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桜坂高校の楼火くんっ! 作者:moro
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第三十八話 かすみんの授業は受けてみたいよね。

/(^o^)\
 ――ゴールデンウィークは、あっという間に過ぎてしまった。
 初めの日に買い物に出かけてからというものの、特に変わった出来事にも遭わず、至極平和に過ごすことが出来た。休日中はテレビを見たり奈々と遊んだり、エロ本読んだり奈々と遊んだり、映画をみたり奈々と遊んだり――まあ、有意義とはいえないかもしれないが、相当ゆっくりできたからよしとしよう。
 ただ、服を買えなかったからという理由で、散々奈々に買い物に付き合わされた日が一日だけあったが……そのときほど、足が棒になるという比喩を体言した日はなかったな。帰りの自転車二人乗りのときにもなると、もう足が折れるかと思った。
 まあそれはそれとして、基本的に連日ダラダラと過ごしてきた俺は、休み明けの数日もその気だるさが抜けずにダラダラと過ごした。
 今日も今日とて俺はダラダラと学校に登校して、かすみんが担当している四限目の数学を、船を漕ぎながら受けているのだった。

「ここが、こうなって――っと。はーい、じゃあここの計算を――あー! 春日井君! まさか寝てないでしょうねー? 前に出て、いまの答えを黒板に書いてみてくださーいっ」
「んあ? …………あー、俺わからないから、かすみん代わりに答えていいぞ。特別に」
「えーそうですかーじゃあお言葉に甘えて――って違うでしょー!?」
「ナイスノリツッコミだ、かすみん」

 どっと教室内が沸く。
 寝起きのぼうっとした頭で適当に言ったら、かすみんが律儀にもノリツッコミを入れてきた。いや、この場合、今のが素の反応だったかもしれないが。
 だいたいですねー春日井君、授業中に寝るということは――と、かすみんの例の長々しい説教が始まった。
 一度始まるとなかなか止まらず、授業が終わるまで続くのはもう周知の事実。授業が短くなるのは万々歳なのだが……その説教の対象が自分ともなれば話は別である。
 基本的に俺に向けて話をしてるもんだから、かすみんの美声をBGMにした睡眠がしにくくなってしまう。
 それは耐えられないと思い、かすみんの言う通り答えを書く事にした。かすみんの説教が教室に響く中、俺は席を離れて黒板に向かう。
 かすみんが出した問題はわりと簡単なものだったので、成績が良くも悪くも無いという中途半端な俺の頭脳でも、すらすらと解くことができた。

「……なのであって、ですから――って、あれ? 春日井君、問題解けてるじゃないですか。正解ですー」
「失礼な。これくらいの問題だったら、流石の俺でも簡単に解ける。俺は寝てないし、それ以前に誰もわからないとは言ってないぞ」
「あ、そ、そうだったんですかー。それはごめんなさいですー。……あれ? でも最初にわからないって言ってたような……」
「言ってない言ってない。ほら、もう授業終わるぞ。宿題言ったり、まとめたりしなくていいのか?」
「あーっ! もうこんな時間です! は、早く終わらせないと! ほら春日井君も席に戻って!」

 かすみんに背中を押されるように席に着くと、一つ左の席に居る、四法院姫奈が声を掛けてきた。

「楼火さん、今寝てましたよね?」

 口を手に当て、クスクスと声を抑えて控えめに笑う。そういう一つ一つの動作に品を感じさせ、改めてコイツはいいとこのお嬢様様なんだなと思った。

「まあ、こう過ごしやすい気温だとな……。誰でも眠くなるだろ」

 俺はそう言って、後ろの席と右横の席を親指で指す。
 そこには、机にべったりと張り付いて仲良く爆睡している人物が約二名ほど。緋向美咲と藤崎智也だ。
 こいつらはむしろ、授業中に寝てない時がないんじゃないかと思わせるほどだ。睡魔が襲ってきたら、戦わずしてひれ伏しているのだろう。

「何しに学校に来てるんだ、こいつらは」

 ……俺も人の事を言えた義理じゃあないが。
 と、そんなことをしているうちに、授業の終わりのチャイムが鳴り響いた。今は四限だから、次は昼食を兼ねた昼休みだ。

「はーい、じゃあ終わりますよー。委員長さん、号令をおねがいしまーす」

 かすみんのいつものように甘ったるい声を聞いて、委員長がそれに従う。
 号令が終わると教室内が騒がしくなり、クラスの皆はそれぞれの行動をする。その場で昼食の弁当を取り出す者。弁当を持ってどこか別のところへ行く者。連れ立って食堂へ行く者や、遊ぶために勢いよく外に飛び出して行く者。
 そんな中、俺の右横に居る智也は何食わぬ顔をして自分の机をガリガリと引きずり、俺の机と合体させて自分の弁当を取り出した。さっきまで爆睡していたというのに、メシの時間となったら早い変わり身である。

