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穏やかな春
春、シエル伯爵領では冬の間に他国からかき集めた食糧が港から輸出されていた。
この星では、基本的に夏から秋にかけて収穫するので、春が一番食糧不足なのだ。
難民は次から次へとやってきたが、エドワードの嫌がらせはその程度で、直接的な行動には何故かでない。
やはりいくらエドワードが暴君でも、自分の姪を敵に回す訳にはいかないのだろうか?
「そこのゴーレム。遊んでないで仕事しろ」
シエルは香坂銀山で、仕事に熱中していた。
「ゴーレムに怒ってもしょうがないんじゃないか?」
難民から募集した義勇兵3万人に夜盗狩りの副業をさせながら、シエルは仕事をしている。
住民にする余裕はないので、追い払うだけだ。
賞金が他国の領主からでる事があるので、仕事といえば仕事である。
ところでこの香坂銀山はそれなりに有望で、月12万ディルスの収入をリサにもたらしていた。
シエルの取り分は2万ディルスである。
「これなら真一の水着ショップから上がる税収の方がはるかに有望ね」
商売上手の真一は、ギルドの商業権を首尾良く手に入れ、水着ショップの支店をシエル伯爵領の都と都市に8店舗出店していた。
普通の古着も安いので大繁盛している。
真一からの献上品は月額50万ディルスを越えていた。
後は水着写真の収入が300万ディルスほど。
最近は領内の人気をリサと争うシエルの水着写真も登場してこの商売は大繁盛していた。
「闇の水着写真売買がこれほど儲かるとは思いませんでしたね」
真一がしみじみと言った。
故郷でこんな商売したら、ブタ箱行き間違えなしだな。
「水着写真の付属品にナイフや弓矢をつけて売ったら売り上げが伸びたと、武器屋が大喜びしております」
真一は宝石の入った袋をリサに差し出した。
「武器屋からお礼の献上品だそうです」
「ほう?」
最近は問題も起こらないせいか、リサの吐血も滅多に起こらなくなった。
よって最近のリサは機嫌が良い。
「宝石か。宝石職人を探して、この宝石でネックレスでも造らせてみよう。ちゃんとディルスを支払えば文句も言われない」
宝石職人も儲かって喜ぶに違いない。
「早速探してみます。お気に入りの宝石職人を御用達にすれば宝石が売れるようになり、喜ぶでしょう」
そういうものなのか。
それなら困窮度の高い職人から御用達にするのが良いな。
私は別に宝石などに興味はない。
「新作の水着の試着をお願いいたします。それから防具職人から賄賂が30万ディルス届きましたので、献上いたします」
下からの賄賂を主君に献上して、元手なしに主君のご機嫌を取る。
なんて頭が良いんだ。
俺は・・・。
「この防具職人の防具を私が身につければ良いの?」
「流石はリサ姫。話が分かる」
真一は部下に防具を運び込ませるとリサに献上した。
「水着の上から装着出来る様になっております。多少重いですが我慢してください」
「分かったわ。着替えてくる」
防具を別室へ運ばせるとリサは着替えて真一の前に戻ってきた。
「これで良いの?」
リサが聞いた。
「写真撮りますよ」
真一が写真を撮り始めると、リサは色々なポーズをとり始める。
やがて撮り終えると、リサは防具をはずして椅子に座った。
「お疲れ様です。薬湯をお飲みください」
最近はリサの調子は良いが、病気の治療を怠ると元の木阿弥である。
あまり疲れないうちに薬湯を飲ませるのが一番良い。
薬草はシエルが調合したものだ。
ファンタジー的な効果で、腕の良い薬草士は効き目の良い薬湯を作る事が出来る。
もしかしたら調子がいいのはシエルがいるからかもしれないな。
「執務室に戻って良いの?」
リサが尋ねた。
「銭湯に入ってください。汗まみれは風邪をひきます。シエル様の調合した薬草湯です。そこら辺の温泉より余程効果がある筈です」
この機会にリサの病気の治療を徹底的に行おう。
完治はできなくても、症状を抑える事は可能なようだからな。
「分かったわ。覗きたければ好きにすればいいけど、私は怒るからね?」
リサはそれだけ言うと、最近雇った侍女を引き連れて銭湯へ出向いた。
真一が若干未練のありそうな目でリサを見た。
視線に気付いたシエルが真一に聞く。
「覗きにいかないの?」
リサの屋敷に鉱山収入のミスリル硬貨を届けに来ていたシエルが聞いた。
「俺の故郷では覗きは犯罪だ」
真一は憮然として言い放つ。
この娘。
俺をどんな目で見てやがるんだ?
水着職人などやって大儲けしているが、俺は法律は守る男の心算だ。
決して女好きという訳ではないぞ。
「銭湯は混浴OKだって聞いたよ?」
それは昔の話だ。
「シエル卿。俺は女嫌いなんだ。覗きなど虫唾が走る」
真一は照れ隠しに嘘をついた。
シエルはこの台詞になぜかひどく傷ついたらしい。
酷い言われ方だ。
そんなに嫌なのだろうか。
「前に恋人に手酷い振られ方をされた事があってな」
なら何でリサに献上品をよこしてご機嫌を取るのだ?
シエルは不機嫌そうに押し黙った。
「奴隷から解放してくれた恩人だしな」
シエルの疑問にはそう答えておいた。
「エドワードの姪殿には、平民の恋はわからんだろうがな」
嫌味か?
まあいいがな。
「ところで、その髪染めるの止めたらどうだ?金髪の方があんたは美人だ」
え?
金髪の髪黒く染めてるのばれてる?
