コラム:中国の公的介入が導く「株式市場の死」=武者陵司氏
その意味で、中国要因が短期的に日本株の地合いをさらに著しく悪化させたり、ただちに日本経済の失速を招いたりすることはないと考える。一部には、中国株安に伴う損失を日本株売却で穴埋めしようとする動きがあり、今後も続くとの見方もあるが、それは違うだろう。8日以降の日本株下落を主導したのは投機筋であり、先ほど述べた通り、中国株式市場は世界の金融市場から事実上隔絶されているので、中国株が下がっても、益出しのための大規模な他国株売却は起こらないと思う。
また、株のバブル崩壊は、ただちに経済の収縮に結びつくものではない。例えば、1990年にバブルが崩壊した日本がマイナス成長に陥ったのは3年後のことだ。ましてや中国は政府の指令ひとつで、いくらでも需要を作れる経済システムを採用している。その意味で、中国に関する短期的な市場リスクをあまり過大に考える必要はないと思う。むしろ日本株への短期的リスクは、ギリシャ問題の方が大きいのではないだろうか。
あえて懸念をひとつ挙げれば、中国の市場は世界から事実上隔絶されているとはいえ、ある穴を通して、同国の困難が外にリークアウト(漏出)する可能性は本当にないのかどうかだ。恐らく、その穴があるとすれば香港経由となろう。
対内直接投資を見れば、中国へのマネー流入を支えているのが香港であることは明白だ。特に2008年のリーマンショック後にその傾向は強まり、2014年には全体の流入額の7割強を占めている。投資主体が香港人なのか、香港経由で再投資をしている中国本土居住者なのか、それとも台湾人かシンガポール人なのかは不明だ。また、さまざまなチャンネルを通してグローバルな金融機関が中国に貸し付けている債権もあろう。
こうした債権の毀損状況によっては、中国の困難がグローバルに伝播することもあり得るのかもしれない。「蟻(アリ)の一穴」という言葉もある。香港経由のマネーの流れには特に注意が必要だろう。
*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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