「しっかし、かすみんの説教は長いよなー。あまりにも長くて思わず寝ちまったぜ」
「お前は万年寝てるだろうが」
「そうだっけ?」
「…………」

 智也は時々、素なのかボケなのか非常にわかりにくいことを言ってくるから困る。本気で頭が可哀相なことになっているのかもしれない。

「え、なにその底辺の生物を見るような目」

 なんだこいつ自覚してんのか。

「そうよー。大体アンタは元が頭悪いんだから、授業ぐらいちゃんと聞かないと大変なことになるわよ」

 美咲の、とんでもなくツッコミどころ満載の発言が、俺の左から聞こえてくる。美咲も智也と同様に、姫奈の席に机をくっつけて弁当を広げていた。傍にいる姫奈も今の発言には苦笑している。

「うるせえ。お前も頭悪いだろうが、ていうかむしろお前のほうが成績悪いだろうが!!」
「うっさいわね! そうよアタシのほうが悪いわよ! だから何!? 少なくともアンタよりは頭いいわよ!!」
「意味不明過ぎるぞ!?」
「アンタがバカだからわかんないのよ! バーカ! バーカ!」
「て、てめえがアホだからだろ! アーホ! アーホ!」

 俺を真ん中に挟んで罵声を飛ばしあう、小学生の男女が二人。
 ダメだこいつら……早く何とかしないと……。

「まあまあ。落ち着くんだ、美咲先パイに智也先パイ。ここは一つ、どちらも究極に馬鹿ということでいいじゃないか」
「「よくないけど!?」」
「あれ? お前いつの間に来たんだ?」

 二人の仲裁に入ろうとしたのは、長身が目立つ夜叉小路春奈。さっきまでは居なかったはずなのに、俺が振り向くといつの間にか姫奈の傍に控えていた。両手を胸の前で組んでふんぞり返っている。

「私は姫奈嬢と人生を共にする義務がある。だから授業が終わったら、私の全運動能力を使ってここまで高速で走ってきたのだ」
「高速って……まだ二分も経ってないぞ。四階のここまでどうやって来たんだ」
「ちなみに私は楼火先パイが居眠りしているのを覗き見ていた。楼火先パイともあろう方が、だらしがないぞ!」
「あ、ああすまん――ってそれ授業終わってなくね!?」
「いやいや、私のクラスの授業は少し早く終わったのだ」

 ああなんだ、そういうこと……いや、ホントか? まさかサボリじゃあないよな?

「さて、二人とも。どんな理由があろうとも、ケンカは良くないぞ。それが公共の場なら尚更だ」
「だって智也が!」
「だって緋向が!」

 お互いを指差す美咲と智也。発言やら行動やら、もうなにもかもが小学生チックである。
 春奈は何度か首を横に振り、二人を諭すような声色で言い始めた。

「いいか二人とも、『馬鹿と天才は紙一重』という言葉を聞いたとこがあるか? 私は今、先パイ方のことを究極の馬鹿と言った。それをこの格言に代入してみよう。するとどうだ、『究極の馬鹿と究極の天才は紙一重』となるではないか! なんということだろう! 先パイ方は究極の天才と紙一枚分しか違わないのだ! 凄い! 凄すぎるぞ! 流石は先パイ方だ! 先パイ方は究極の天才に限りなく近い人間なのだ!」
「え、そ、そう……?」

 春奈の意味不明な言葉に、最後の言葉だけ聞いて照れながらもまんざらでもない様子の美咲と智也。
 こいつらホントどうしようもねえ。

「もう、春奈ちゃんったら……」

 春奈の行動に、姫奈が恥ずかしそうに頬を染める。君主として見ていられなかったかもしれない。一人でも常識人が居てホッとした。

「なあ姫奈。智也と美咲が究極に馬鹿ってことはわかったんだが、春奈はどうなんだ? アイツ成績は良いのか?」

 春奈が智也たちを洗脳している間、俺は振り向いて姫奈に聞く。前から少々気になっていたことではある。
 智也と美咲の成績は言わずもがなだが、姫奈はなかなかに頭がよい。クラスでもかなり上位のほうだ。だからそんな人物に付き添っている春奈も頭が良いのかと変な偏見を持っていたりするのだが……。