「フランス系日本人の母親なんだろ?金髪の方が普通じゃないか?目は青いんだし」
やっぱ日本人には見破られてるな。
「やっぱそう思う?」
シエルは聞いた。
「そうか。それなら染めるの止めようかなぁ」
シエルはこれ以降金髪の美女でまかり通る事になる。
「貴女の水着写真撮影しても良いか?」
できれば金髪のシエルちゃんの水着写真も売り出してみたいんだがな。
水着写真の収入はリサ伯爵領のドル箱ですから。
金髪シエルの水着写真なら、エルザスでは珍しいから売れるに決まってる。
「別に良いけど金髪は嫌だよ」
髪をわざわざ染める位なのだ。
金髪を好んでいる様にあんたには見えるのか?
「絶対売れる」
「この国に金髪美女が少ないのが嫌なのよ。目立つじゃない」
シエルは抵抗するが真一は説得を続ける。
「分かった。金髪は強要しない。残念だが」
「髪染めるのを止めるのは良いけど、写真撮影の時は染めるからね」
それだと困るんだがな。
「分かった。ちゃんと画像処理で黒髪にしてから売り出すから心配するな」
「それなら良いよ」
シエルは納得すると水着に着替えて戻ってきた。
どうせならさっさと撮影してしまおう。
因みにシエルの髪を染めてる染料は特殊な薬剤でおとす事ができる。
「ほう。やはり金髪の方が美しい」
シエルはわざわざ染料をおとしてから真一の前にでてきたらしい。
「約束通りちゃんと画像処理はしといてよね?」
だったら何で金髪にしてからでてくるんだ?
「金髪の私も美しいって、本気で言ってる?」
シエルは真一に聞いた。
その辺が気になるらしい。
「俺は水着職人だぞ。女性の容姿の見立てに嘘は言わん」
シエルの水着写真で幾ら稼いだと思ってるんだ。
俺の故郷じゃこんなに儲からんぞ。
「あんたが絶世の美女なのは間違えない。その辺は安心しろ」
水着職人に誉められばシエルも悪い気はしない。
「では写真を撮影するぞ」
この儲かる副業を真一は喜んでやっていた。
「全く。皇帝の姪がやるようなバイトなのかな?」
その辺は多少思うところがあるが気にしない事にした。
リサ側についた事により、シエルが公爵になれる可能性は皆無になったし。
撮影は順調に進む。
シエルには魔法のロッドを持たせて撮影した。
シエルがやると魔法少女みたいで美しい。
「暗黒魔法と精霊魔法なら使えるけど」
あっそ。
本物の魔法少女なんだ・・・。
でも暗黒魔法使う正義の魔法少女も珍しいよね。
「私の信じる神は邪神よ。蛮族の神様と言うだけで、人に害のある魔法は使わないわ」
昔の邪神教徒は悪さもしたらしいが、最近は改心して善行に励んでいる。
最近は邪神も信者が少なく、大バーゲンセールで信者を勧誘しているのだ。
3つの願い。
エルフ並みの寿命。
カリスマ+4。
5レベルの暗黒魔法がその条件である。
魂の譲渡はしなくても良い。
必ず天国にいける。
これだけの好条件でも偏見が酷く、信者は増えなかったようだ。
「それ日本人でも信者になれるのか?」
真一が馬鹿な事を言った。
シエルはハーフのフランス系日本人である。
母親の血が優先された。
そのシエルが入信できたのである。
真一が入信できない訳がない。
「司祭様を紹介したげてもいいよ?仲間が増えるのは嬉しい」
「生贄とかするのか?」
「金貨5千枚と兎の肉で良いらしいわ」
一口乗った。
俺も入信する。
「司祭様を紹介してくれ。俺も邪神様の信者になる」
そうなれば水着職人のスキルアップが楽にできるかもしれない。
ディルスは腐るほどあるし、容姿と寿命は信者の特権として授与できる。
なら水着職人のスキルアップ位しか、3つの願いの使い道ない。
「世界を支配したいとか思わないの?」
シエルが呆れて聞いてきた。
「どうせこんな大バーゲンな信者獲得しないといけない邪神様に世界征服できる力はないだろう?」
真一は言い切った。
そもそも世界征服など興味ない。
「俺は水着職人だ。この世で最高の水着をリサ姫やあんたや領民に有料で提供するのが仕事なんだ。その力をくれるなら、邪神様の力にもすがろうぞ」
上げ膳据え膳のシエルには、職人の心意気が分からない。
だがなんとなく気に入った。
「司祭様に話してみよう。多分問題なく入信出来る筈よ」
因みに撮影しながらこの2人は話している。
「あんたは3つの願いを何に使ったんだ?」
「叶えられないと言われた。貴方も気を付けた方がいい。叶えられない願いでも、一回分にカウントされてしまうからね」
やはり地道にスキルアップが一番だな。
欲張るとろくな目にあわない。
「上級の大司教になると、悪魔への転職が可能になるわ」
シエルは説明した。
「私の地位は大司祭よ」
ちょっと待て。
それならあんたが直接信者に認定する訳にいかないのか?
「私は教会へは行かないから、正式な大司祭ではないのよ。放浪大司祭。それでも良かったら入信の儀式をするけどそれでもいい?」
「信者の特典は有効なのか?」
真一は聞いた。
「うん。邪神様は心が広いから」
「なら入信しよう。早速5千ディルスと生贄の兎を調達する」
撮影がここで終わり、真一は部下に後を任せると一目散に家に帰った。
邪神への入信の為に、水着ショップ本店は3日ほど休みになる。
暗黒魔法の方がどう考えても実入りが良いと考え、この設定になりました。
魂の譲渡がない邪神の信者なら、誰でもなると思う。
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