4期ぶりの営業黒字を報告する任天堂の岩田聡社長=今年5月7日、大阪市中央区

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 11日に亡くなった任天堂社長の岩田聡氏は、「天才」とも称されるゲーム開発能力と、奇抜なアイデアを次々と打ち出す発想力を兼ね備えた希有(けう)な経営者だった。

 特に開発を主導した、脳を鍛えるゲーム「脳トレ」や、家庭で手軽にフィットネスができる「Wii(ウィー)フィット」などは、それまでゲームになじみのなかった層にも幅広く浸透。ゲーム人口の拡大に大きく寄与した。

率直な人柄も魅了…“誤算”は開拓したゲーム人口がスマホに…

 「性能を追い求めるだけでは、ゲームの市場は縮小に向かってしまう。興味のない人に、いかに遊んでもらうかが重要だ」

 岩田氏は、経営判断をする際、この理念を常に念頭に置いていた。

 任天堂の社長に就任した平成14(2002)年当時は、ソニーのプレイステーション陣営に逆転を許す苦しい時期に陥り、再逆転の秘策を迫られていた。

 そのため岩田氏がこだわったのがアイデアだった。

 「性能を極めたゲーム機を出したい」とする社内の開発者を説得し、16年には2画面とタッチパネル式液晶を搭載した携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、18年にはリモコン式コントローラーを採用した据え置き型ゲーム機「Wii」と、従来の常識を覆すゲーム機を相次いで発売した。

 両ゲーム機は、人気タレントを使った効果的なテレビCMもあり、熱心にゲームで遊ぶ「ゲーマー」だけでなく、女性を含む幅広い層も獲得。当初想定を大きく上回る記録的なヒットとなった。

 新製品開発では、常に先頭に立って社内を主導。記者発表会などでは必ず自ら出席し、自分の言葉で思いを語った。数年前からは、インターネットの動画配信による発表会を定期的に開催。動画から伝わる率直な人柄が、ゲームファンに愛されてきた。

 最近では、岩田氏が開拓した層がスマートフォン向けゲームに流れる誤算もあり、今年3月には、ソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エー(DeNA)と資本業務提携を発表。スマホ向けゲームへの参入を目指していた。

 新型ゲーム機「NX」を開発していることも明らかにし、「億単位の人に楽しんでもらうことを目指す」と語るなど、巻き返しに意欲をみせていた矢先の訃報だった。