「えと、あの……残念ながら、春奈ちゃんは、その……」

 姫奈はとても言いにくそうに、目を逸らして言った。

「なんだ、アイツも馬鹿なのか。人の事言えないじゃないか」
「いえ、春奈ちゃんは決して馬鹿ではありません。頭は良いのですが、その、『自分は姫奈嬢を守ることが出来ればそれでいい』と言って、留年しないよう、赤点にならない程度の最低限の勉強しかしないんです。……だから成績は悪いんです」

 ……なるほど、それは春奈らしい考え方かもしれんな。それが正しいかは別として、確かに、姫奈を守るために学問は必要ない。
 要領が良いというか、なんというか……。

「――というわけだ。よって、私などは到底たどり着けないほどに、先パイ方二人は天才なのだ!!」
「す、すげええええええ!!」

 春奈の洗脳が完了したらしい。智也と美咲の二人は爛々と目を輝かせ、春奈に向かってバンザイをしていた。
 もうため息しか出ない。俺は二人を放置して弁当に手を付けた。




 食事を終えて皆で雑談をしていると、正気に戻った智也がこんな話を切り出してきた。

「明後日母の日だけど、お前らなんかする?」

 ……母の日?

「もちろんアタシはちゃんとするわよ。いつも仕事と家事をいっぱいやって大変そうだし、母の日くらいは何かしてあげたいわよね」
「うむ。私は日頃お母様には会えていないから、顔出しも兼ねてカーネーションを手渡そうと思っている」
「私も毎年、手作りのお菓子をプレゼントしています。手作りってところが良いらしくて、いつも喜んでくれますよ」

 各々がそんなの当たり前よと言わんばかりに答える。智也も、そうだよなあと言って、

「今年は何にするか決めてないんだよ」

 うーんと少し悩む仕草を見せる。女性三人組はともかく、この金髪プリンが母の日になにかするなど思ってもいなかった。激しく意外である。
 いや、そんなことより。

「明後日が母の日だと……?」

 明後日が母の日だとおおおおおおおおおおおお!?
 すっかり忘れていた! 毎年の事とはいえ、こうもダラダラした日が続いていて呆けていたのかもしれない。なんということだ。なんということだ!

(ど、どうしよう……)

 今までは、こいつらのように普通にやり過ごしてきた。カーネーションをあげたり奈々と一緒に料理を作ったり……。
 しかし去年の母の日、来年は料理を手伝うという手段は使わないと誓ったのだ!
 奈々に、俺の料理の失敗をからかわれて以来、誓ったのだ……ッ!!
 かといって、何もしないというのは選択肢に入れたくない。日頃世話になっているのだし、なにより何もしなかった場合の母さんの態度が怖い。毎年行ってきた行事なだけに、やらなかったときの反応は未知数だ。
 だから今年は、何かを買ってプレゼントしたいのだが、……しかし、そこには一つ問題が。

「どうしました、楼火さん?」

 どうしたものかと俺が頭を抱えていると、姫奈が心配そうに顔を覗き込んできた。

「……いや、実は俺も何も用意してなくてな。何か買おうと思ったんだが……今ちょっと金がないんだ。それで困ってた」
「はあ、お金ですか……」

 お金がない理由? そんなの奈々に散々搾り取られたからにきまってんだろ。

「でもそういうのは気持ちの問題ですから、たとえ小額のものでもきっと喜んでもらえると思いますよ」
「うーん……」

 俺に気を遣ってか、姫奈は優しく微笑んで言った。
 ふむ、それはそうかもしれないが……そうすると何かこう、釈然としないものがある。
 それに、俺の手持ちは今数百円まで減ってしまっているのだ。最近の小学一年生程度の所持金で、これ以上さらに減らせというのか。

「ふははは! お困りのようだな楼火先パイ!!」

 俺が再び迷っていると、春奈がB級ヒーローショーの主役のような掛け声で、変なポーズをとって言った。流石春奈。意味不明である。

「ああ、見ての通り困ってる」
「そうだろうそうだろう! よし、私が楼火先パイの悩みを当ててみよう。ずばりお金が足りないのだな!?」
「お前は今まで何の話を聞いていた」
「やはりそうか!」

 聞いちゃいねえ。

「しかしそれならいい話があるぞ、楼火先パイ!!」
「……いい話?」


 ――金銭がないという焦燥心の所為か、妹より良いものをあげたいという対抗心の所為か、はたまた母への恐怖心の所為か。
 このときの俺は、春奈の不敵な笑みを見破ることが出来ないでいた――――
お久しぶりですシゲアキです。そして世界は平和です。

やっと書けた。ほぼ一月ぶりだぜ。誰だ二週間あったらスランプ治るとか言ったやつ!全然じゃないか!

すみません。次もいつになるかわかんないです。安定するまでしばらく我慢していただけると嬉しいです。
ほんじゃまた。

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