2015-07-13 弱者を追い詰めて爆発させる愚
8月 8日にソーシャルブックリーディング(みんなで同じ本を読んで、ツイッターで感想を共有し合うイベント 。詳しくはこちらら ) を行うので、課題図書の『昭和史 1926-1945 』を再読してます。
昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)posted with amazlet at 15.05.23半藤 一利
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今、安倍政権が安保関連法制を大きく変えようとしてるため、「戦争前の日本と全く同じだ」みたいに言う人がいるけど、『昭和史』を読めば読むほど、そんな感じはしなくなる。
むしろ、すごく似ていると思えるのは別の国の状況と当時の日本です。
たとえばギリシャ。
彼らは既に 4年以上も緊縮財政を余儀なくされてる。
2010年、前政権の粉飾決算が明らかになって財政危機に陥った時、EU や IMF に助けてもらう条件として、年金など福祉施策をカットし、一方で税金を上げ、その後もずっとギリシャは緊縮財政を続けてる。
既に単年度の基礎収支は黒字になってる(ちなみに日本はもちろん赤字)わけだから、彼らだって相当程度、支出を絞ってきたわけです。何も努力をしてないわけじゃない。苦しい生活を借金返済のため我慢してきた。
そんな状態が何年も続いて、国民はもういい加減、疲れ切ってる。
ところが巨額すぎる借金はそれでも返せない。で、当然のように EU は更なる緊縮財政を求めてきた。
「これ以上どーしろというわけ?」ってのが、ギリシャの人の素直な心情でしょう。しかも国際社会にギリシャに理解を示す国はひとつもない。
今やギリシャの人は追い詰められて、国際不信になってる。
「もうどうなってもいいから、ノーと言うべきだ!」と考える人が出てきても不思議じゃない。
そんな国民の気持ちを代弁して、あんな首相が選ばれた。
この状況こそ、戦前の日本に近いと思う。
↓
・力も無いのに背伸びした
・そしたら、強い国からアレコレこずかれた
・なんなんだよ!と反発したら、次々と経済的な制約を課された
・生活がどんどん厳しくなる
・自国の政権は国際交渉に疎く、上手く状況を打開できない
・国民は生活に疲れ始める
・国民は次第に、国際社会がみんなで自国を「いじめている」と感じ始める
・こんな大変な生活が続くなら、いっそ(国連を)脱退して、自分たちで好きにやろうぜ!と考え始める
・そんな勇ましい主張をする政権に、国民の支持が集まり始める。
・いよいよせっぱつまって無茶をやる(パールハーバー)
そっくりでしょ?
反対に、今の日本なんて戦前の日本とは全く似てない。
安保法制の反対デモがやりたければ普通にやれるし、テレビで大声で反対しても、命の危険を感じることはない。
当時(戦前)の日本では、政治家の暗殺が頻発してた。
「アメリカと戦争するなんてあり得ない」「イギリスと仲良くするべきだ」「中国と戦争なんてしたらあかん」と、しごく全うなコトを言っていた人達はたくさんいたのに、彼らは次々と起こる要人の暗殺事件に震え上がる。
これ以上戦争に反対し続けてたら、自分もいつ、青年将校が家に押し入ってきて惨殺されるかわからない。
だからみんな次々と政界を引退して、モノを言わなくなった。
もし今、暗殺までいかなくても、デモを組織してる人や、メディアで安保法制反対を唱える人達が、狙われたかのように次々と税務調査を受けたり、微罪の別件で逮捕され始めたら、それこそ「戦前と同じだ!」と思える。
でもそうはなってないでしょ。
みんな楽しくデモをやってられるうちは、「戦前と同じ空気だ!」ってのは言い過ぎなんじゃないかと思う。
★★★
それより寧ろ、ロシアや中国の状況に、当時の日本と同じような傾向を感じます。
冷戦が終わった後、ロシアとアメリカの関係は一時、すばらしく改善した。でもウクライナを見る限り、ここに来て再び完全な対立構造に戻り始めてる。
