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雲雀承葉。
夕暮れは過ぎ、すっかり薄暗くなった外だが、更に一層暗い咲矢間神社の境内に、一人の少女が佇んでいた。
「ヒバちゃん、いくら治安が良いからってこんなところに一人でいたら良くないぞ」佐緒里が声をかける。
「佐緒里……」
「どうしたの、もしかしてリュウちゃんと喧嘩でもしちゃったかな」
「いや、そうじゃなくてさ。あいつ、あいつ、〈留年確定〉なんだよォ……」少女が半べそで答える。
「――――、……そう」佐緒里はただそれだけ返事をすると、少女を優しく抱きしめた。
「大丈夫よ、二人とも同じ学校に居るんだし、ね」
「うん、でもさ、ヤバいよ、一緒に留年のがまだマシだったよ、なんであいつだけ留年なんだよ、冗談きついよ……知ってると思うけどさ、うちの学校三年間クラス替え無しなんだよ。だから安心していられたのにさ、こんなのってないぜ……残酷だよ、オワタだよ、クラスメイトに会話出来るやつなんて、あいつ位しかいなかったのに、よりにもよってかそいつが留年って、どういうこったよ。それにうちのクラスはあたしとあいつとで風紀委員やってたのに、どうすりゃいいか、でもそれじゃダメだろ、解ってる。だからあたしはこの咲矢間神社に来て、孤独に浸ってたんだ」
「いや、最後のそれはちょっと違うんじゃないかな……」
「なんつーか、あたしってこんなどうしようもない奴だったのかって、自己嫌悪だよ。そりゃ、最初の内は学校じゃさ、あいつ、ムカつくやつだったし喧嘩ばっかりだったし、家に帰って来てみりゃ同じアパートだ、マジではらわた煮えくり返りそうになったけど、あいつあたしと同じ漫画とかアニメ好きだって言うじゃんか、そしたら、こんなに話の合うやつだったなんて思わなかったしさ、初めて友達らしい友達ができて嬉しかったさ、あたしは。中学時代からヤンキーぶってるくせにオタクとか、こんなん流行んねえし、人間関係煩わしいしさ、高校は敢えて遠い所選んで、そしたらこうして佐緒里にも会えたし、良かったって思ってるんだ」
「あら、嬉しい」
「だから、女の腐ったみてーにウジウジすんのはもう終わりだ。新入り歓迎の鍋パーティ、行こうじゃないか」少女は、しゃきっとして神社の境内を下って行った。
「そうね、みんなで食べてすっきりしましょう」佐緒里は後をそっとついて行った。
「おいぃいぃい、何もうすっかり打ち解けてるんだよお前は、しかもこんな可愛い娘と。ちゃっかり先に食べだしてるし、肉もだいぶ減って――――ねえだと。おい、何で肉がこんなに残ってるんだ、ちゃんと食べてんのかお前ら」
この人は、食べてても文句言うし、食べてなくても文句言うのか。
「いやお前、だって、俺は肉そんなに食わないし、多分こいつは遠慮してっから、ずっとしめじばっかり食ってるからな」
「え、しめじおいしいですよ」
「お、お、おう、肉、残してくれて、ありがとな」
佐緒里さんが連れて来たもう一人の女の子、先輩は随分と騒がしい人だった。うん、多分ガラが悪いのは舞阪さんじゃなくて、この人なんじゃないだろうか。スミレ色の長髪に、垂れさがる前髪は青いメッシュを入れて、アニメキャラみたいな派手派手具合な人である。まあ、私の銀髪も似たようなものかもしれないけれど。ロック的なものを意識してのカラーなんだろうか。
しかし、口は悪いが、声もハキハキとして良く通る、小気味いいものだ。明朗快活って言うのかな、騒がしくてもあまり不快ではないのだ。それでいて顔立ちも整っていて、実は随分綺麗な人なのである。
「あ、初めまして。朱鷺沢ロゼッタです、よろしくお願いします」
「ん、あたしは雲雀承葉ね」
「佐緒里はヒバちゃん、俺はツグって呼んでる」
「じゃあ、私もツグ先輩で良いですか」
「…………先輩だって。あたしが、先輩って呼ばれた。聞いたか、聞いたかよ柳刀。中学時代なんか一度だって呼ばれなかったのに。なんか感動」
「いや、中学の事は知らん」
「そうか。うん、よろしくねロゼッタ」
「――――――ああ、そうか、俺からしたって先輩じゃねーか。改めてよろしくな、ツグ先輩」
「………………柳刀、お前一発殴らせろや」言葉とは裏腹に満面の笑みである。
「……いや、――意味が解らんのだが」
改めて、ロゼッタ歓迎鍋パーティーが催された。
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