乃、俺はお前のことが……。
こわい
妹登場!
彼女はすごく気持ち悪い雰囲気を漂わせるように頑張りました。
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