最大の理由は、ロシアの周辺にある「元・親ロシア国」が続々と西側に取り込まれつつあるからでしょう。
冷戦の時、ヨーロッパ側には東ドイツ、ポーランドやチェコやスロバキア、そしてエストニア、ラトビア、リトアニアなど親ロシア国がたくさんあって、西側の西ドイツやオーストリアと国境を接してた。
ところが今やこれらの国は軒並みアメリカの軍事同盟である NATO の一員になってしまった。ロシアにしてみれば、自国のすぐ近くまでアメリカの軍隊が迫ってると見える。
もちろんそれらの国がロシアよりアメリカを選んだ背景には、ロシアの自業自得的な要因も大きい。彼らは「アメリカと仲良くするほうが未来が明るい!」と感じたからこそ NATO に入ることを選んだ。
とはいえ、アメリカがこれらの地域に“戦略的に”寛容な対応をとり、お金の魅力をちらつかせて、親西欧の世論を盛り上げるために何の工作もしなかったか、といえば、やっぱりそれも「そうじゃない」でしょう。
経済支援をしたいなら支援だけすればいい。東西の中間地帯にある国を、軍事同盟である NATO に入らせる必要なんて全くないんだよね。
そんなことしたらロシアが激怒するとわかってて、敢えてそこまで踏み込むアメリカの行動は、明らかに“意識的”だし“意図的”だ。
そしてここに来て、ウクライナにまで親西欧政権が成立した。
この裏にも、資金源として西側諸国(特にアメリカ)の支援があると見たロシアはいよいよ怒りが爆発した。
これ、「満州を返せ」と言われた当時の日本によく似てる。
満州は当時の日本にとっては生命線だった。「ここを手放せば許してやる」と言われても、それは「とうてい飲めない条件だ」と日本は感じた。
ロシアにとってのウクライナも、まさにそういう土地なんだよね。
エネルギー収入が国を支えてるロシアにとって、それを輸出するための主要なパイプラインが敷かれたウクライナは、文字通り生命線といえる。
ここに手を出したら、最終的な対立は避けられない。
それを十分にわかってて、それでもアメリカはウクライナの親西欧政権を支援する。当時、中国で反日抵抗勢力を支援し続けたように。
中国だって「アメリカは世界中で好き勝手してる。シェールガス開発が始まる前は石油利権のために、「大量化学兵器がある」などの嘘まででっちあげ、他国に爆弾を落としまくった。それなのに俺たちが自分の国の近くの海を埋め立てて、何が悪い?」って思ってる。
北朝鮮も「なんでアメリカは原爆を持ってていいのに、俺たちはあかんの? あんたら何様?」って思ってる。
当時の日本が、ワシントン海軍軍縮条約やロンドン軍縮会議で決められた軍備の比率に「なんで俺たちが、英米と同じだけの軍備をもったらあかんの? あんたら何様?」と反発したように。
★★★
確かにギリシャは(国家財政の粉飾などという)考えられないほどアホなコトをしたし、今やリーダーまでめちゃなコトを言い出して国際社会を呆れさせてる。
それでも、疲弊しまくってる国と国民を追い詰めて、爆発するまで容赦なく追い詰めたら、国際社会がトクすることはひとつもない。
ギリシャの首相が(松岡洋右のように!)席を蹴って ユーロ脱退を宣言し、国際的に孤立を深めてニッチもサッチも行かなくなったところに中国が「資金援助しますよ」とすり寄ってきて、あそこが「親中国の非 EU 国」になってしまっても、ドイツはそれでいいと思ってるの?
歴史の本を読むのは、ホントに役に立つ。
メルケルさんにもお勧めしたいよ。
↓
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昭和史 戦後篇 1945-1989 (平凡社ライブラリー)posted with amazlet at 15.06.01半藤 一利
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そんじゃーね
上記エントリの下の方に、私の個人的な読書メモを公開しています。