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ひとりめ
どこかの国で、爆発事故があったらしい。
子供や妊婦を含めて、50人以上が死んだようだ。能面のような顔をしたアナウンサーが無機質な声で伝える
その声色は、散歩中のドーベルマンが通行人に噛み付いたことを伝えたときと同じに思えた。
苦いコーヒーを一口すすって再び顔を上げれば、
すでにニュースは切り替わって、芸能人の結婚を明るい口調で伝えていた。
この瞬間、アナウンサーはもう、さっきの事故のニュースなんて忘れているのだろう。
いや、初めから気にとめていないのか。
世界には70億人も人がいるんだ。自分の知らないところで知らない誰かが死んだって、きっとすぐ忘れてしまう。
だからきっと、今ここで俺が消えてしまったとしても、誰も気付かないんだろう。
「はぁ…」
俺はため息をついて、空になった食器をシンクに運んだ。洗い桶にはもう、三人分の食器が沈んでいる
妹と両親はもう出掛けたようだ。
この家は、いわゆる“家庭崩壊“をしている。
妹が不幸自慢のようなノリで楽しそうに話していた
もとは過保護な両親であったが、一年前、髪に金のメッシュを入れてきた妹を叱りとばしたとき、キレた彼女が陸上のスパイクで彼らの全身に赤い花をさかせて以来、一切俺たち兄妹に干渉しなくなった。
大人しい妹が急に怒り狂いだしたので、興奮剤でもキメてきたのかと心配になったものだ。
さぁ、そろそろ学校に行かないと。今月あと一回遅刻をしたら、奉仕作業の刑が待っている。
俺はスカスカの鞄を肩に掛けた。
学校までは、徒歩10分。中学は学区のギリギリにかかってしまった距離だったので、自転車で40分の道のりだった。
玄関を出て、愛用のヘッドホンを耳にはめれば、妹に入れられた彼女が好きな歌手の曲が流れる。
9月の日差しはまだ暑く、黒いヘッドホンをジリジリと焦がしてきた。
大通りに出ると、目的地を同じとする学生たちが、暑さでバテたダラダラとした足取りで歩いていた。この時間なら、遅刻にはならないだろう。
校門が見えてきたとき、頭に響く怒鳴り声が聞こえた。
あぁ、アイツ今朝もいるのか。
毎朝毎朝飽きもせず口やかましい生徒指導の体育教師は、その厳しさとやかましさから生徒に警察と呼ばれている。しつこく教室に来たり放送で呼び出されながら抵抗したが、結局反省文を書かされたことは忘れない。
「壱村慶野、その髪はなんだ!」
妹に金色に改造された上、最近は放置している俺のプリン頭を見て、いつものようにマッポが怒鳴った
「うっせぇんだよクソジジィ!」
俺は一気に走り出した。 いくら体育教師とはいえ、50過ぎのオヤジに走力で負ける気はない。案の定追いかけてくるマッポの横をすり抜けて、昇降口を目指した。
悲しいことに、一年生は三階に昇降口があるのでそこまで階段を駆け上がらなければいけない。
三階まで到達して振り返ると、マッポはバテたのか、二階の辺りで止まっていた。
どうせあとで呼び出されるだろう。面倒臭い。
俺は踵を返して昇降口に入りながら、小さく笑った。
窓ガラスを見れば、姿が映る。
マッポはいつも通り追いかけてきた。
俺は、今日もちゃんとここに存在している。
ストックがあるので最初の方はサクサク更新出来ると思われ。陰気くさい主人公ですが、頑張っていきます。
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